報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「水子の呪い」

2015-12-11 19:21:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間03:25.魔界アルカディア王国・首相官邸 内閣総理大臣・安倍春明&イリーナ・レヴィア・スカーレット]

{「ハル!一体、どういうこと!?」}
 電話口の向こうで、かつての魔王討伐パーティの女戦士だった仲間の大声が聞こえる。
 その声を左耳で聞きながら、パーティの元リーダーで勇者だった首相が答えた。
「実はあの船には、大魔道師イリーナ先生のお弟子さん方が乗船されていることが分かった。このまま“ライディーン”を撃つと、お弟子さん方まで海の藻屑にしてしまう。何とかそっちで緊急停止作業ができないか?」
{「設計者が何言ってんの!『カウントダウン開始後の停止はできないから、取扱いには要注意』って言ったのアンタでしょ!?」}
「ま、まあ……そうなんだが……。照準を変えてみるとか……」
{「だから!カウントダウン開始前はどうとでもできるけど、開始後は一切できないって言ってたじゃない!」}
「そう、だよな……。すまん。つまらぬことを言ってしまった。それじゃ」
 ハルは旧式の黒電話の受話器を置いた。
「すまない、イリーナ先生。“ライディーン”の緊急停止はできそうもない。最低でも1発は撃たないと、暴発してもっと大変な事態を引き起こしてしまう」
「そうですよねぇ……」
 イリーナは残念そうな顔をした。
「イリーナ先生ほどの御方でしたら、お弟子さん達だけをピンポイントで召喚できる魔法をお持ちでは?」
「それが、今はダメなのよ」
「えっ?」
「どうも今、“魔の者”と近接交戦中みたいでしてね、ヘタすると“魔の者”ごと、ここに召喚してしまう恐れが……」
「そ、それは困ります!」
「“ライディーン”の発射時間は、あと何分ですか?」
「さっきレナが10分ほどだと言ってました」
「10分ですか。微妙だなぁ……」
「お詫びと言っては何ですが、“ライディーン”発動後は我が軍の飛空艇を出して救助に向かわせます」
「そうしてもらいたいものですわ。まあ、マリアとユウタ君が生き残ってたらの話ですが」
「全力を尽くします」
 安倍はグッと両手の拳を握った。
「もし私の可愛い弟子達が、本当に海の藻屑になったとしたら……それ相応責任は取って頂きますからね?」
 イリーナはカッと目を見開いて安倍を見据えた。
「祖国の……遠い親戚が、靖国神社に玉串料を納めに行くようですので、ついでに祈願してもらうようにお願いしておきます」
「願いが届くといいわね」

[期日不明 時刻不明 天候:曇 クイーン・アッツァー号(船首甲板) 稲生勇太&マリアンナ・スカーレット]

 辛くもジェシカに化けた“魔の者”を倒したっぽい稲生達。
 しかしそのジェシカの下半身から、全身白い肌の赤ん坊が出てきて、マリアに向かってハイハイしてきた。
「な、何だ!?」
「これが、“魔の者”の正体……!?」
 マリアが2〜3歩後ずさりすると、ドンと背中に何かが当たった。
 振り向くとそこにいたのは、
「サンモンド船長!?いつの間に!?」
 サンモンドであった。
「何故逃げるのかね?感動の親子の再会だというのに……」
「は?」
「サンモンド船長!?」
 赤ん坊はマリアの右足に抱きついて泣き出した。
「サンモンド船長!いきなり何を言うんですか!?」
 稲生がサンモンドに食って掛かった。
「“魔の者”の正体は、日本で言う水子だ。マリアンナが魔道師になってから現れた“魔の者”、それと向き合おうとせず日本国へ逃げたこと、無意味に子宮を狙ったこと、全て辻褄が合った!」
「な、何を言ってるんだ?私は赤ん坊のことなど知らない……」
 マリアが茫然として言った。
「なるほど。イリーナのヤツ、都合良く記憶を消していたか。ならば、思い出させてやろう!現実と向き合うが良い!」
 サンモンドは船長服の中から、ある物を出した。
 それは赤紫色の大きなナイフだった。
「船長、それは!?」
「これこそが、“魔の者”を倒す最終兵器!マリアンナの封じられた忌まわしき記憶を解き放ち、それに向き合うことこそが、“魔の者”に対する最強の武器だということが分かった!」
 サンモンドはソウルピースで作ったナイフを、赤ん坊に投げ刺した。
 赤ん坊が大泣きしたと思うと光が発生し、マリアがそれに包まれる。
「いやああああああああっ!!」
 マリアが頭を抱えてその場に倒れ込んでしまった。
「マリアさん!大丈夫ですか!?な、何て事するんですか、船長!?」
「案ずるな。彼女は、忌まわしき記憶と向き合わなければならない。このままイリーナのやり方だと、魔道師達はいつまでも“魔の者”に警戒し続けなくてはならなくなる」
「そ、そんな……!」
「稲生君、ここは私に任せてくれないか?上空を見たまえ」
「えっ?」
 一旦は止んだはずの嵐。
 しかし、また雷鳴が轟き始めている。
「魔王軍が、この船を新兵器で沈めようとしている動きがあるのは知ってるね?」
「え、ええ……」
「急がないと、この船が海の藻屑になってしまう。UAVは私が組み立てておくから、キミはそれを発射する制御室に行くんだ」
「制御室はどこに?」
「船尾部分の船底にある。キミ達が探索した機関部より、もっと船尾に近いところだ。そこへはサイドデッキを通って船尾に向かい、エレベーターで下りると良い」
「わ、分かりました」
「おっと!その前に、これを渡しておこう」
 サンモンドは稲生に、ショットガンを渡した。
「プロムナードにモンスターがいたように、恐らく制御室に行く間にもモンスターはいるだろう。この銃には、銀弾が装填されている。魔物でも被弾すれば倒せるシロモノだ」
「ありがとうございます」
「急いで向かってくれ!残された時間は少ない!」
「はい!」
 稲生は急いで制御室に向かった。

[期日不明 時刻不明 場所不明 マリアンナ・スカーレット]

(ここはどこだ……?)
 腐臭漂う暗闇の道。
 しかし、どこかで嗅いだことのある臭いだ。
 それは恐らく地獄界。
 自分は死んで、地獄界に堕ちたのだろうか。
 ここに来る前、自分の生き様を強制的に見せられた。
 それは地獄のような光景だったから、疑いようが無い。
 自分は何度も輪姦された挙句、望まぬ子を宿してしまい、しかもそれが双子であること。
 それが、自分が魔道師になるに当たって、契約する悪魔のベルフェゴールとの取り引きに使われたこと。
 最後の最後まで他人どころか、自分の子宮から出て来た命まで蔑ろにした罪に問われ、堕獄したことは致し方無いことであろう。
 しばらく歩くと、何だか明るくなってきた。
 血の腐った臭いがした。
 いつの間にかそこは岩場になっていて、岩山の崖から下を覗いてみると、全裸の男達がその血のように赤い池……もしくは湖みたいな所で、もがき苦しんでいた。
(ここは叫喚地獄か?しかし、それにしては獄卒がいないが……)
 と、もがき苦しむ男達の所に、どこからともなく一本のロープが下ろされてきた。
 1人の男が気づいて、そのロープにしがみつく。
 すると、まるで芥川龍之介の“蜘蛛の糸”に出てくるカンダタの話のように、そのロープに向かって泳ごうとする男達が目立つようになる。
 ところが、2番目に辿り着いた男がそのロープを掴もうとすると、赤い水の中から出て来た全裸の女に掴まれ、沈められてしまうのだ。
 男達は全裸の人間のように見えたが、女達は半裸で下半身が魚の形態をした、つまりは人魚のような姿をしていた。
 それどころか、中には鋭い牙を持った人魚もいて、男に食らいつくのであった。
(これは……何の地獄なんだ???)
 マリアは眉を潜め、首を傾げた。
 更に観察してみると、人魚達は手近にいる男を無闇やたらに狙っているわけではないということが分かって来た。
 どうやら、Aという人魚はaという男を、Bという人形はbという男を特定して襲っているのである。
 そうして沈めたりして弄び、食いついたりして更なる苦痛を与える。
「ようこそ。マリアンナ」
「はっ!?」
 いつの間にか右隣から、女の声がした。
 バッと右を向くと、見覚えのある女性がいた。
「あ、あなたは……ジェシカ!?」
「ハイ。ここでは、『初めまして』かしら?」
 ジェシカはニコッと笑ってマリアに挨拶した。
「死んだあなたがここにいるってことは、私も死んだってこと……なんでしょ?ここは地獄!?地獄だよね!?」
 すると再びジェシカは目を細めた。
「地獄……そうねぇ。確かに、地獄でしょうね」
「こんな形態の地獄、見たことないわ。一体、どこに所属する地獄なの?」
「……分かったわ。種明かしをしてあげる」

 ジェシカがマリアに語った話とは、とても不思議なものであった。
「復讐心の強いあなたにも、是非それを満たしてもらおうと思って、ここに招待したのよ」
「招待?」
 一体、どういうことなのだろうか?
コメント (6)
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“大魔道師の弟子” 「カウントダウン」

2015-12-11 00:18:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[時期不明 時刻不明 天候:曇 クイーン・アッツァー号(プロムナード) 稲生勇太&マリアンナ・スカーレット]

 エレベーターがホールに到着し、稲生達はプロムナードへ向かった。
 ホールからアクセスしようとすると、下に降りる階段がある。
 プロムナードは二層構造になっており、船にいながらにして、ナポリの商店街にいるようなイメージで設計したらしい。
 稲生がバックヤードのエレベーターを使用した時、シャッターが固く閉ざされていた。
 それが今、
「ギャアアア!」
「ウウウ……」
「シャアアアアアッ!」
 魔界のモンスターの群れが占拠していたのか、そのシャッターが破られ、稲生達の歓迎セレモニーの準備を行っていた。
「この前通った時は静かだったのに!」
「悪いが時間が無い!パペ・サタン・パペ・サタン、アレッペ!……イォ・ナ・ズゥム!」
「イオナズン!?凄い!」
 大きな衝撃と爆風がモンスター達に襲い掛かる。
 大ダメージを負ったはずだが、それでも稲生達にまだ向かってくる者がいた。
「マリアさん、エレベーターはこっちです!」
「!」
 稲生がバックヤードに行くドアを開けた。
 そこに飛び込み、内鍵を掛ける。
 ドアの向こうで、生き残ったモンスター達が鉄製のドアをドンドン叩いていた。
「しつこい魔物達ですね!」
「そういうものだ!で、エレベーターはどこ!?」
「あっちです!」
 稲生がL字型の廊下を曲った時だった。
「うっ!?」
 廊下の向こうから、爬虫類だか両生類だかの生物を化け物にしたようなモンスターが3匹ほどこちらに向かって来た。
「くそっ!どっから入って来たんだ!?」
「私の魔力が持つかどうか……」
 マリアはまた杖を構えたが、
「いえ、僕がやります!」
「えっ?」
 稲生は手持ちの鞄に手を突っ込むと、ゴルフボールくらいの大きさの弾を3個ほどモンスター達に向かって投げた。
 大きさはソウルピースくらいだが、それとは色合いも形も違う。
 その稲生が投げた球は、空中で光り出した。
 モンスター達が一瞬、その球に気を取られる。
「マリアさん、隠れて!」
 稲生はマリアの手と肩を掴むと、廊下の曲がり角の陰に一緒に隠れた。
 と、次の瞬間、大きな爆発音が響いて、モンスター達が吹き飛んでしまった。
「あれは……。爆弾岩のかけらか。よく見つけたね?」
 マリアが感心したように言った。
「まあ、この船には色々と落ちているようです。これもあります」
 稲生は体力回復薬をマリアに渡した。
「ありがとう」
 件の薬は何もHPだけでなく、魔法を使う為の力、いわゆるMPも回復させる効果がある。
「飲んだら、行きましょう。エレベーターはすぐそこです」
「ああ……うん」

[クイーン・アッツァー号(船首甲板) 稲生&マリア]

 エレベーターが船首甲板のラウンジに到着する。
 ここにモンスター達が潜んでいることは無かった。
「意外とアイテムが落ちてるな」
 マリアがヒョイヒョイと拾い上げる。
「あ、これ、アイテムだったんですか」
「よく探してなかったのか?」
「す、すいません……」
「ほら、こんな所にまた爆弾岩のかけらが落ちていたぞ」
「いい手榴弾代わりです」
 稲生は頷いて受け取った。
 因みに魔道師が使う攻撃魔法と、稲生が使った攻撃魔法具では敵だけを攻撃することができ、それ以外の物は壊れないという、正に魔法である。
 ラウンジから船首に出るドアには鍵が掛かっていたが、稲生が船橋区画で手に入れた鍵で開けることができた。
「急いで船首に!」
 往時はヘリポートになっていたのだろう。
 それが今では、怪しげなコンテナが積載されていた。
 冥界鉄道公社でも珍しい貨物列車に乗せるコンテナのようだ。
 ところがだ。
「うふふふふふふ……!ママ……やっと……会えた……!」
 まだ暗闇の中を航行する船。
 ろくに照明の無い船首部分においては、“魔の者”が現れるのに十分だったようだ。
「ママ?ユウタ、あいつ、何を言ってるんだ?」
「さあ……?」
「MAaaaaMAaaaaaa!I need HUGuuuuuuu!!」
「来るぞ、ユウタ!」
「これがラスボス戦だといいなぁっ!」

[同日同時刻(03:23.) アルカディア王国・魔界正規軍駐屯地 レナフィール・ハリシャルマン大佐]

 魔王軍で開発された最新兵器の前に立つのは、安倍春明首相と大して歳の変わらぬ女性。
 軍服姿にサーベルを携えるその姿は、佐官でありながら、正に女将軍と言うに相応しい風格を放っていた。
 浅黒い肌に黒い髪を腰まで伸ばし、ヘアバンドで留めている。
 彼女はまだ魔界の女王ルーシー・ブラッドプール1世が人間界に敵意を剥き出しにしていた頃、それを討伐する勇者だった安倍のパーティーに加わった戦士である。
 ルーシーが安倍と和解し、旧政権らを放逐して再び即位してから安倍の招聘によって、再構築された新生魔王軍の司令官に抜擢された。
 当初は行方不明の弟が見つかるまでという理由で固辞していた彼女だったが、無事に見つかり、招聘に応じている。
 安倍の話では最初から大将として迎えたかったらしいが、旧・魔王軍から登用された将校達もいるので、さすがにそれは……となり、士官学校卒業時の准尉から始めることにしたが、見る見るうちに階級が上がり、今に至る。
 そのレナフィールは戦士としての実力はもちろん、将軍としての資質もあったようで、ちゃんと部下はついてきているもよう。
「閣下!」
 伍長の階級章を着けている魔族の下士官が、レナフィールの姿を見て敬礼した。
「“ライディーン”の調子はどうだ?」
「はっ!今のところ、順調です。起動値、目標への照準等、全て異常ありません」
「あと、どれくらいで発射できる?」
「カウントダウンを開始し、残すところあと10分ほどです」
「10分か。意外と長いな」
「威力を十分に高める為の時間が、どうしても必要なのです」
「まあ、ハル(安倍春明の仲間からの愛称)の開発した兵器にケチをつけるのもアレだが、もう少し早くしてもらいたいものだな」
「クイーン・アッツァー号の岸壁衝突予想時刻は、およそあと2時間後ですので、十分に間に合う見込みです」
「なるほど。人間界の科学力と魔界の魔法力、足して2で割った最新兵器の威力、お手並み拝見といったところだな」
「さようであります」
 と、そこへ、
「し、司令官殿!」
 別の兵士が血相を変えて走ってきた。
「閣下は巡察中である!用件なら後にしろ」
 レナフィールの従卒兵(こちらも体育会系といった女性兵士)が、その兵士を制止した。
「何か緊急事態か?」
 レナフィールが、従卒兵にその兵士を放す様、合図した。
「安倍総理閣下から緊急電です!直ちに“ライディーン”の起動を停止させよと!」
「はあーっ?!」
 レナフィールは素っ頓狂な声を上げ、その場にいた別の兵士達も驚愕を隠し切れなかった。
コメント (3)
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