報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「クイーン・アッツァーの最期」

2015-12-14 20:45:03 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:不明 クイーン・アッツァー号(船尾船底部・制御室) 稲生勇太]

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!(室内にけたたましく鳴り響く警報音)

「う……」
 ふと気が付くと、稲生は制御室の床に倒れていた。
「いてててて……」
 起き上がると、体の節々が痛い。
「えーと……確か……」
 UAVをこの制御室から遠隔操作で自動離陸・飛行させることには成功したようだ。
 だがその後、船が大きく揺れて……。
 気が付いたら、腐臭の漂う薄暗い岩場のような所で、何かが起き……。
 で、また気が付いたらここにいたと……。
(あれは夢だったのかな……?)
 制御室内の物はメチャクチャに散乱していた。
 唯一、室内の壁に取り付けられている赤ランプが点滅して、警報が鳴っているだけだ。
「一体、何が……?」
 稲生がよろよろと立ち上がり、制御室を出るドアを開けようとするが、少し開いた後、ドアが歪んでしまったのか、それ以上は開かなかった。
「く、くそっ……!」
 力任せに開けようとするが、重い鉄扉は鈍い金属音を立てるだけでなかなか開いてくれない。
 ……と!
「わあっ!?」
 また船が大きく揺れた。
 再び稲生の体が持ち上がって、まるで映画の“マトリックス”のように壁に一瞬爪先がつくほど。
 そこまで傾いたせいか、また室内にある什器が鉄扉に向かって突進してくる。

 ズガーン!

 室内の大きなキャビネットが鉄扉に突撃してくれたおかげで、鉄扉は蝶番から外れて落ちた。
 再び船はまた大きく揺れて、今度は元の位置に戻る。
「は、早く脱出しないと……!」
 制御室を出ると、そこは惨たる有り様だった。
 あれだけの大きな揺れにも関わらず、船内が停電していないことには驚きだが、それもさることながら、そもそも無造作に積まれていた大きなコンテナがあっちこっちに散乱しており、稲生を追ってきたモンスター達がそれの下敷きになって圧死していたり、頭にコンテナをぶつけたのか、頭部が割れて死んでいるモンスターもいた。
 つまり、無事なモンスターは一匹もいなかったということだ。
 中には体が半分潰れているにも関わらず、脅威的な生命力で、それでも稲生を襲ってこようとするモンスターが一部いたことだ。
 もっとも、そんなのに構っているヒマは無い。
 稲生は無視して先に進み、サイドデッキに上がるエレベーターまで向かった。
 ボタンを押すと、幸いランプが点いた。
 が、ドアは僅か10センチ開いただけで止まってしまった。
「そ、そんな……!」
 どうやら故障してしまったらしい。
「ど、どうしよう……!?」
 と、その時だった。

〔「稲生君!無事だったか!早くこっちに来るんだ!」〕

 サンモンドの声が聞こえた。
 拡声器か何かで喋っているらしい。
 声のする方に向かうと、ちょうど今エレベーターのある場所からコンテナが無造作に積まれていたエリアを挟んで向かい側にサンモンドがいた。
 左手を大きく挙げている。

〔「こっちのエレベーターは無事だ!これで脱出しよう!」〕

「は、はい!」
 稲生はクレーンの操縦室の中を通って、反対側に向かった。
 サイドデッキといっても、右舷側(スターボードサイド)と左舷側(ポートサイド)がある。
 船尾から船首の方を見て右左なのだが、稲生は制御室に向かう時、右舷側を通っていった。
 しかしそちらのエレベーターは故障してしまったため、左舷側のエレベーターを使うことになった。
 そこに辿り着くと、既にエレベーターの呼び出しボタンは押されていた。
「よく無事だった」
「船長も……」
「“ライディーン”の直撃を避けることはできたが、その衝撃で発生した大波でもって、船が大損傷を受けてしまったんだ」
「ええっ!?」
「もともと老朽化していた船ではあったが、それまでの大嵐の中を航行したのと、さっきの“ライディーン”の衝撃で、完全に船体がイカレてしまったらしい。このままだと、沈没まで時間は僅かだろう」
「急がないといけませんね!」
「ああ。幸い、魔王軍が救助を出してくれるらしい。それに期待しよう」
「は、はい!」

 チーン♪

「おっ、来た」
 エレベーターがやっと来た。
 だが、ドアが開くと、
「キィエエエッ!」
「キィィィッ!」
「わあっ!?」
 エレベーターの中にも、モンスターが潜んでいた!
 ドアが開くと、稲生達に鋭い爪を向けて飛び掛かって来た。
「くっ!」
 サンモンドが上着の中から拳銃を出して、モンスターに発砲した。
 ハンドガンであるが、威力の強いコルト・パイソンである。
「稲生君、先にエレベーターに乗っているんだ!」
「は、はいっ!」
 稲生はモンスター達の攻撃をかわしながら、エレベーターの中に入った。
 そうしているうちに、一匹が頭を撃ち抜かれて絶命した。
 もう一匹も怯まずに向かってきたが、足を撃ち抜かれて転倒した。
 その隙に、サンモンドもエレベーターに乗り込む。
 稲生はすぐに閉めるボタンを押した。
 それでも這いずって向かってくるモンスターだったが、その前にドアが閉まった。
 ドアをドンドン叩く音がしたが、エレベーターはお構いなしに上昇した。
「ふう……!間一髪だったな?」
「はい!」
「話の続きだ。魔王軍が救助隊として、飛空艇を一隻飛ばしてくれるらしい。私の読みだと、船首部分に着けるはずだ」
「船首……」
「そうだ。だから、エレベーターが着いたら、振り向かず船首に向かって全力ダッシュするんだ。いいね?」
「わ、分かりました!あ、あの……マリアさんは?」
「ああ、そうそう。忘れていたよ。UAVを飛ばしたところで、ある程度の衝撃は想定していたからね、船首甲板からラウンジに入れるだろう?そこで休ませておいた」
「なるほど!」

 エレベーターが無事に船首部分へ向かうサイドデッキに到着する。
「そうそう。船首へ行く前に、私からの餞別だ」
「えっ?」
 サンモンドは赤紫色の刃が特徴の大きなナイフを取り出した。
「これは確か……」
「そう。“魔の者”と戦う為に必要な武器だ。作ったのは私だが、その素となるソウルピースをかき集めてくれたのはキミだ。キミはこの武器を受け取る権利がある。さあ、持って行きなさい」
「……結構です!」
 稲生はサイドデッキに出るドアに向かった。
「おや?いらないのかい?」
「マリアさんを苦しめた武器なんて……。それに、“魔の者”に殺された人達の魂で作られた武器で戦いたくありません!」
「ふっ……ふふふふふふふ………ふはははははははは!面白い!実に面白い男だ、キミは!さすがはイリーナが見込んだだけのことはある!」
 再び船が大きく揺れる。
 今度は縦揺れだ。
 ナイフは宙に浮かんだが、バラバラに粉砕した。
「確かに、キミならこのような武器が無くても戦えるだろう!“魔の者”はいずれまた現れる!その時、また会おう!」
 サンモンドはそう言い残すと、スーッと消えていった。
 その消え方は今までの幽霊と違ったので、本当に魔道師なのだろう。
 稲生はサイドデッキに出るドアを開けた。
 右舷の時と違い、そこにモンスターがいるということはなかった。
 が、
「うっ!?」
 今度は船が左右ではなく、前に持ち上がるようにして揺れた。
 前に持ち上がるように……?
 それはつまり、船首が持ち上がり、船尾が下になってということだから……。
「マジで沈没する!」
 稲生は突然急坂になったサイドデッキを、残った体力を振り絞って船首に向かって走った。

 稲生はそこで、最後の試練を受けることになる。
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達の復讐」

2015-12-14 00:10:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 場所不明 天候:不明 マリアンナ・スカーレット&ジェシカ・ベリア・オズモンド]

 まるで芥川龍之介の“蜘蛛の糸”のような感じの地獄みたいな場所に辿り着いたマリア。
 “魔の者”に殺されたはずのジェシカが現れたことで、自分も死を自覚したつもりだったが、どうも違うようだ。
 ジェシカが不敵な笑みを浮かべながら、マリアに語った。
「ここはね、マリアンナ。私とクレア先生で作った地獄なの」
「えっ?どういうこと?」
「私達はネクロマンサー系の魔道師だから、できることなんだけどね」
「ネクロマンサー(死霊使い)……が、地獄を作ることができるとは……。あの男女は何だ?」
「人魚達は生前、いま食らい付いている男に汚され、壊された女の成れの果てよ」
「何だと?」
 その時、1番最初にロープを上がってきた男が、マリア達のいる高さまでやってきた。
「な、なぁ、アンタ……助けてくれ……!」
 男がジェシカに向かって懇願した。
 少しの間、黙って微笑を浮かべていたジェシカ。
 マリアは険しい顔をして、男とジェシカを見比べる。
「な、何でもする!だから……!」
 するとジェシカの微笑が冷笑に変わった。
「助けてくれ……か。あなたは生前、そうやって助けを求めた女性を何人、汚して壊してきたのかしら?」
「!?」
 マリアが目を丸くした。
 懇願する男は気づいていないようだが、その背後に忍び寄るモノ……。
「わあああああっ!?な、なんだコイツは!?」
 下半身が大蛇、上半身が半裸の女だった。
「!!!」
 マリアも目を背けるほどの残忍な方法で、男は食い殺されていった。
 返り血がジェシカのローブに少し掛かる。
「チッ……!汚らわしい……」
「ジェシカ。あれだけ大きなモンスターとなってきたヤツが、1番恨みの大きいヤツということか?」
 するとジェシカは意外そうな顔をした。
「マリアンナらしくないねぇ……。あなたもレイプの被害者なのに、その罪に大小の差があると思うわけ?」
「えっと……そりゃあ……」
「あなただって何人もの“狼”達に汚され、壊されたクチでしょう?あなたの場合は人間だった頃に悪魔と契約して、次々と復讐していった。そうだね?」
「まあね」
「私も同じだから」
「!?」
「私もクレア先生も、人間だった頃に“狼”達に襲われたクチだから」
「そう……だったのか。ネクロマンサーは、こうやって地獄を作って責め苦を受けさせているわけか。なるほど。こういう復讐もアリだな」
「で、話を戻すよ。何度も受けたレイプの被害で、あなたが1番印象に残っているのは?」
「? ジェシカ、今さっき『レイプという罪に大小の差は無い』と言っただろう?」
「もちろん。でも、“復讐劇”となると話は別。私は、私のバージンを無理やり奪い取ったヤツが1番許せなかった。クレア先生は、レイプを手引きした黒幕……?が、1番許せなかったんだって。……あなたはどうなの?」
「私は……」
 すると、またロープを上がって来る男がいた。
 それも1人ではない。
 2人、3人とロープを上がって来る。
 今度はジェシカが驚く番だった。
「私は……あなたやクレア先生と決定的に違う所がある」
「えっ?」
 マリアは産声を上げる双子の赤ん坊を抱えた。
「この子らを悪魔に食わせることになった、全員同罪だ」
「……ッ!マリアンナを勝手に“母親”にした“父親”は前に出ろ!!」
 既に10人くらいに達した男達に、ジェシカが怒りの声を上げた。
 だが、全員が否定し、更に互いに罪をなすり付け合う有り様だった。
「“魔の者”の正体はこの子達かもしれないが、そうした大元は結局こいつらだったということさ」
 マリアは人形達を男達と同じ数だけ召喚した。
 既に手には全員、大型ナイフを手にしている。
「皆、それでアレ、ぶった切って!」
 人形達は主人たるマリアの命令に、忠実に従った。
 男達の大絶叫が血の池だけでなく、岩場からもこだました。
「マリアンナもえげつないね。でも、気持ちは分かる。……何か、ゴメンね。処女奪われただけの私より、もっとヒドい目に遭ったあなたの前で偉そうに被害者面して……」
「いや、いいよ。ていうか、そんなこと言わないでよ。汚されて、壊されたことに変わりは無いんだから。むしろ、礼を言いたいくらいだ」
 いつの間にかマリアの子宮から出て来ていた、父親不明の赤ん坊達も消えていた。
「だから……」
 マリアがまだ言い終わらないうちに、何故かジェシカはバッと立ち上がった。
「!?」
 そして、岩場を暗闇の方に向かって走って行く。
「どこ行くの!?」
 マリアも急いで後を追った。

「な、何ですか、あなた達は!?」
 血の池で罪人達に食らい付いていた人魚2人に、両腕を掴まれている男がいた。
「うふふふふふ……。まさか、ここから来るとは思わなかったわ。あなたは何人、女性を汚し、壊してきたの?」
「は?!え!?け、汚す!?壊す!?何のことですか!?僕にはさっぱり……」
 まだ20代前半と思しき若い男は、完全にテンパっているようだった。
「あいにくと、ここでは黙秘権も拒否権も無いのよ。裸にひん剥いて、池に落としてや……!」
「ま、待って!」
 ジェシカが人形達に命令する直前、マリアが追い付いて止めた。
 あまり体力に自信が無く、むしろ体が弱いマリアに、短距離とはいえ、全力疾走はキツかったようだ。
 肩で息をしながら、ジェシカに言う。
「そ、その人は……ち、違うの……」
「違う?どうして?ここに来る以上、何らかの性犯罪を犯してきているはずよ。それもレイプ以上の罪をね!」
「ぼ、僕はそんなことしてません!」
「いや、多分、ユウタはしないと思う……」
「ん?もしかして、マリアンナの知り合い?」
「そうだよ!」
「韓国じゃ、デート・レイプとか近親相姦とか流行ってるらしいからねぇ……」
「僕は日本人です!」
「都合が悪くなると、日本人に成り済ますって聞いたことがあるわ」
「いや、ジェシカ。こちらの調査では、ユウタは生粋の日本人だ。ていうか、それ以前にイリーナ先生の弟子で、私の弟弟子だから!」
「ん?……ああ!最近入った日本人の弟子って、このコだったの!」
 ようやく疑いの晴れた稲生は、解放されることができた。
「私は先に帰るわ。あなた達も、テキトーに帰って」
「ジェシカ!……全く。ユウタ、悪かったな」
「あ、いえ……。ここはどこなんです?」
「……いや、何でもないさ。ユウタは、ここに呼ばれるような男じゃないと信じるよ」
「えっ?どういうことですか?」
「いいから、ユウタは先に戻って。私も後から行く」
「は、はあ……」

 稲生は踵を返した。
 そして暗闇の中に戻ると、完全に感覚を失った。
コメント (4)
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