報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界高速電鉄・6号線」

2015-12-21 20:53:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月15日14:20.天候:晴 魔界アルカディア王国アルカディアシティ(魔界高速電鉄環状線ゴタゴタ駅) 稲生勇太]

「鉄オタ一生のふかーく!!」
 稲生は電車が走り出して、次の駅に着いたところでorzの体勢になってしまった。
 鉄オタにはあるまじきミス、逆方向の電車に乗ってしまったという初歩的なイージーミスである。
 しかしここで引き返しては、却って敗北感を味わってしまうのもまた鉄オタの哀しい性(さが)であった。
 そこで稲生は車内に掲示されている路線図を見て、何とか迂回経路が無いものかと検索してみた。
「次の停車駅はゴタゴタ〜、ゴタゴタ〜です。地下鉄6号線はお乗り換えです」
 車掌が次の駅を言いながら、車内を巡回してくる。
 旧型国電のモハ72系にそっくりなこの電車、マイクの設備が無いのだろう。
 そういった意味では、往路の901系(209系900番台)はいい電車だったのかもしれない。
「ご、ゴタゴタ!?」
 路線図を見ると、東京の山手線を2倍に長くした環状線だが、山手線では五反田駅に当たる部分に、ゴタゴタ駅はあった。
 英文を見ると、『Gotta de gotta』と書いているのだが、そう書いてゴタゴタと読むのだろうか。
(五反田だけに、ゴタゴタ!?……それにしても、確かアルカディア・メトロって、3号線までしか無かったはずなのに、いつの間にか2倍に増えてるし……)
 幸いゴタゴタ駅から地下鉄6号線に乗ると、最初に市電に乗った西公園駅に行けるようである。
 もう1度路面電車に乗ってみたかった気がするが、マリアが待っているということで、早く病院に戻りたかった。
 明らかに地下鉄の方が路面電車より速い。

「ゴタゴタ〜!ゴタゴタ〜!」

 電車のドアが開くと、駅員の駅名連呼が聞こえてきた。
(しょうがない。“五反田駅”で降りて、“都営浅草線”に乗るか)
 稲生はここで電車を降りた。
 せっかく窓口で買った乗り継ぎキップが無駄になってしまったが、自分のミスのせいだと諦めることにする。

[同日14:30.天候:晴 魔界高速電鉄メトロ6号線・ゴタゴタ駅 稲生勇太]

 新しくできた地下鉄の割には、駅は薄暗く、わざとそうしているのか、まるで洞窟のように素掘りの岩盤が剥き出しになっていた。
 しかも、ホームで電車を待っていると、何だか水の音がするし。
「この水、飲めるんだろうか……?」
 都営浅草線の五反田駅は島式ホーム1面2線だが、この駅は対向式ホーム2面2線である。
 素掘りの壁に、水がダバダバと流れ落ちている。
 触ってみると、むしろ温かい。
 地下水というより、温泉脈でもあるのだろうか。
 もっとも、井戸水がそうであるように、夏場は冷たく、冬場は温かいだけなのかもしれない。
「ん?」
 すると、トンネルの向こうから電車の接近する音が聞こえてきた。
「何これ……?」
 やってきた電車は、明らかに日本の地下鉄車両ではなかった。
 とても古い車両であることは間違いない。
 だが、塗装は……まるで陸上自衛隊のトラックのようなくすんだ緑色に塗られ、乗ってみると変な座席配置になっている。
(何だかアメリカの地下鉄っぽいな……)
 セミクロスシートなのだが、クロスシートが向かい合ってない。
 ドアの横の座席は横向きの2人席なのだが、クロスシートは向かい合わせではなく、その逆の背中合わせタイプであった。
 稲生がそんな風に思ったのは、この座席配置がニューヨークの地下鉄の動画で見た記憶があるからだ。
 実は本当に、ニューヨークの地下鉄の引退車両なのかもしれない。
 とにかく稲生は、進行方向向きの座席に座った。
 そこに座ると、ドア横の座席に座る乗客の横顔を見るような体勢になってしまう。
(何だって、アメリカの地下鉄はこういう座席配置なんだろうなぁ……?)
 電車が走り出すと、トンネル付近にも水が滴っていたのか、バシャッと水が掛かる音がして、窓に水が垂れた。
(ディズニーリゾートのアトラクションじゃあるまいし、大丈夫なのかよ!?)
 線路に水が溜まっているということはないので、排水はしっかりしているのだろうが、それにしても、日本の地下鉄では有り得ないものだった。
 大昔のニューヨークの地下鉄と思われる電車だが、照明も今の地下鉄と比べて薄暗い。
(地上の路面電車で行った方が良かったかなぁ……?)
 高架鉄道は人間の職員が多く、地下鉄は魔族の職員が多いことは先述した。
 地下鉄線はワンマン運転だが、運転士は見た目、人間のように見えた。
 だが、パーマにした金髪の横から尖った耳が突き出ているのを見ると、やはり魔族のようだ。
 威吹と長い付き合いをして分かったのだが、本当に怖い妖怪というのは、いかにも化け物だよといった姿をしている者ではなく、人間のフリをしている者だということだ。
 高い妖力を有していなければ、人間のフリをすることができないという。
 そして大概、高い妖力を持つ者の多くが人間に対して友好的とはなかなか言い難い。
 ここでは電車を運転しているが、もし稲生が獲物として狙われたら……。
 アルカディア・メトロと愛称される魔界高速電鉄地下鉄線はワンマン運転だが、駅に到着すると、運転士は運転台にあるドアスイッチでドアを開閉するのは当然だ。
 そしていちいち立ち上がって、運転席横のドアも開ける。
 運転席の横にはサイドミラーが取り付けられていて、これで乗降客の監視をするらしい。
 だが、実際にドアを閉める時には、別に後ろの方を直接見るわけでもなく、発車のブザーが鳴り終わったら適当に閉めて発車する。
 よくこんなんで事故が起こらないものだと感心するが、乗客も多くが魔族ということもあるのか、上手くできているらしい。
 とにかく、日本の感覚で駆け込み乗車なんかして、ヘタにドアに挟まれようものなら、そのまま発車される可能性は大だ。
 駅に到着する度、律儀に立ち上がって、運転席のドアと客用のドアを開けて、客用ドアを閉めたら運転席のドアも閉めて発車することを繰り返しているところは凄いと思うが……。

 ゴタゴタ駅を出た後、さすがに市街地に入る頃にはトンネルの漏水も無くなっていた。
 西公園駅で無事に降りられた稲生は、まずはスタート地点であった市電のターミナルに出ることにした。
 旧型のモーターの唸り声を上げて出て行くずぶ濡れの電車を見て、やっぱりニューヨークの地下鉄だったかもしれないと稲生は思った。
 フロントの上にある大きな路線番号の横に行き先表示が掲示されているのだが、それが英語表記が主になっていたのと、その両脇に小さく『LOCAL』の白いランプが点灯していたからだ。
 反対側には『EXP』という表示もあったが、どうも6号線は各駅停車しか運転していないようで、EXPの赤いランプが点灯することは無さそうだった。

 思惑通り市電のターミナルに出られた稲生は、元来た道を辿って、魔王軍病院に向かった。
 果たして、マリアの具合はどうなのだろうか。
コメント
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