[期日不明 時刻不明 スターオーシャン号・船長室 稲生勇太&サンモンド・ゲートウェイズ]
「やあ、また来てくれたね」
「また来たじゃないですよ!」
稲生はジェシカの姿をした“魔の者”から逃げ回るうち、廊下の壁に天の川のレリーフを見つけた。
それでサンモンドの本をかざして、姉妹船に逃げ込んだわけだ。
「これじゃ、まるで僕がイリーナ先生の言い付けを破ったみたいじゃないですか!」
「何を勘違いしているのか分からないが、私は何もしていないよ?」
「ええっ?」
「キミを再びの船旅に誘ったのは、“魔の者”だ。キミは既に、“魔の者”の次のターゲットになったようだね」
「そ、そんな……!」
「いつまでも逃げ回っていては、何も解決しないよ。キミも魔道師の端くれ。戦ってみてはどうかね?」
「戦うも何も、まだロクに魔法を教わったわけじゃないし、武器も無いし……」
弟子入りの際、イリーナから見習用のローブや杖をもらったが、それは今ここには無い。
「ふむ……。それでは、キミに渡した宝石を返してもらおうか」
「えっ?」
「代わりに、武器となるものをあげよう」
稲生が“魔の者”の力を祓う石の代わりに受け取ったのは、見たことのある瓶だった。
それに水が蓄えられている。
「……これは、聖水?」
「そうだ。これを知っているということは、使い方も知っているな?これもまた“魔の者”に振り掛ければ、追跡を一時的にだが食い止めることができるし、自分で飲んでも体力を回復させることができる。これの方が、今のキミには必要だったかな?フフフフフ……」
「イリーナ先生とは、一体どういう関係で?」
「まあ、確かに知り合いではあった。私は今でこそ魔道師をやってはいるが、その前、一介の人間だった頃は船乗りをしていてね」
「えっ?」
「魔道師になっても、船乗りのスキルは捨てられなかったということだ」
「まさか、この船も魔法の……?」
「そうだ。……と、言いたいところだが、若干違う」
「違う?」
「厳密に言えば、私は雇われ船長なんだ」
「雇われ?誰に?」
「誰……というか、あの世とこの世を結ぶ公共交通機関を運営する公社といったところかな?」
「冥界鉄道!?何で鉄道会社が船を!?」
「その質問は愚問だよ。稲生勇太君。キミも鉄オタなら、知っているだろう?青函航路を運行していたのは、どこの組織だ?」
「……あっ!?」
正に、日本国有鉄道の直営であった。
「今で言うなら、福岡と釜山の間を運行している船の中に、鉄道会社は無かったかな?」
「JR九州高速船……」
「星界……もとい、正解だ。つまり、冥鉄も同じような仕事をしている部署があるということだよ」
「あなたが……。こういう大きな船の船長さんをしているということは……」
「一応、常務執行役員をやらせてもらってはいるが、まあ、大したことではない。私はこの船の船長であると同時に、役員として複数の船の管理も任されている。そのうちの1つが、クイーン・アッツァー号だ」
「そうだったんですか」
「“魔の者”に乗っ取られ、漂流を続けているあの船を救ってほしい。成功報酬は、約束しよう」
「何で僕が……?」
「前回、“魔の者”との戦いで、キミがさしたる活躍をしてくれたからだよ。あいにくと、イリーナやマリアンナでは太刀打ちできないだろう」
「そ、そんな……!イリーナ先生は強いですよ!マリアさんも……!」
しかし、サンモンドは静かに首を横に振った。
「冷静になって考えなさい。簡単に“魔の者”の根城に監禁されてしまったイリーナ、キミの働きが無ければとっくに心臓を抉り出されていたマリアンナが、今回こそ勝てる根拠があるのかい?」
「そ、それは……。で、でも……僕だって、藤谷班長と一緒に戦えたから……」
「何だったら、その藤谷君もあの船に呼んでみるかい?」
「い、いえ、そんなことは……!」
「結論として、キミが1人で戦うしか無いと思うのだがね?もちろん、私もできる限りのサポートをしよう。これを見なさい」
サンモンドは水晶板を稲生に見せた。
水晶球を平べったく伸ばした感じのもの。
それがモニターのように、何かを映し出した。
それは、船内カジノや医務室の前の廊下だった。
「これは、このスターオーシャン号の内部の映像だ」
「明るいですね」
「スターオーシャン号の照明スイッチは故障していないからな」
サンモンドは机の上の電話を取った。
そして、どこかにダイヤルする。
「……あー、私だ。船内カジノ前の照明スイッチ、“星”の方を切ってくれ」
すると、画面が暗くなる。
「?」
画面にはスイッチが映っているのだが、そこには誰もいなかった。
「キミが向こうの船で探している、別のスイッチを切ったものだ」
「それはどこにあるんですか?」
すると、サンモンドは画面を切り替えた。
今度は同じ廊下の別の場所が映る。
両側の壁に、北斗七星やカシオペアの絵が書いてあった。
「この光っている星座の星をよく見てみなさい」
「……?」
「何かに気づかないかい?」
「……あっ!」
「それが答えだ。さあ、話は一旦ここまでしよう。またソウルピースを集めたら、私の所へ来なさい。待っているよ」
[期日不明 時刻不明 クイーン・アッツァー号・船内カジノ前廊下 稲生勇太]
気が付くと、薄暗い廊下の前にいた。
「見ィつけたぁぁぁぁぁぁぁ……!うふふふふふふふふふふ……!」
「!?」
ジェシカの姿をした“魔の者”に見つかり、不気味な笑いを浮かべて迫って来た。
「くっ……!」
稲生は先ほどサンモンド船長からもらった聖水入りの瓶を取り出すと、それを“魔の者”に向かって振り掛けた。
「きゃあああああっ!熱いぃっ!あ゛づい゛よぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!」
“魔の者”は顔を覆って、のたうち回る。
稲生は今のうちに、星座の浮かぶ壁に向かった。
案の定、北斗七星で、一個だけ星が点灯していない部分がある。
「ゆ゛る゛さな゛ぁぁぁぁい!!」
早くも復活した“魔の者”が稲生を追い掛けて来る。
稲生は点灯していない星を押した。
すると、星が点灯しただけではなく、廊下の照明も点灯した。
「き゛ゃあ゛あああああっ!眩しいぃぃぃぃぃっ!!」
“魔の者”は断末魔にも似た叫び声を上げて消えた。
もっとも、これで倒したとは思えない。
また暗闇のある部分では、現れて稲生を襲おうとするだろう。
だが、取りあえずこれで一安心である。
「ん?」
カジノの前に戻ると、ちょうど支配人が顔を出したところだった。
「おや?照明が点きましたな?」
「ええ。何とかスイッチの位置が分かりましたので」
「それはそれは……。あ、よろしかったら、只今よりオープン致しますので、いかがでしょうか?」
「はあ……」
「お預かりしたコインは95枚。あと、一息ですよ?」
「そうですね」
稲生はカジノに入ることにした。
「やあ、また来てくれたね」
「また来たじゃないですよ!」
稲生はジェシカの姿をした“魔の者”から逃げ回るうち、廊下の壁に天の川のレリーフを見つけた。
それでサンモンドの本をかざして、姉妹船に逃げ込んだわけだ。
「これじゃ、まるで僕がイリーナ先生の言い付けを破ったみたいじゃないですか!」
「何を勘違いしているのか分からないが、私は何もしていないよ?」
「ええっ?」
「キミを再びの船旅に誘ったのは、“魔の者”だ。キミは既に、“魔の者”の次のターゲットになったようだね」
「そ、そんな……!」
「いつまでも逃げ回っていては、何も解決しないよ。キミも魔道師の端くれ。戦ってみてはどうかね?」
「戦うも何も、まだロクに魔法を教わったわけじゃないし、武器も無いし……」
弟子入りの際、イリーナから見習用のローブや杖をもらったが、それは今ここには無い。
「ふむ……。それでは、キミに渡した宝石を返してもらおうか」
「えっ?」
「代わりに、武器となるものをあげよう」
稲生が“魔の者”の力を祓う石の代わりに受け取ったのは、見たことのある瓶だった。
それに水が蓄えられている。
「……これは、聖水?」
「そうだ。これを知っているということは、使い方も知っているな?これもまた“魔の者”に振り掛ければ、追跡を一時的にだが食い止めることができるし、自分で飲んでも体力を回復させることができる。これの方が、今のキミには必要だったかな?フフフフフ……」
「イリーナ先生とは、一体どういう関係で?」
「まあ、確かに知り合いではあった。私は今でこそ魔道師をやってはいるが、その前、一介の人間だった頃は船乗りをしていてね」
「えっ?」
「魔道師になっても、船乗りのスキルは捨てられなかったということだ」
「まさか、この船も魔法の……?」
「そうだ。……と、言いたいところだが、若干違う」
「違う?」
「厳密に言えば、私は雇われ船長なんだ」
「雇われ?誰に?」
「誰……というか、あの世とこの世を結ぶ公共交通機関を運営する公社といったところかな?」
「冥界鉄道!?何で鉄道会社が船を!?」
「その質問は愚問だよ。稲生勇太君。キミも鉄オタなら、知っているだろう?青函航路を運行していたのは、どこの組織だ?」
「……あっ!?」
正に、日本国有鉄道の直営であった。
「今で言うなら、福岡と釜山の間を運行している船の中に、鉄道会社は無かったかな?」
「JR九州高速船……」
「星界……もとい、正解だ。つまり、冥鉄も同じような仕事をしている部署があるということだよ」
「あなたが……。こういう大きな船の船長さんをしているということは……」
「一応、常務執行役員をやらせてもらってはいるが、まあ、大したことではない。私はこの船の船長であると同時に、役員として複数の船の管理も任されている。そのうちの1つが、クイーン・アッツァー号だ」
「そうだったんですか」
「“魔の者”に乗っ取られ、漂流を続けているあの船を救ってほしい。成功報酬は、約束しよう」
「何で僕が……?」
「前回、“魔の者”との戦いで、キミがさしたる活躍をしてくれたからだよ。あいにくと、イリーナやマリアンナでは太刀打ちできないだろう」
「そ、そんな……!イリーナ先生は強いですよ!マリアさんも……!」
しかし、サンモンドは静かに首を横に振った。
「冷静になって考えなさい。簡単に“魔の者”の根城に監禁されてしまったイリーナ、キミの働きが無ければとっくに心臓を抉り出されていたマリアンナが、今回こそ勝てる根拠があるのかい?」
「そ、それは……。で、でも……僕だって、藤谷班長と一緒に戦えたから……」
「何だったら、その藤谷君もあの船に呼んでみるかい?」
「い、いえ、そんなことは……!」
「結論として、キミが1人で戦うしか無いと思うのだがね?もちろん、私もできる限りのサポートをしよう。これを見なさい」
サンモンドは水晶板を稲生に見せた。
水晶球を平べったく伸ばした感じのもの。
それがモニターのように、何かを映し出した。
それは、船内カジノや医務室の前の廊下だった。
「これは、このスターオーシャン号の内部の映像だ」
「明るいですね」
「スターオーシャン号の照明スイッチは故障していないからな」
サンモンドは机の上の電話を取った。
そして、どこかにダイヤルする。
「……あー、私だ。船内カジノ前の照明スイッチ、“星”の方を切ってくれ」
すると、画面が暗くなる。
「?」
画面にはスイッチが映っているのだが、そこには誰もいなかった。
「キミが向こうの船で探している、別のスイッチを切ったものだ」
「それはどこにあるんですか?」
すると、サンモンドは画面を切り替えた。
今度は同じ廊下の別の場所が映る。
両側の壁に、北斗七星やカシオペアの絵が書いてあった。
「この光っている星座の星をよく見てみなさい」
「……?」
「何かに気づかないかい?」
「……あっ!」
「それが答えだ。さあ、話は一旦ここまでしよう。またソウルピースを集めたら、私の所へ来なさい。待っているよ」
[期日不明 時刻不明 クイーン・アッツァー号・船内カジノ前廊下 稲生勇太]
気が付くと、薄暗い廊下の前にいた。
「見ィつけたぁぁぁぁぁぁぁ……!うふふふふふふふふふふ……!」
「!?」
ジェシカの姿をした“魔の者”に見つかり、不気味な笑いを浮かべて迫って来た。
「くっ……!」
稲生は先ほどサンモンド船長からもらった聖水入りの瓶を取り出すと、それを“魔の者”に向かって振り掛けた。
「きゃあああああっ!熱いぃっ!あ゛づい゛よぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!」
“魔の者”は顔を覆って、のたうち回る。
稲生は今のうちに、星座の浮かぶ壁に向かった。
案の定、北斗七星で、一個だけ星が点灯していない部分がある。
「ゆ゛る゛さな゛ぁぁぁぁい!!」
早くも復活した“魔の者”が稲生を追い掛けて来る。
稲生は点灯していない星を押した。
すると、星が点灯しただけではなく、廊下の照明も点灯した。
「き゛ゃあ゛あああああっ!眩しいぃぃぃぃぃっ!!」
“魔の者”は断末魔にも似た叫び声を上げて消えた。
もっとも、これで倒したとは思えない。
また暗闇のある部分では、現れて稲生を襲おうとするだろう。
だが、取りあえずこれで一安心である。
「ん?」
カジノの前に戻ると、ちょうど支配人が顔を出したところだった。
「おや?照明が点きましたな?」
「ええ。何とかスイッチの位置が分かりましたので」
「それはそれは……。あ、よろしかったら、只今よりオープン致しますので、いかがでしょうか?」
「はあ……」
「お預かりしたコインは95枚。あと、一息ですよ?」
「そうですね」
稲生はカジノに入ることにした。