かつての職場の同期の集まりがあって高輪コミュニティーぷらざ内にあるキフキフという店を4人ということで予約した。数ヶ月に一度の割合での寄り合いなのだが、この4人が中核メンバーで、時に応じて増えたり減ったりする。今日は実際に集まったのが2人になってしまった。
18時集合だったので、早めに家を出て美術館のひとつでも寄って行こうかと考えた。ところが、家の中の細々としたことをしているうちに中途半端な時間になってしまったので、少し遠回りをして出かけることにした。15時半頃、家を出た。
高輪コミュニティぷらざは地下鉄の白金高輪駅の上にある。巣鴨から白金高輪までは都営三田線を利用すれば乗り換えなしで乗車時間は25分である。家を出て、巣鴨駅とは逆方向へ向かって歩き出す。少し小腹が空いていたので飛安でたい焼きでも買って、食べながら歩こうと思っていたら、今日は地蔵通りの人出が多いため焼けるまで待たなければならない状況だった。たい焼きは諦めて、そのまま都電の庚申塚駅へ向かう。都電で雑司ヶ谷へ行き、そこで地下鉄副都心線に乗り換えて渋谷へ出るつもりだった。
都電の線路は起伏に富んでいる。乗っているとそれほど気付かないのだが、庚申塚から大塚へ向かって緩やかに下り、大塚を底にして上りに転じ、東池袋4丁目からは再び下りになり、それが神田川まで続く。あとは神田川に沿って終点の早稲田に至る。
東池袋4丁目の次が都電雑司ヶ谷である。単に「雑司ヶ谷」というのではなく頭に「都電」が付いていることに要注意だ。都電雑司ヶ谷と地下鉄副都心線の雑司ヶ谷とはかなり距離がある。地下鉄の駅の上にあるのは都電の鬼子母神前駅である。地下鉄のほうが都電の遥か後に竣工しているのだから、先にある都電の駅名に合わせて地下鉄の駅も「鬼子母神前」とか「鬼子母神下」というようにすればよさそうなものだが、どうしてこのようなことになるのだろうか。
実は、私は「雑司ヶ谷で乗り換える」という頭があったので、都電を都電雑司ヶ谷で下車してしまったのである。下車する直前に次の鬼子母神前で降りたほうが便利であることに気付いたのだが、せっかく下車の合図のブザーを押してしまったので、そのまま降りてしまった。雑司ヶ谷の駅から線路を渡って明治通り方面へ向くと目の前に駐車場が広がる。最終的には他の用途に使われるのだろうが、とりあえず駐車場にしてあるという風情だ。その駐車場の一角にぽつんと蔵が建っている。その風景が妙だったので近くに行って嘗め回すように眺めてみる。何枚か写真も撮る。この付近に限らず、都電沿線、殊に春日通りを渡って目白通りに至るまでの間は地上げしたような空き地が点々と続いている。その空き地が、都電雑司ヶ谷から鬼子母神にかけて、水道工事の現場に変わる。
都電というと路面電車という印象が強く、文字通り路面あるいはそれに準ずる土地を走行するものと思い込んでいたが、雑司ヶ谷から鬼子母神にかけて線路面が土手のように高くなる箇所があり、線路の下を道路が走る現場に出くわした。こんな場所があったのかと、ガード上を走る都電をカメラに収める。
鬼子母神の駅前にReelsというカフェがある。巣鴨でたい焼きを食べ損なったので、ここで一服することにした。カウンターにサイフォンが並び、店の片隅にダッチコーヒー用の大きなサイフォンが2台。豆は自家焙煎。本格的なカフェなのだが、店名が示すように釣具であるリールも販売している。どちらも扱う人のこだわりを感じさせるものだ。初めて入る店なので、ハウスブレンドをいただいたが、深めに煎られた豆を使い、香り・ボディ・苦味のバランスのよい味だ。コーヒーと一緒に注文したはちみつのパウンドケーキも風味豊かで美味しい。美味しいときは店の人にいろいろ尋ねたいことが湧き起こる。サイフォンを使うのは、一人で店をやっているときに複数の客が来て各自別々の注文をした場合でも、待ち時間を最小限にとどめつつそれなりの味のものを提供する最良の方法だと考えるからだそうだ。ハンドドリップだと一杯7分は必要なので例えば3人の客が別々のものを注文すれば、3番目のコーヒーができあがるのは一杯目を淹れ始めてから21分後になるが、サイフォンを複数用意すれば3人分同時進行で抽出ができる。ダッチコーヒーは営業時間外、主に夜に仕込むのだそうだ。これからアイスコーヒーが美味しい季節になるので私もダッチではないが、水出しコーヒーを作るが、それでも8時間は必要だ。もっといろいろ尋ねてみたいことがあったが、客が次から次へと来てしまったので、この程度のことしか聞けなかった。
せっかく鬼子母神前というところに来たので、初めて鬼子母神も訪れてみた。ちょうど境内で子供たちの相撲大会が終わったところで表彰式をやっていた。境内自体は特にどうということはないのだが、参道の風景が面白い。欅並木なのだが、その欅がどれも大木だ。数えることができる程度の本数なのだが、これほどの大木が並んだ姿は壮観で、その上、この通りには個性的な建物が並んでいる。そうしたひとつひとつの建物を眺めるのも楽しい。通りは石畳で、緑のトンネルのような風情なのに歩行者専用ではなくて、一方通行ながらも時折自動車がそろそろと通り抜けるのも生活感があって良い。この通りから路地に入ったところに手塚治虫が1954年から57年にかけて住んでいた並木ハウスというアパートが今でもある。時々、東京R不動産に空家の広告が出ていたりするので、その存在は知っていたのだが、こうして目の当たりにすると骨董品を眺めるような気分がしなくもない。参道に面して並木ハウス別館というものもある。2階建てで通りに面した1階部分には営業はしていないけれど人が住んでいる風、カフェ、営業していないところ、板金業者と4つの区画がある。参道に面した部分はファザードが新しいものになっているが、裏に回ると杉板を貼り並べた昭和風の外観だ。新しくしたファザードもデザイン自体は従来のものを踏襲しているのだそうだ。
鬼子母神を後にして、都電と目白通りが交差する目白通り千登世橋の上で立ち止まり、周囲の風景を十分に眺め回してから、目白通りに面した地下鉄雑司ヶ谷駅入り口に入る。
新しい地下鉄は既存の地下構造物の下に建設されるので、自ずと駅は地下深いところになる。それでもこの駅は副都心線のなかでは浅いほうではないだろうか。土曜の夕方、電車の本数は都心の地下鉄にしては少なく感じられるが、駅構内は閑散としていて、7分ほど待った末に到着した渋谷行きの電車も空席が目立っていた。渋谷駅に着いて妙に感じたのは、案内表示である。東急や地下鉄銀座線と半蔵門線方面への乗り換えは文字が大きくてわかりやすいのに、JRの文字は何故か小さくてわかりにくい。これはどういうことなのだろうか。
渋谷から山手線で目黒に行き、そこから地下鉄で白金高輪に出る。かなり時間に余裕があるつもりだったが、キフキフに着いたのは18時ちょうどくらいだった。
今日は当初4人の予定だったが、当初から1人は親の介護の関係で参加の可能性が低い状態で、別の1人が体調不良で欠席となり半分の2人になった。まず生ビールをいただき、おまかせコースをお願いし、コースのなかの魚料理(ホタテと野菜とバジルのグリル)に合わせて白のグラスワイン、肉料理(鴨のグリル、赤ワインソース添え)に合わせて赤のグラスワイン(こちらのワインは相方のみで、私はパス)をいただき、3時間近く料理と酒と会話を堪能する。私は付き合い程度にしか酒は飲まないのだが、これら三拍子が揃うというのは、そう頻繁にあることではない。会話の内容は年齢に応じてシビアなこともそれなりに織り込まれるのだが、そういうことも含めて、楽しい時間を持つことができるというのは有り難いことである。
キフキフを夜に利用するのは今回が初めてだが、久しぶりに原さんの料理をいただくことができたのも嬉しいことだ。店の営業時間と自分の生活時間とがうまくかみ合わないので、ちょくちょくお邪魔するわけにはいかないのだが、もう少し頻繁に利用できるようなことを考えてみたい。
生活を刷新して2年8ヶ月、帰国して1年5ヶ月、ようやく最近になっていろいろある自分の生活の歯車の一部が噛み合い始めたような心持がするようになった。
18時集合だったので、早めに家を出て美術館のひとつでも寄って行こうかと考えた。ところが、家の中の細々としたことをしているうちに中途半端な時間になってしまったので、少し遠回りをして出かけることにした。15時半頃、家を出た。
高輪コミュニティぷらざは地下鉄の白金高輪駅の上にある。巣鴨から白金高輪までは都営三田線を利用すれば乗り換えなしで乗車時間は25分である。家を出て、巣鴨駅とは逆方向へ向かって歩き出す。少し小腹が空いていたので飛安でたい焼きでも買って、食べながら歩こうと思っていたら、今日は地蔵通りの人出が多いため焼けるまで待たなければならない状況だった。たい焼きは諦めて、そのまま都電の庚申塚駅へ向かう。都電で雑司ヶ谷へ行き、そこで地下鉄副都心線に乗り換えて渋谷へ出るつもりだった。
都電の線路は起伏に富んでいる。乗っているとそれほど気付かないのだが、庚申塚から大塚へ向かって緩やかに下り、大塚を底にして上りに転じ、東池袋4丁目からは再び下りになり、それが神田川まで続く。あとは神田川に沿って終点の早稲田に至る。
東池袋4丁目の次が都電雑司ヶ谷である。単に「雑司ヶ谷」というのではなく頭に「都電」が付いていることに要注意だ。都電雑司ヶ谷と地下鉄副都心線の雑司ヶ谷とはかなり距離がある。地下鉄の駅の上にあるのは都電の鬼子母神前駅である。地下鉄のほうが都電の遥か後に竣工しているのだから、先にある都電の駅名に合わせて地下鉄の駅も「鬼子母神前」とか「鬼子母神下」というようにすればよさそうなものだが、どうしてこのようなことになるのだろうか。
実は、私は「雑司ヶ谷で乗り換える」という頭があったので、都電を都電雑司ヶ谷で下車してしまったのである。下車する直前に次の鬼子母神前で降りたほうが便利であることに気付いたのだが、せっかく下車の合図のブザーを押してしまったので、そのまま降りてしまった。雑司ヶ谷の駅から線路を渡って明治通り方面へ向くと目の前に駐車場が広がる。最終的には他の用途に使われるのだろうが、とりあえず駐車場にしてあるという風情だ。その駐車場の一角にぽつんと蔵が建っている。その風景が妙だったので近くに行って嘗め回すように眺めてみる。何枚か写真も撮る。この付近に限らず、都電沿線、殊に春日通りを渡って目白通りに至るまでの間は地上げしたような空き地が点々と続いている。その空き地が、都電雑司ヶ谷から鬼子母神にかけて、水道工事の現場に変わる。
都電というと路面電車という印象が強く、文字通り路面あるいはそれに準ずる土地を走行するものと思い込んでいたが、雑司ヶ谷から鬼子母神にかけて線路面が土手のように高くなる箇所があり、線路の下を道路が走る現場に出くわした。こんな場所があったのかと、ガード上を走る都電をカメラに収める。
鬼子母神の駅前にReelsというカフェがある。巣鴨でたい焼きを食べ損なったので、ここで一服することにした。カウンターにサイフォンが並び、店の片隅にダッチコーヒー用の大きなサイフォンが2台。豆は自家焙煎。本格的なカフェなのだが、店名が示すように釣具であるリールも販売している。どちらも扱う人のこだわりを感じさせるものだ。初めて入る店なので、ハウスブレンドをいただいたが、深めに煎られた豆を使い、香り・ボディ・苦味のバランスのよい味だ。コーヒーと一緒に注文したはちみつのパウンドケーキも風味豊かで美味しい。美味しいときは店の人にいろいろ尋ねたいことが湧き起こる。サイフォンを使うのは、一人で店をやっているときに複数の客が来て各自別々の注文をした場合でも、待ち時間を最小限にとどめつつそれなりの味のものを提供する最良の方法だと考えるからだそうだ。ハンドドリップだと一杯7分は必要なので例えば3人の客が別々のものを注文すれば、3番目のコーヒーができあがるのは一杯目を淹れ始めてから21分後になるが、サイフォンを複数用意すれば3人分同時進行で抽出ができる。ダッチコーヒーは営業時間外、主に夜に仕込むのだそうだ。これからアイスコーヒーが美味しい季節になるので私もダッチではないが、水出しコーヒーを作るが、それでも8時間は必要だ。もっといろいろ尋ねてみたいことがあったが、客が次から次へと来てしまったので、この程度のことしか聞けなかった。
せっかく鬼子母神前というところに来たので、初めて鬼子母神も訪れてみた。ちょうど境内で子供たちの相撲大会が終わったところで表彰式をやっていた。境内自体は特にどうということはないのだが、参道の風景が面白い。欅並木なのだが、その欅がどれも大木だ。数えることができる程度の本数なのだが、これほどの大木が並んだ姿は壮観で、その上、この通りには個性的な建物が並んでいる。そうしたひとつひとつの建物を眺めるのも楽しい。通りは石畳で、緑のトンネルのような風情なのに歩行者専用ではなくて、一方通行ながらも時折自動車がそろそろと通り抜けるのも生活感があって良い。この通りから路地に入ったところに手塚治虫が1954年から57年にかけて住んでいた並木ハウスというアパートが今でもある。時々、東京R不動産に空家の広告が出ていたりするので、その存在は知っていたのだが、こうして目の当たりにすると骨董品を眺めるような気分がしなくもない。参道に面して並木ハウス別館というものもある。2階建てで通りに面した1階部分には営業はしていないけれど人が住んでいる風、カフェ、営業していないところ、板金業者と4つの区画がある。参道に面した部分はファザードが新しいものになっているが、裏に回ると杉板を貼り並べた昭和風の外観だ。新しくしたファザードもデザイン自体は従来のものを踏襲しているのだそうだ。
鬼子母神を後にして、都電と目白通りが交差する目白通り千登世橋の上で立ち止まり、周囲の風景を十分に眺め回してから、目白通りに面した地下鉄雑司ヶ谷駅入り口に入る。
新しい地下鉄は既存の地下構造物の下に建設されるので、自ずと駅は地下深いところになる。それでもこの駅は副都心線のなかでは浅いほうではないだろうか。土曜の夕方、電車の本数は都心の地下鉄にしては少なく感じられるが、駅構内は閑散としていて、7分ほど待った末に到着した渋谷行きの電車も空席が目立っていた。渋谷駅に着いて妙に感じたのは、案内表示である。東急や地下鉄銀座線と半蔵門線方面への乗り換えは文字が大きくてわかりやすいのに、JRの文字は何故か小さくてわかりにくい。これはどういうことなのだろうか。
渋谷から山手線で目黒に行き、そこから地下鉄で白金高輪に出る。かなり時間に余裕があるつもりだったが、キフキフに着いたのは18時ちょうどくらいだった。
今日は当初4人の予定だったが、当初から1人は親の介護の関係で参加の可能性が低い状態で、別の1人が体調不良で欠席となり半分の2人になった。まず生ビールをいただき、おまかせコースをお願いし、コースのなかの魚料理(ホタテと野菜とバジルのグリル)に合わせて白のグラスワイン、肉料理(鴨のグリル、赤ワインソース添え)に合わせて赤のグラスワイン(こちらのワインは相方のみで、私はパス)をいただき、3時間近く料理と酒と会話を堪能する。私は付き合い程度にしか酒は飲まないのだが、これら三拍子が揃うというのは、そう頻繁にあることではない。会話の内容は年齢に応じてシビアなこともそれなりに織り込まれるのだが、そういうことも含めて、楽しい時間を持つことができるというのは有り難いことである。
キフキフを夜に利用するのは今回が初めてだが、久しぶりに原さんの料理をいただくことができたのも嬉しいことだ。店の営業時間と自分の生活時間とがうまくかみ合わないので、ちょくちょくお邪魔するわけにはいかないのだが、もう少し頻繁に利用できるようなことを考えてみたい。
生活を刷新して2年8ヶ月、帰国して1年5ヶ月、ようやく最近になっていろいろある自分の生活の歯車の一部が噛み合い始めたような心持がするようになった。