会社帰りに博品館劇場で喜多八の独演会を聴く。いままで落語教育委員会でしか聴いたことがなかったが、ずっとこの噺家の独演会を聴いてみたいと思っていた。漸く念願叶ってみると、期待を裏切ることのないものだった。
開口一番の後、喜多八最初の噺は「粗忽長屋」。先日、よみうりホールで小三治がトリに口演したのも「粗忽長屋」。こうして短い間を置いて師弟の噺を聴き比べるのもおもしろい。もちろん噺だけを比べるなら、今は様々な媒体があるので容易なことなのだが、生で比べるとなるとそれぞれの会場の違いもあるし本人の調子もその時々なのだろうから、一回性の経験だ。
二番目の「青菜」は滑稽話だが、今の時代はこれで笑いを取るのは容易でないような気がする。職人とそれを使う立場の人間の生活観の違いであるとか、噺の舞台となっている時代の一般教養がどのようなものであったのかというようなことがある程度想像できないと面白くないだろう。噺家の技量も勿論大事だろうが、聴き手のリテラシーが問われるのも落語、殊に古典落語といわれるもののひとつの特徴であるように思う。ただ面白おかしく、というのではなく、なるほどこういうことか、と感心するのもまた楽しい。
曲芸を挟んで最後は乳房榎の前半部分。水を打ったよう、という表現があるが、会場全体が噺に聴き入って静かに一体となったところで、「この続きはまたの機会に」というサゲになる。本当に続きはあるのだが、客は噺に聴き入っていた自分に気付き、サゲに我に返ってそれまでの緊張が一気に弛緩するという、たいへん高度な高座だ。その場に自分が居合わせたことの嬉しさを感じるのも落語の愉しみだ。
開演:19時00分
終演:21時30分
演目
ろべえ おでん
喜多八 粗忽長屋
喜多八 青菜
(仲入り)
初音 太神楽曲芸
喜多八 人情噺 乳房榎
会場:博品館劇場