英国のBritish Film Instituteが発行する”Sight and Sound”という雑誌に映画関係者による10年に一度の映画評価の結果が発表されたそうだ。この結果の詳細は知らないが、BBCのニュースで報じられたものには846名の配給関係者、批評家、研究者による”Sight and Sound’s Top 10”の3位、これとは別に358人の映画監督による投票で決められる”Directors’ Top 10 Films”の1位に小津安二郎監督の『東京物語』が選ばれた。この作品は1953年公開で、既に60年近くを経ているが、今なお多くの人たちに支持されるということは、それだけ普遍性を持ったものを包含しているということだろう。投票のポイントとしては必ずしも作品内容だけではなく、撮影技術や映像としての美しさといったものも評価の対象になっているようだが、内容が無ければ技術など無意味なので、やはりそれだけのものがあると言えよう。この作品が描くのは家族というものの現実だ。映画や小説には、それがつくられた時代の価値観が色濃く現れており、古い作品が評価の割に面白くないと感じられる背景に、この価値観が制作当時とは変容してしまっていることがある。『東京物語』は、少なくとも今のところは、こうした価値観の変化を超えてなおも高い評価を得るに足る内容がある、つまりそこに描かれている家族というものの姿にリアリティがあるということだ。それはおそらく人に我がある限り変わらないのではないかと思う。
小津の作品はもう版権切れになっているらしく、今は安いDVDでいくらでも観ることができる。『東京物語』以外は、取り立てて面白いと思うものはないように思うのだが、全部を観たわけではないので、お勧めがある方は是非ご教示いただきたい。