僕の前世はたぶんオランダ人。

おもしろきこともなき世をおもしろく

一瞬の風になれ(佐藤多佳子)

2025年01月17日 | よむ

2007年の本屋大賞、吉川英治文学新人賞ダブル受賞作。
調べてみたらこの辺りのダブル受賞作って結構多いんだな。
あと直木賞も。
この年になって青春小説を読むのは
いかがなものかと思いつつも
長年放置してきたつけが回ったということにして手に取ってみる。
アクシデント→ドロップアウト→復活という
王道中の王道を踏襲しつつ
目頭を熱くすることなくページをめくることは難しい快作!
2025年現在、3部構成での本屋大賞はこの作品のみ。
サクサク読み飛ばせる作風が受賞することが多い中で
この分厚さは異例中の異例。
ずっしりとした読み応え。
神奈川県央部の高校陸上部が舞台となっており
学年ごとに巻でまとめられているのも読みやすい。
また、「100m走」に対する分析、解説も重厚なものがあり
文字通り「一瞬の風」になるための長きにわたる努力と
10秒間に凝縮された技術や戦略というものは
かく深いものであったかと
感嘆の声をもらしてしまうほど。
がむしゃらに進む1年、成長の2年、
部長として全体をまとめる3年。
第3巻では部長としての成長も描こうとする余り
登場人物が増えてしまい、
その一人一人を掘り下げるのにページを割けなかったのが残念。
その代わり2年次で描かれるガッタガタに大ブレする葛藤と成長は
最高に読みごたえがある。
実際の学生生活もそうだと思うが
2年の後半が一番おもしろい。
身近な神奈川県央部が舞台になっている点も見逃せない。
この本を読んだうえで100m走や400mをリレーをみるのと
単純なかけっことしてみるのとでは
全く違う競技と言い切れるほど雲泥の差がある。
良質な陸上競技ガイドブックとしてもおすすめである。

十角館の殺人(綾辻行人)

2025年01月11日 | よむ

図書館で夏に予約した推理小説が
半年経ってようやく届いた。
30人近い待ち人数だった気がする。
ミステリーファンでもなくても
読書家であればなんとなく耳にはしたことあるはず。
『十角館』。
1987年のデビュー作で
この作品は当時の文壇を
ガラリと変えるほどの
エポックメイキングの作品で
新本格ミステリーなる言葉まで生まれて
横溝正史や江戸川乱歩のような
重厚な積年の恨みや祟りといった呪縛から解放され
かるーい本格派?
みたいなカテゴリーの草分けとなったのだとか。
なるほどねー。
土着の文化や土地の背景まで楽しみたい派なので
K大学やO市といった表現は好きじゃないけど
なるほどねー。
宮部みゆきの『火車』や
東野圭吾の『白夜行』のように
犯人の自白のないものは好きだが
犯人が警察に追われて
崖の上でペラペラと自分語りをするような
ミステリーは現実味に欠けるため嫌い。
そういう意味では悪くない構成だが
「映像化不可能」と言われた十角館を年末に三夜連続でやるんだって!
というネタバレに等しい一言を小耳にはさんでしまい
随分と興をそがれてしまったのは
いうまでもありません。
この一言さえなく予備知識ゼロで本に向き合えたら
印象が全然変わっただろうなぁ!
実に惜しい!

しゃべれどもしゃべれども(佐藤多佳子)

2024年12月29日 | よむ
ひさびさに読みやすい良作にあたった!
2007年本屋大賞の「一瞬の風になれ」
はまだ未読だが
同作家さんの1997年作品を発見。
駆け出しの噺家さんの奮闘ぶりを
疾走感あふれる文体で
生き生きと描写。
三者三様クセだらけのコミュ障どもを
短気で手の早い江戸っ子がまとめあげながら
自らも成長してく姿と
時に悩み時に立ち止まりながら指導し
教え子に学ぶ奮闘ぶりは
胸をうつし
何よりも意外なことに
数人の少人数ながら
人をまとめていかないとならない
中間管理職として苦悩を理解できる部分があって
参考にはならないけど共感できるところが大きい。
ただ一つ言いたいのは
実写化の国分太一と加里奈は
ちょっと違うと思うぞ!
目標としている
「都内に勤めているうちに寄席をみる」
を実現しなければいかんな。

鎮魂(染井為人)

2024年12月16日 | よむ
2017年デビュー作の悪い夏
以来の染井為人。
別に好きなわけでなく
勝手に貸し付けてくる先輩がいるだけ。
完全に関東連合の話・・・。
取材量がすごいのか
ネットに転がる話を繋げただけなのか。
実話ナックルとかそっち系の話が好きなら
面白いと思う。
事実は小説よりも希なり。
の事実をさらに小説にした
ポスト団塊世代のアンダーグラウンドな暴力の話。

成瀬は天下を取りにいく(宮島未奈)

2024年11月23日 | よむ

この1年街を歩けば
至るところで目にした
埼玉西武ライオンズユニに身を包み
鼻を啜って正面を見据える
セミロングの横顔の少女の
このインパクト大のイラスト。
絶対に読むまいと手に取らなかった
2024年本屋大賞。
やたらと評価が高くいたる賞を総なめにしているそう。
書き下ろしを中心とした連作短編集で
主人公の成瀬の10代を描いてゆくが
毎回新たな登場人物がでてくる割に
そっと通り過ぎてゆくだけで
連作にありがちな伏線の回収が一切なされない笑。
いや、続編があるらしいので
まだ壮大な回収は期待できるか。
しかし万能でADHDな言動に
爽快感を感じるのは難しく、
まぁ小難しいことは抜きにして
場面場面を楽しむにはよいような一冊。
こういう本が評価をうけるというのも
多様性やコロナを経た人間関係の
時世の一つなのかなぁ。