[12月14日11:00.魔界アルカディア王国・王都アルカディアシティ(サウスエンド駅→博麗神社) 稲生勇太&威吹邪甲]
901系電車が2面4線の駅に滑り込む。
路線図的に東京の山手線の大崎駅辺りと思われるが、駅の構造も、りんかい線や湘南新宿ラインが開通する前の大崎駅のようだった。
電車を降りて線路の先を見ると、引き上げ線のようなものが見られたため、それからして車両基地が付近にあり、出入庫仕業の電車もあると思われる。
急行電車に化ける901系の隣には、実際当駅始発と思われる電車が停車していた。
車両はモハ40系に酷似していた。
(こっちに乗りたかったなー……)
901系も、それはそれで珍しい電車ではあったが、量産型の209系自体はまだ東日本の地域で運転されていることからすれば、そんなに目新しいものでもない。
改札口の外に出ると、
「やあ、ユタ」
威吹が迎えに来ていた。
「迎えに来てくれたんだ?」
「駅から先の行き方、分からないだろ?」
「あ、まあ、そうか」
人間界の感覚でグーグルマップとか、ナビタイムでも使うつもりだったが、当然魔界ではそんなもの使えない。
「この辺りも不用心でね、僕も夜警に回ることが多いんだ」
「へえ……。あ、そうそう。これ、手土産」
「あ、何か悪いね。気を使ってもらっちゃって……」
「いいよ。僕の方こそ、押し掛ける感じで」
「それまでの付き合いがあるんだから、気にしなくていいよ。取りあえず、行こう」
アルカディアシティのサウスエンド地区は、直訳すると『南端』という意味なので、この辺りに住む日本人移住者は『南端村』と呼んでいる。
実際、駅前広場の看板には、『ようこそ!閑静な郊外の町、サウスエンド(南端村)へ!』と掲げられいた。
さすがにここには魔界高速電鉄・高架環状線の駅があるだけで、ここから地下鉄や路面電車への乗り換え路線は無かった。
元々は城壁の上を走るトロッコ列車がルーツだとされる環状線。
駅の外は、基本的に城壁の外なわけだから、本来の意味で城下町から出ることになる。
今の行政区としてはアルカディアシティの中にいるわけだが、昔ながらの城下町からは出ることになるので、別の村だという考えから、『南端村』という名前が付けられたのだろう。
城壁の外は内戦から疎開した人間達が多く住む地区もあり、特にこのサウスエンド(南端村)は日本人村とも言われている。
魔王討伐隊としての安倍春明の勇者パーティは、この隣の駅、東京なら品川駅に相当するサウスゲート駅から、線路を通って魔界民主党が政権を牛耳っていたシティ内へ侵入している(さすがに内戦中は電鉄も運行を中止していた)。
その為か、ここでは安倍政権への支持層が多い。
そんな話を聞きながら、稲生は村の外れにある大きな神社に辿り着いた。
当然、大きな鳥居が目立つ。
日本人村が形成された辺りから建立されたらしいが、長らく神主不在であったという。
そこで、権禰宜の資格を持っているさくらが代行しているそうだ。
日本国憲法では政教分離が謳われているため有り得ないが、ここでは国家予算の中から増改築されたこともあって(大魔王バァル討伐に対する褒賞の一環である)、安倍春明率いる魔界共和党のポスターが貼られている。
アルカディア王国は立憲君主制で、議会は一院制の一党制である。
理由は二院制や多党制にするほど、政治家の人口が多くないため。
あえて王制を残すことで政党の独裁政治を防ぎ、また、議会を立てることで、王制の絶対化を防ぐ目的もある。
憲法では議会の方で王権を停止させることができるし、議会(実質、与党のみ)が暴走した際は王権で持って強制解散させることもできる。
それでもにっちもさっちもいかなくなったら、今度は総理大臣が調整に入れる権限がある。
国がまだ若いということもあって、今のところはまだそんな混乱は起きていない。
「ただいまァ」
「こんにちはー」
神社の境内に入り、裏手の住まいの所へ回る。
「お帰りなさい。……あ、稲生勇太さんですね。いらっしゃいませ」
楚々とした感じの女性が奥からやってきた。
着物姿だが、袴は緋色ではなく、浅葱色であった。
やはりここでは巫女ではなく、神職としての顔であるらしい。
「お久しぶりです。大魔王戦以来ですね」
魔王城の最深部に安置されていた大水晶の中に閉じ込められていたさくら。
バァルの野望が打ち砕かれたことで、大水晶も役目を失って瓦解し(たことになっているが、稲生の霊力によるところも大きいとされ)た。
そして中にいたさくらも解放され、稲生とさくらは400年越しの恋を叶えて、今に至っている。
人間界に戻るという選択をしなかったのは、江戸時代から400年も魔界にいた女性が、今さら人間界に馴染めるかどうか不確定要素が大きかったからである。
幸い新政府(現政府)からの褒賞もあり、威吹として元々は魔界の住民であったわけだから、これを機に魔界で暮らすことになったわけである。
「はい。その節は本当にお世話になりました」
「さ、ユタ、上がってよ」
「お邪魔します」
ユタは靴を脱いで上がった。
「さすがに社殿には行けないか」
威吹は苦笑いした。
「どうもねー、藤谷班長の話だと、僕は正式に脱講していないみたいなんだ」
「ほお……?」
「魔道師だの、魔界だの、そんなものは人間界ではとても信じ難い話じゃない?」
「まあね」
「『魔道師になるから脱講します』じゃダメみたいだよ」
「なるほど……。魔道師自体、寺の坊主でもなければ、神主でもないわけだからな」
「悪魔と契約して色々やるのが仕事なんだけど、その悪魔達も神話とかキリスト教辺りで取り沙汰されているモノばかりだからね。それだけじゃ、謗法でもないみたいだよ」
「悪魔だって、とても信じられんよ。妖怪のボクでさえね」
威吹はそう言って、肩を竦めた。
立派な床柱のある和室に通され、卓を挟んで向かい合わせに座椅子に着席する。
その座椅子も肘掛けの付いている立派なものだった。
「粗茶でございますが……」
「あ、こりゃどうも。おかまいなく……」
さくらが稲生と威吹に茶を入れて来た。
「ユタもつい先日まで、激しい戦いをしてきたみたいだな。まだ、そんなに疲れも取れていないんじゃないのかい?」
「まあ、病院で点滴も打ってもらったし、ほとんど寝てたからね」
「イリーナの長話に付き合わされたんじゃないのかい?」
「まあ、どうせ1日空いてたし」
「マリアの具合、悪いのか?」
「もうしばらく入院が必要みたいだね」
「まあ、ユタが人間界に戻るまで、ここで何日でもゆっくりしていいよ」
「悪いね」
「いやいや。どうせボクとさくらの2人暮らしだから、そんなら広い家でなくても良かったのに、政府が『活躍してくれたから』という理由で、だいぶ広く造りやがってねぇ……」
「ははは……」
「どうせ土地は一杯あるからったってねぇ……」
「いずれは威吹にも子供ができるんでしょ?その分の広さも考えれば……」
「それでも広過ぎるよ。子供が家で迷子になる」
「はははははは!」
まださくらに妊娠の兆候は無いが、威吹としては家は広いし、生活費に事欠くことも無いので(政府からの慰労金ではなく、威吹の実家から何か援助があるらしい。厄介者扱いだった威吹だが、霊力の強い巫女……今は神職だが、さくらを獲物にしたことで掌を返したようである)、何人か欲しいらしい。
積もる話がかなりあったせいか、盟友達の談笑は何時間にも渡ったと、さくらは参拝者に語っていたという。
901系電車が2面4線の駅に滑り込む。
路線図的に東京の山手線の大崎駅辺りと思われるが、駅の構造も、りんかい線や湘南新宿ラインが開通する前の大崎駅のようだった。
電車を降りて線路の先を見ると、引き上げ線のようなものが見られたため、それからして車両基地が付近にあり、出入庫仕業の電車もあると思われる。
急行電車に化ける901系の隣には、実際当駅始発と思われる電車が停車していた。
車両はモハ40系に酷似していた。
(こっちに乗りたかったなー……)
901系も、それはそれで珍しい電車ではあったが、量産型の209系自体はまだ東日本の地域で運転されていることからすれば、そんなに目新しいものでもない。
改札口の外に出ると、
「やあ、ユタ」
威吹が迎えに来ていた。
「迎えに来てくれたんだ?」
「駅から先の行き方、分からないだろ?」
「あ、まあ、そうか」
人間界の感覚でグーグルマップとか、ナビタイムでも使うつもりだったが、当然魔界ではそんなもの使えない。
「この辺りも不用心でね、僕も夜警に回ることが多いんだ」
「へえ……。あ、そうそう。これ、手土産」
「あ、何か悪いね。気を使ってもらっちゃって……」
「いいよ。僕の方こそ、押し掛ける感じで」
「それまでの付き合いがあるんだから、気にしなくていいよ。取りあえず、行こう」
アルカディアシティのサウスエンド地区は、直訳すると『南端』という意味なので、この辺りに住む日本人移住者は『南端村』と呼んでいる。
実際、駅前広場の看板には、『ようこそ!閑静な郊外の町、サウスエンド(南端村)へ!』と掲げられいた。
さすがにここには魔界高速電鉄・高架環状線の駅があるだけで、ここから地下鉄や路面電車への乗り換え路線は無かった。
元々は城壁の上を走るトロッコ列車がルーツだとされる環状線。
駅の外は、基本的に城壁の外なわけだから、本来の意味で城下町から出ることになる。
今の行政区としてはアルカディアシティの中にいるわけだが、昔ながらの城下町からは出ることになるので、別の村だという考えから、『南端村』という名前が付けられたのだろう。
城壁の外は内戦から疎開した人間達が多く住む地区もあり、特にこのサウスエンド(南端村)は日本人村とも言われている。
魔王討伐隊としての安倍春明の勇者パーティは、この隣の駅、東京なら品川駅に相当するサウスゲート駅から、線路を通って魔界民主党が政権を牛耳っていたシティ内へ侵入している(さすがに内戦中は電鉄も運行を中止していた)。
その為か、ここでは安倍政権への支持層が多い。
そんな話を聞きながら、稲生は村の外れにある大きな神社に辿り着いた。
当然、大きな鳥居が目立つ。
日本人村が形成された辺りから建立されたらしいが、長らく神主不在であったという。
そこで、権禰宜の資格を持っているさくらが代行しているそうだ。
日本国憲法では政教分離が謳われているため有り得ないが、ここでは国家予算の中から増改築されたこともあって(大魔王バァル討伐に対する褒賞の一環である)、安倍春明率いる魔界共和党のポスターが貼られている。
アルカディア王国は立憲君主制で、議会は一院制の一党制である。
理由は二院制や多党制にするほど、政治家の人口が多くないため。
あえて王制を残すことで政党の独裁政治を防ぎ、また、議会を立てることで、王制の絶対化を防ぐ目的もある。
憲法では議会の方で王権を停止させることができるし、議会(実質、与党のみ)が暴走した際は王権で持って強制解散させることもできる。
それでもにっちもさっちもいかなくなったら、今度は総理大臣が調整に入れる権限がある。
国がまだ若いということもあって、今のところはまだそんな混乱は起きていない。
「ただいまァ」
「こんにちはー」
神社の境内に入り、裏手の住まいの所へ回る。
「お帰りなさい。……あ、稲生勇太さんですね。いらっしゃいませ」
楚々とした感じの女性が奥からやってきた。
着物姿だが、袴は緋色ではなく、浅葱色であった。
やはりここでは巫女ではなく、神職としての顔であるらしい。
「お久しぶりです。大魔王戦以来ですね」
魔王城の最深部に安置されていた大水晶の中に閉じ込められていたさくら。
バァルの野望が打ち砕かれたことで、大水晶も役目を失って瓦解し(たことになっているが、稲生の霊力によるところも大きいとされ)た。
そして中にいたさくらも解放され、稲生とさくらは400年越しの恋を叶えて、今に至っている。
人間界に戻るという選択をしなかったのは、江戸時代から400年も魔界にいた女性が、今さら人間界に馴染めるかどうか不確定要素が大きかったからである。
幸い新政府(現政府)からの褒賞もあり、威吹として元々は魔界の住民であったわけだから、これを機に魔界で暮らすことになったわけである。
「はい。その節は本当にお世話になりました」
「さ、ユタ、上がってよ」
「お邪魔します」
ユタは靴を脱いで上がった。
「さすがに社殿には行けないか」
威吹は苦笑いした。
「どうもねー、藤谷班長の話だと、僕は正式に脱講していないみたいなんだ」
「ほお……?」
「魔道師だの、魔界だの、そんなものは人間界ではとても信じ難い話じゃない?」
「まあね」
「『魔道師になるから脱講します』じゃダメみたいだよ」
「なるほど……。魔道師自体、寺の坊主でもなければ、神主でもないわけだからな」
「悪魔と契約して色々やるのが仕事なんだけど、その悪魔達も神話とかキリスト教辺りで取り沙汰されているモノばかりだからね。それだけじゃ、謗法でもないみたいだよ」
「悪魔だって、とても信じられんよ。妖怪のボクでさえね」
威吹はそう言って、肩を竦めた。
立派な床柱のある和室に通され、卓を挟んで向かい合わせに座椅子に着席する。
その座椅子も肘掛けの付いている立派なものだった。
「粗茶でございますが……」
「あ、こりゃどうも。おかまいなく……」
さくらが稲生と威吹に茶を入れて来た。
「ユタもつい先日まで、激しい戦いをしてきたみたいだな。まだ、そんなに疲れも取れていないんじゃないのかい?」
「まあ、病院で点滴も打ってもらったし、ほとんど寝てたからね」
「イリーナの長話に付き合わされたんじゃないのかい?」
「まあ、どうせ1日空いてたし」
「マリアの具合、悪いのか?」
「もうしばらく入院が必要みたいだね」
「まあ、ユタが人間界に戻るまで、ここで何日でもゆっくりしていいよ」
「悪いね」
「いやいや。どうせボクとさくらの2人暮らしだから、そんなら広い家でなくても良かったのに、政府が『活躍してくれたから』という理由で、だいぶ広く造りやがってねぇ……」
「ははは……」
「どうせ土地は一杯あるからったってねぇ……」
「いずれは威吹にも子供ができるんでしょ?その分の広さも考えれば……」
「それでも広過ぎるよ。子供が家で迷子になる」
「はははははは!」
まださくらに妊娠の兆候は無いが、威吹としては家は広いし、生活費に事欠くことも無いので(政府からの慰労金ではなく、威吹の実家から何か援助があるらしい。厄介者扱いだった威吹だが、霊力の強い巫女……今は神職だが、さくらを獲物にしたことで掌を返したようである)、何人か欲しいらしい。
積もる話がかなりあったせいか、盟友達の談笑は何時間にも渡ったと、さくらは参拝者に語っていたという。