熊本熊的日常

日常生活についての雑記

高名の木登り

2010年06月09日 | Weblog
高名の木登りといひし男、人を掟てて、高き木に登せて、梢を切らせしに、いと危く見えしほどは言ふ事もなくて、降るゝ時に、軒長ばかりに成りて、「あやまちすな。心して降りよ」と言葉をかけ侍りしを、「かばかりになりては、飛び降るとも降りなん。如何にかく言ふぞ」と申し侍りしかば、「その事に候ふ。目くるめき、枝危きほどは、己れが恐れ侍れば、申さず。あやまちは、安き所に成りて、必ず仕る事に候ふ」と言う。
あやしき下なれども、聖人の戒めにかなへり。鞠も、難き所を蹴出して後、安く思へば必ず落つと侍るやらん。
(「徒然草」第百九段 岩波文庫 第114刷 2007年11月26日発行)

木工で製作中のレターケースが漸く完成間近となった。最後は全体にオイルを塗る。今日はその下準備である。全体に紙やすりをかける。使用する際に手が触れる可能性のあるところはすべて磨いたつもりだ。圧縮空気で研磨屑を吹き払い、塗装前のマスキングを行う。家具の塗装というのは手間賃が高いのだそうだが、それは下準備に時間がかかるという事情も大きいらしい。完成目前でつい気が急くのだが、それを抑えつつ慎重にマスキングを進める。結局、今日は研磨とマスキングで終わった。来週は木工教室が休講なので、次回の作業は再来週である。オイル塗装の後、裏板を嵌めて、全体が乾燥すれば完成だ。おそらく次回で作業は完了するだろう。乾燥させるのに時間がかかるので持ち帰りは更にその次、6月30日になりそうだ。終わりが見えたところから緊張を持続させるのは容易ではない。「あやまちすな。心して降りよ」と自分に言い聞かせる。