[期日不明 時刻不明 クイーン・アッツァー号・大ホール→レストラン 稲生勇太]
客室エリアから3階まで吹き抜けの大ホールに出る。
非常電源しか動いていない割には、以外とホールは明るかった。
円形のホールは、まるで魔王城のそれを彷彿とさせた。
大きな振り子時計が規則正しく振り子を動かし、ホール内にコーンコーンとその音が聞こえる。
しかしその上の時計は普通の時計ではなく、いわゆる天文時計というヤツで、稲生にはそれで今何時かは分からなかったし、それが本当に正しい時を刻んでいるかどうかも怪しかった。
「レストランはどこだろう?」
ホールを歩き回っているうち、入口のカーペットに“プロムナード”と書かれたドアを見つけた。
こういう船でプロムナードというと、売店が集まっている部分というイメージが稲生にはあった。
もしかしたら、そこにもレストランがあるかもしれないと思い、このドアを開けた。
が、
「シャッターが閉まってる……」
照明は最初から点灯していて明るかったが、階段を下りた先はシャッターが固く閉ざされていた。
階段の上には、『緊急事態発生の為、プロムナードの営業は全て中止します』と書かれていた。
もちろん、英文である。
では何故、最初からホール側のドアに鍵を掛けておかなかったのかというと、階段を下りる手前を右に曲がると、バックヤードの入口がある。
そこに入ってしばらく進むと、エレベーターがあった。
見覚えのある場所だ。
稲生はスターオーシャン号に初めて乗った時、このバックヤードからエレベーターに乗って、船長室に向かったのだ。
ということは、このエレベーターを起動させれば、クイーン・アッツァー号の船長室に戻れるというわけだ。
エレベーターの起動スイッチは鍵型になっていて、OFFの所に回され、鍵が抜かれていた。
それで、船長室近く……船橋区画でボタンを押しても作動しなかったのだ。
注意深く辺りを探すと、鍵を見つけた。
(もしかして……?)
鍵を差し込むと、エレベーターが起動した。
「よしっ!」
今さら船長室に戻る用があるとも思えないが、試しにこのエレベーターで他のフロアに行ってみようと思った。
エレベーターに乗り込んでみて、ボタンがいくつがあるが、表示があるのが、『船首甲板』と『船橋部』のみ。
そのうち、まだ行ったことないのが船首甲板だ。
稲生は、船首甲板に行くボタンを押した。
エレベーターは上昇を始め、無事に到着した。
降りると、すぐに船首部分に出るわけではなかった。
何やら、ラウンジのようになっている。
ソファやテーブルが無造作に置かれていた。
“魔の者”の騒動で、ここも大変だったのだろうか。
窓の外を見ると、外は大嵐になっているようだ。
時折、波しぶきが船首甲板部分にまで上がってきている。
実際の船首部分には、ヘリポートがあるのが分かった。
こういう豪華客船には緊急用のヘリポートが設置されているものだが、ということは、この船はそんなに昔の船でもないということだ。
ここにも体力回復薬などがあったので、頂いて行くことにした。
このラウンジから実際に船首甲板やサイドデッキに出られるようだが、この嵐では出るのは却って危険だろう。
で、ここにも例のレリーフがあった。
(そうだな……。ソウルピースも、いくつか集まったし)
稲生は本を翳して、サンモンドに会うことにした。
[期日不明 時刻不明 天候:晴 スターオーシャン号・船長室 稲生&サンモンド・ゲートウェイズ]
クイーン・アッツァー号のいる場所は嵐だったが、ここは穏やかな月明かりだ。
両者のいる位置は全く違うのだろうか。
「やあ、船酔いは大丈夫かい?まあ、これだけの大型船だ。そんなに揺れることはないと思うがね」
サンモンドは相変わらず執務机の前に座り、机の上に手を組んでいる。
「まあ、乗り物には強い方ですから」
「フフフフフ……。まあ、そうでないと、鉄道マニアは務まらんからね。今日は、何の用だい?」
「また、いくつかソウルピースが集まりましたので」
「そうかい。助かるよ。いつもすまないねぇ……。アイテムは……色々持っているようだし、今回の謝礼は情報提供でよろしいかな?」
「ええ」
「では、キミの知りたいことを教えてくれないか?何でも答えてあげよう」
「えーと……」
「フフフ……。まあ、いきなり聞かれると、急には答えられないかな?キミは以前、マリアンナ君の再登用について聞きたかったのではないかな?」
「あ、そうですそうです!」
「ふむ。マリアンナ君の再登用に当たって、以前契約していたベルフェゴールとの再契約が決定している。だがそれに当たっては、改めてまた人間の魂を提供しなければならない。それについて、どうなのか?ということだったね?」
「そんなところです。ベルフェゴールは、『改めて魂を要求することはしない』ということなんです」
「結論から言うと、ベルフェゴールは既にもう魂を受け取ったからだよ」
「えっ?」
「もう既に受け取っているわけだから、改めてまた要求することはしないってことだね。契約をきっちり守るのが悪魔、それも高級な悪魔なら、それを遅滞なく、一分の漏れなく遂行するのを最良とする。彼の場合、人間の魂1つという条件で契約が決まっているわけだから、もう1つ要求するのは契約違反になるからね」
「だ、誰の魂を既に受け取ったというんです?」
「マリアンナ君が魔道師になるに当たって、誰の魂を提供したかは知ってるね?」
「ええ……」
人間時代に幾度かの性的暴行を受けたマリア。
その為、父親の分からぬ望まぬ命を宿してしまった。
堕胎させるに当たり、ベルフェゴールにその胎児の魂を食らわせたと稲生は聞いている。
「それが答えだよ」
「……は?」
「だから、その時にもう魂は提供してるんだよ」
「い、いや、意味が分かりません!だって、最初に契約した時に、魂は1つあげて……ええっ?」
「このヒントだけでも分からないかな。もう1つ、ヒントをあげよう。ボーカロイドの鏡音リンと鏡音レン。ベルフェゴールが最初に食らったのは、レンの方だ」
「……ま、まさか!?」
「……彼女が宿していた望まぬ命は、1つだけではなかったということだよ。ベルフェゴールは、そこで2つの魂を食ってしまった。つまり今、お釣りが発生している状態だということだよ。……いや、お釣りではないな。商品がもう1つ買えてしまう状態だ。つまり、その余剰分を持って、次回の契約に充てるということなんだろう。ベルフェゴールにとっては、既にもらっている状態。だから、『改めて要求することはしない』と言ったのだろう」
「そうだったんですか……」
「まあ、心配いらない。双子を堕胎はしたが、まだ子供は産める状態のはずだ。だから、安心しなさい」
何を安心しろというのだろう。
「もう1つ情報提供だな。キミはこれから、アッツァーのメイン電源を復旧させようというのだろう?いい判断だ。電気室や機関室は船底にある。船底に向かうといい。船底にはレストランの厨房エレベーターを起動させて、そこから向かうといい。ちょうど鍵を持っているようだしね。レストランの場所は、プロムナードとはホールを挟んで向かい側にある。あ、そうそう。ソウルピースのことだが、もう少し集めてもらう必要がありそうだ。船底部分にも船員達が彷徨っているようだから、彼らを“成仏”させればちょうど良い強さの武器を作れそうだ。じゃ、頑張るんだよ。今、アッツァーでは件のマリアンナ君が乗り込んでいる。上手く合流できるといいね」
再び稲生の目の前が暗くなり、強制的にアッツァーに戻された。
客室エリアから3階まで吹き抜けの大ホールに出る。
非常電源しか動いていない割には、以外とホールは明るかった。
円形のホールは、まるで魔王城のそれを彷彿とさせた。
大きな振り子時計が規則正しく振り子を動かし、ホール内にコーンコーンとその音が聞こえる。
しかしその上の時計は普通の時計ではなく、いわゆる天文時計というヤツで、稲生にはそれで今何時かは分からなかったし、それが本当に正しい時を刻んでいるかどうかも怪しかった。
「レストランはどこだろう?」
ホールを歩き回っているうち、入口のカーペットに“プロムナード”と書かれたドアを見つけた。
こういう船でプロムナードというと、売店が集まっている部分というイメージが稲生にはあった。
もしかしたら、そこにもレストランがあるかもしれないと思い、このドアを開けた。
が、
「シャッターが閉まってる……」
照明は最初から点灯していて明るかったが、階段を下りた先はシャッターが固く閉ざされていた。
階段の上には、『緊急事態発生の為、プロムナードの営業は全て中止します』と書かれていた。
もちろん、英文である。
では何故、最初からホール側のドアに鍵を掛けておかなかったのかというと、階段を下りる手前を右に曲がると、バックヤードの入口がある。
そこに入ってしばらく進むと、エレベーターがあった。
見覚えのある場所だ。
稲生はスターオーシャン号に初めて乗った時、このバックヤードからエレベーターに乗って、船長室に向かったのだ。
ということは、このエレベーターを起動させれば、クイーン・アッツァー号の船長室に戻れるというわけだ。
エレベーターの起動スイッチは鍵型になっていて、OFFの所に回され、鍵が抜かれていた。
それで、船長室近く……船橋区画でボタンを押しても作動しなかったのだ。
注意深く辺りを探すと、鍵を見つけた。
(もしかして……?)
鍵を差し込むと、エレベーターが起動した。
「よしっ!」
今さら船長室に戻る用があるとも思えないが、試しにこのエレベーターで他のフロアに行ってみようと思った。
エレベーターに乗り込んでみて、ボタンがいくつがあるが、表示があるのが、『船首甲板』と『船橋部』のみ。
そのうち、まだ行ったことないのが船首甲板だ。
稲生は、船首甲板に行くボタンを押した。
エレベーターは上昇を始め、無事に到着した。
降りると、すぐに船首部分に出るわけではなかった。
何やら、ラウンジのようになっている。
ソファやテーブルが無造作に置かれていた。
“魔の者”の騒動で、ここも大変だったのだろうか。
窓の外を見ると、外は大嵐になっているようだ。
時折、波しぶきが船首甲板部分にまで上がってきている。
実際の船首部分には、ヘリポートがあるのが分かった。
こういう豪華客船には緊急用のヘリポートが設置されているものだが、ということは、この船はそんなに昔の船でもないということだ。
ここにも体力回復薬などがあったので、頂いて行くことにした。
このラウンジから実際に船首甲板やサイドデッキに出られるようだが、この嵐では出るのは却って危険だろう。
で、ここにも例のレリーフがあった。
(そうだな……。ソウルピースも、いくつか集まったし)
稲生は本を翳して、サンモンドに会うことにした。
[期日不明 時刻不明 天候:晴 スターオーシャン号・船長室 稲生&サンモンド・ゲートウェイズ]
クイーン・アッツァー号のいる場所は嵐だったが、ここは穏やかな月明かりだ。
両者のいる位置は全く違うのだろうか。
「やあ、船酔いは大丈夫かい?まあ、これだけの大型船だ。そんなに揺れることはないと思うがね」
サンモンドは相変わらず執務机の前に座り、机の上に手を組んでいる。
「まあ、乗り物には強い方ですから」
「フフフフフ……。まあ、そうでないと、鉄道マニアは務まらんからね。今日は、何の用だい?」
「また、いくつかソウルピースが集まりましたので」
「そうかい。助かるよ。いつもすまないねぇ……。アイテムは……色々持っているようだし、今回の謝礼は情報提供でよろしいかな?」
「ええ」
「では、キミの知りたいことを教えてくれないか?何でも答えてあげよう」
「えーと……」
「フフフ……。まあ、いきなり聞かれると、急には答えられないかな?キミは以前、マリアンナ君の再登用について聞きたかったのではないかな?」
「あ、そうですそうです!」
「ふむ。マリアンナ君の再登用に当たって、以前契約していたベルフェゴールとの再契約が決定している。だがそれに当たっては、改めてまた人間の魂を提供しなければならない。それについて、どうなのか?ということだったね?」
「そんなところです。ベルフェゴールは、『改めて魂を要求することはしない』ということなんです」
「結論から言うと、ベルフェゴールは既にもう魂を受け取ったからだよ」
「えっ?」
「もう既に受け取っているわけだから、改めてまた要求することはしないってことだね。契約をきっちり守るのが悪魔、それも高級な悪魔なら、それを遅滞なく、一分の漏れなく遂行するのを最良とする。彼の場合、人間の魂1つという条件で契約が決まっているわけだから、もう1つ要求するのは契約違反になるからね」
「だ、誰の魂を既に受け取ったというんです?」
「マリアンナ君が魔道師になるに当たって、誰の魂を提供したかは知ってるね?」
「ええ……」
人間時代に幾度かの性的暴行を受けたマリア。
その為、父親の分からぬ望まぬ命を宿してしまった。
堕胎させるに当たり、ベルフェゴールにその胎児の魂を食らわせたと稲生は聞いている。
「それが答えだよ」
「……は?」
「だから、その時にもう魂は提供してるんだよ」
「い、いや、意味が分かりません!だって、最初に契約した時に、魂は1つあげて……ええっ?」
「このヒントだけでも分からないかな。もう1つ、ヒントをあげよう。ボーカロイドの鏡音リンと鏡音レン。ベルフェゴールが最初に食らったのは、レンの方だ」
「……ま、まさか!?」
「……彼女が宿していた望まぬ命は、1つだけではなかったということだよ。ベルフェゴールは、そこで2つの魂を食ってしまった。つまり今、お釣りが発生している状態だということだよ。……いや、お釣りではないな。商品がもう1つ買えてしまう状態だ。つまり、その余剰分を持って、次回の契約に充てるということなんだろう。ベルフェゴールにとっては、既にもらっている状態。だから、『改めて要求することはしない』と言ったのだろう」
「そうだったんですか……」
「まあ、心配いらない。双子を堕胎はしたが、まだ子供は産める状態のはずだ。だから、安心しなさい」
何を安心しろというのだろう。
「もう1つ情報提供だな。キミはこれから、アッツァーのメイン電源を復旧させようというのだろう?いい判断だ。電気室や機関室は船底にある。船底に向かうといい。船底にはレストランの厨房エレベーターを起動させて、そこから向かうといい。ちょうど鍵を持っているようだしね。レストランの場所は、プロムナードとはホールを挟んで向かい側にある。あ、そうそう。ソウルピースのことだが、もう少し集めてもらう必要がありそうだ。船底部分にも船員達が彷徨っているようだから、彼らを“成仏”させればちょうど良い強さの武器を作れそうだ。じゃ、頑張るんだよ。今、アッツァーでは件のマリアンナ君が乗り込んでいる。上手く合流できるといいね」
再び稲生の目の前が暗くなり、強制的にアッツァーに戻された。