風の遊子(ゆうし)の楽がきノート

旅人を意味する遊子(ゆうし)のように、気ままに歩き、自己満足の域を出ない水彩画を描いたり、ちょっといい話を綴れたら・・・

「エスプリの利いた超短編 一気に読みきった一冊」

2013-12-04 20:43:39 | 日記・エッセイ・コラム

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雀ダンシィングチームと超短編アラカルト」(岩本由起子著・文芸社発行)。読書家とは言えない僕ですが、ことし一気に読んだ一冊です。題名通り超短編ということもありますが、エスプリの利いた9編のひとつ一つが楽しく、ページをめくる手を止めることがなかったのです。

岩本由起子さんは本名・塚原由起子さん、71歳。名古屋在住の絵仲間である塚原徹也さんの奥さまです。若いころから文章を書くことが大好きで、同人誌に参加していたこともありますが、自分の書を出したのは初めてだそうです。

「雀ダンシィングチーム」は、都市化の波に餌や巣作りの場がなくなるなどで数が減り、人間たちからも関心を持たれなくなったことに危機感を持った雀たちの話。
人間の目を自分たちに向けさせるのが先決、と雀たちは「ダンシィングチーム」を結成、電線に並んで踊りだします。気づいた人間たちは大喜び。庭やベランダに米粒やパン屑をまいて歓迎しました。企画は大成功です。

ところが、やがて・・・。まかれた餌を夢中でついばんでいるうちに太ってしまい、体重が重くて電線から落下する者も。それに飽食でやる気をなくし、チームが成り立たなくなりました。
「休演すれば、人間が餌をまかなくなって体もスリムになる。そこでダンスを再開する。それを繰り返せば、自分たちも少しずつ利口になるだろう」。雀のリーダーが出した結論でした。

病院の相部屋での話。4人部屋といってもベッドごとにカーテンで仕切られてプライバシーも守られ、互いに顔を合わせることなく退院することもあります。
ある晩、患者のひとりの大きな鼾に腹を立てた夫人が、部屋替えを要求するなど大騒ぎ。カーテンの向こうで謝る鼾の主の声に耳を傾けることもせず、看護師や医師と押し問答を繰り返しました。

退院後。夫人は街角で軽く頭を下げて通り過ぎようとする知人を呼び止め、入院していたことに触れると「まあ、聞いて下さいよ」と、他人の鼾で特別室に移ったことを話しました。「病院から特別料金の請求書が届いたけど、私は被害者なんですよって、啖呵きってきちゃったの」「また請求書がきたら裁判も辞さない、っていってくるわ」「持久戦ね。あらごめんなさい、お引きとめしちゃって」

その場を離れた知人の軽い足取り。「あの人、どうもわたしが鼾の主だってこと気づいてないらしいわ」

話の行方がちょっとこわーいのもありますが、どれもウイットに富み、ひねりも利いた小話。「妻は体が弱く、入院している時も、病院のベッドで少しずつ書き留めてきているようです。次号も出してやらねば」と、ご主人は話します。