熊本熊的日常

日常生活についての雑記

夏至に最果て

2010年06月21日 | Weblog
昨年の夏至は稚内、一昨年はSt Ivesと最果ての地で過ごしたのだが、今年は何事も無く東京で過ごしている。一応、出かける先の候補は考えたのだが、月初に京都へ出かけたこともあり、遊んでばかりもいられないので、こうしておとなしくしていることにしたのである。その候補地というのは青森県、なかでも下北半島だった。

下北半島の最北端、大間へは行ったことがないのだが、半島の半ばにある六ヶ所村へは仕事で出かけたことがあるので、未踏の地ではないということも今回出かけるのを見送った理由のひとつである。ただ、下北半島に限らず、青森県というのはなかなか興味深い土地であるのは確かだ。

私は青森県で暮らしたことが無いので、あくまでも想像と通りすがりの目線でしかないのだが、北国の厳しい冬という印象に反して、実は豊饒な土地ではないかと思う。まず立地だが、県の北と東西が海に面している。しかも、太平洋側と日本海側とでは海流の性質を異にしているので、県の東側が太平洋岸気候、西側が日本海側気候であり、そのなかでも山地もあれば平野もあるので気候が変化に富んでいる。また、陸奥湾を抱くように津軽半島と下北半島が延びているので、県内全域が豪雪地帯でありながらも、気候の厳しさが多少は緩和されているのではないだろうか。例えば、江戸時代において現在の県域を支配していた盛岡藩も弘前藩も何度も飢饉に見舞われたが、下北地方は餓死者が殆どいなかったといわれている。

海流の変化に富んだ海に囲まれているということは漁業資源に恵まれているということでもある。農林水産省の「平成21年漁業・養殖業生産統計年報」(2010年4月30日公表)によれば、青森県の漁獲量は15.2万トンで全国7位、国内シェア3.7%だが、「大間のマグロ」や「むつ湾ホタテ」などは全国ブランドとして定着している。

豪雪地帯にありながら国内有数の農業生産地でもあり、農林水産省の資料によれば、平成19年の食糧自給率(確報値)はカロリーベースで119%である。日本全体の食料自給率が40%なので、その値がいかに高いかということがわかる。平成20年の速報値では青森県は121%、日本全国で41%とさらに高い値になっている。特にりんごの生産では国内産の約半分が青森県産だ。代表品種は「ふじ」で、これは育成地である藤崎町に由来する名前である。一昨年、ロンドンで暮らしていたが、彼の地でも「Fuji」はプレミアム価格で流通していた。尤も、少なくとも私の生活圏内で目にしていたFujiはどれも中国産だったが。

農業以外の産業では核燃料処理を挙げないわけにはいかないだろう。県内に本社を置く企業のなかで最大級のものが国策会社である日本原燃だ。2009年3月期の総資産2兆2,200億円、資本金2,000億円、売上高3,054億円、営業利益186億円、経常利益44億円、当期利益45億円という業容だ。ちなみに青森県の公金取り扱い金融機関である青森銀行は2010年3月期で総資産2兆2,237億円、経常収益554億円、経常利益38億円、当期利益21億円である。青森銀行の2009年3月期は赤字決算だった。原燃は、その事業の性質上、経営内容や経済効果といったことが声高に語られることはないだろうが、直接間接に県経済に与える影響はあるはずだ。例えば、青森県の公式サイトには「原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事業費補助金(F補助金)」の案内が出ている。おそらく、この手の補助金はこれだけではないのではなかろうか。

また、日本あるいは極東地域の安全保障においても青森県という場所は要のひとつとなっている。このところ沖縄の在日米軍が何かと話題になっているが、在日米軍の空軍部隊の主力は第5空軍だ。この司令部は横田だが、横田は米空軍のみならず米軍全体の極東地域における兵站ハブである。その第5空軍の戦闘部隊は横田には無く、沖縄嘉手納(第18航空団)と青森三沢(第35戦闘航空団)に駐屯している。このため、三沢基地は航空自衛隊唯一の日米共同使用航空作戦基地であり、北日本空域の要といえる。海上自衛隊の基地のなかで固定翼機の運用が可能な日本最北端の基地が八戸航空基地であり、ここは北方領土有事の際に対策指令本部が置かれることになっている。陸上自衛隊にとっても青森県は東北方面隊の主要拠点である。

勿論、現在直面している過疎の問題は無視できない。しかし、新幹線の開業により、東京=八戸間は約3時間で結ばれている。さらに今年12月4日には東北新幹線は八戸から新青森まで延伸される。この開業により東京=新青森間の最速達列車の所要時間は3時間20分程度となる予定だ。青森に限らず、東北地方全体が経済成長から取り残されているかのような印象が無いわけではないのだが、今や青森は決して最果ての地というわけではないのである。

ところで、弘前城の近くに「おぐらや」という甘味屋があり、そこの「ごま氷」というのがかき氷通の間で知られていたのだが、もう無いのだろうか。大学3年の頃、東北を旅行したときにその評判を聞いて訪ねてみたのだが、生憎休業日だった。今となっては記憶もあやふやで「おぐらや」も「小倉屋」だったのか「おぐら屋」だったのか、あるいは他の文字だったのか、定かでないのだが、ゴマを混ぜた水を凍らせた氷を削って、シンプルな白蜜をかけたものが絶品だという噂を聞いた。ネットで検索してみたのだが、それらしいものが引っかからなかった。なんとなく寂しいことである。