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展覧会パンフ 絵は松本竣介「立てる像」
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藤田嗣治「シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)
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香月泰男「涅槃」
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北川民次「鉛の兵隊 銃後の少女」
(いずれも展覧会のパンフレットから)
名古屋・伏見の名古屋市美術館で開催中の「画家たちの戦争」展を見てきました。サブタイトルは「彼らはいかにして生きぬいたのか」。僕には、このサブタイトルの答えを十分にはつかめませんでしたが、どの作家も例外なく戦争に振り回されたことは理解できました。展覧会は9月23日(水・祝)まで。
展示されているのは藤田嗣治、北川民次、松本竣介、香月泰男ら14人(一部が8月23日までの前期と8月25日からの後期で入れ替え)。それぞれ太平洋戦争前と戦中、戦後の作品を合わせて9~11点ずつ展示しています。
シベリア抑留の強制労働を描いた作品で有名な香月泰男。後に「戦争がなくシベリアに行かなかったら人生の後半は無に等しかっただろう」と語ったそうですが、展示されている黄色やオレンジ、緑など多彩な色で描かれた戦前の風景画を見ると、戦争・抑留の体験が香月の人生観や画風をいかに変えたかが、うなずけます。
「戦争画家」の代表的存在にあげられる藤田嗣治の作品は、代表作の1枚とされる148×300センチの「シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)」。パリから帰り、戦意高揚のため従軍画家のリーダーとなった藤田が、渾身の力を込めて創作したことが存分に伝わってきます。
戦後「戦争協力者」のレッテルを貼られ、失意と共に日本を捨ててパリに戻った藤田。戦場の大作を挟んで展示された静物画や裸婦画を見ると、藤田もまた戦争にほんろうされたアーティストだったといえますね。
金ボタンが並ぶ作業服、握りしめた左手、素足にサンダル、両足を少し開いて立つ青年。遠くを見る目には、強い意志が感じられます。上に掲載した展覧会のパンフレットを飾る「立てる像」(162×130.5センチ)は、松本竣介が戦争真っただ中の1942年に描いた作品です。
松本は軍部への協力に抵抗を示した数少ない画家の1人とされています。数多くの建物を描き、展示コーナーに掲示された松本についての説明書きには「(建物は)立っているということが最も大きな魅力」と語ったとありますが、僕はこの青年も立っていることが魅力だと思いました。
メキシコ壁画などで知られる北川民次も、戦争に突き進む時代を憂えていた1人だったようです。開戦2年前の1939年の作品「鉛の兵隊 銃後の少女」。少女が小さな鉛の兵隊や戦車をつまんなさそうに見ています。
北川の展示コーナーの最初に掲げた説明によると、この絵のモデルは北川の娘で、背負っているのは青い目の人形。つまり、子供たちが口ずさむ童謡「青い目をした お人形は アメリカ生まれの セルロイド・・・」を加えることで、軍部などの動きや意向とは関わりのない庶民の様子を描こうとしたのでしょうね。
冒頭に書いたサブタイトルの答えを十分につかめなかったのは、僕の予備知識が不足していて作品を見るだけでは難しいからです。
絵画を国民の戦意高揚の手段にしたい軍部からの呼びかけを、画家たちは個々人としてどうとらえ、対応したのか。
栄誉と考え積極的に応じたのか、時流の流れに乗るのが得策と考えたのか、家族らのためか・・・。
画家として、国民として、さまざまな葛藤があったことでしょう。
各画家のコーナーの最初に掲示された画家の解説は助けられましたが、各作品に説明を付けるなどして、もう少しエピソードやデータがあれば、と思いました。
戦争企画が殺到するこの時期に無理なことでしょうが、シベリア抑留シリーズ(これも2,3枚だけというのは無理でしょう)など、あったらいいなと思う作品も。また、少数ながら戦争への協力を拒否した画家たちもいたことでしょう。次回の企画では期待したいものです。
いいね、と思ったのは、中高年だけでなく若い世代の観覧者が多く目についたこと。ノートを手に作品に見入る中高生らしい姿も何人か目にしました。