万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「バイアメリカ条項」から見える国際経済の歪み

2009年02月12日 15時29分54秒 | アメリカ
米「バイアメリカン」条項、上院修正案にほぼ沿った形で合意=民主幹部(トムソンロイター) - goo ニュース
 アメリカ産業の保護を目的として「バイアメリカン」条項は、保護貿易主義との批判を浴びて、一部、修正されるとのことです。このことは、アメリカが、自由貿易主義を堅持する形で、自国の貿易赤字の問題を解決する方針を示したことにもなりそうですが(ただし、鉄鋼分野から全ての工業製品に対象が拡大するとも・・・)、「バイアメリカン条項」については、幾つかの考えさせられる点があります。

(1)財政出動と政策目的との乖離
 財政出動を行うに際して、政府は、国民に対して国民の利益を強調するものです。例えば、雇用状況の改善や国内消費の喚起などがアピールされます。しかしながら、もし、公共事業が外国の企業に受注され、外国製の資材が使われるとしますと、国内の景気対策として効果は大幅に減少してしまいます。これでは、将来的な税負担を引き受ける国民を納得させることは難しくなります(日本国にとっては、オバマ政権のグリーン・ニューディールは、環境技術に優位性を持つ日本製品の輸出拡大のチャンスなのですが・・・)。

(2)アメリカの貿易赤字の未解消
 金融危機の発生要因の一つに、貿易収支の赤字を資本収支の黒字で補おうとしたことが挙げられています。しかしながら、ビッグ3を始めとしたアメリカ産業の大胆な構造改革と競争力強化がありませんと、財政出動の効果は、海外に流出するだけで終りそうです。

(3)公正な自由貿易とは
 「バイアメリカン条項」は、自由貿易に反するとして非難されましたが、公正な自由貿易を実現するためには、不当な為替操作の排除も必要です。財務長官は、中国に対して為替操作国の認定を見送ったと伝えられておりますが、この問題を抜きにして自由貿易を論じても、不十分と思われるのです。

 財政支出と景気対策との関連は、アメリカのみならず、全ての国に共通する問題ですし、もちろん、すべての諸国が、同時に財政拡大を実施するという方法もありましょう。ただし、この場合、価格や品質で競争力のある国が最も恩恵を受けることも確かです。「バイアメリカン条項」を保護主義として断罪することは容易ですが、アメリカ経済の健全化や公正な自由貿易への道筋は、まだ見えていないように思うのです。

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