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2007年の本屋大賞、吉川英治文学新人賞ダブル受賞作。
調べてみたらこの辺りのダブル受賞作って結構多いんだな。
あと直木賞も。
この年になって青春小説を読むのは
いかがなものかと思いつつも
長年放置してきたつけが回ったということにして手に取ってみる。
アクシデント→ドロップアウト→復活という
王道中の王道を踏襲しつつ
目頭を熱くすることなくページをめくることは難しい快作!
2025年現在、3部構成での本屋大賞はこの作品のみ。
サクサク読み飛ばせる作風が受賞することが多い中で
この分厚さは異例中の異例。
ずっしりとした読み応え。
神奈川県央部の高校陸上部が舞台となっており
学年ごとに巻でまとめられているのも読みやすい。
また、「100m走」に対する分析、解説も重厚なものがあり
文字通り「一瞬の風」になるための長きにわたる努力と
10秒間に凝縮された技術や戦略というものは
かく深いものであったかと
感嘆の声をもらしてしまうほど。
がむしゃらに進む1年、成長の2年、
部長として全体をまとめる3年。
第3巻では部長としての成長も描こうとする余り
登場人物が増えてしまい、
その一人一人を掘り下げるのにページを割けなかったのが残念。
その代わり2年次で描かれるガッタガタに大ブレする葛藤と成長は
最高に読みごたえがある。
実際の学生生活もそうだと思うが
2年の後半が一番おもしろい。
身近な神奈川県央部が舞台になっている点も見逃せない。
この本を読んだうえで100m走や400mをリレーをみるのと
単純なかけっことしてみるのとでは
全く違う競技と言い切れるほど雲泥の差がある。
良質な陸上競技ガイドブックとしてもおすすめである。