報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「南端村の博麗神社」

2015-12-18 23:42:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月14日11:00.魔界アルカディア王国・王都アルカディアシティ(サウスエンド駅→博麗神社) 稲生勇太&威吹邪甲]

 901系電車が2面4線の駅に滑り込む。
 路線図的に東京の山手線の大崎駅辺りと思われるが、駅の構造も、りんかい線や湘南新宿ラインが開通する前の大崎駅のようだった。
 電車を降りて線路の先を見ると、引き上げ線のようなものが見られたため、それからして車両基地が付近にあり、出入庫仕業の電車もあると思われる。
 急行電車に化ける901系の隣には、実際当駅始発と思われる電車が停車していた。
 車両はモハ40系に酷似していた。
(こっちに乗りたかったなー……)
 901系も、それはそれで珍しい電車ではあったが、量産型の209系自体はまだ東日本の地域で運転されていることからすれば、そんなに目新しいものでもない。
 改札口の外に出ると、
「やあ、ユタ」
 威吹が迎えに来ていた。
「迎えに来てくれたんだ?」
「駅から先の行き方、分からないだろ?」
「あ、まあ、そうか」
 人間界の感覚でグーグルマップとか、ナビタイムでも使うつもりだったが、当然魔界ではそんなもの使えない。
「この辺りも不用心でね、僕も夜警に回ることが多いんだ」
「へえ……。あ、そうそう。これ、手土産」
「あ、何か悪いね。気を使ってもらっちゃって……」
「いいよ。僕の方こそ、押し掛ける感じで」
「それまでの付き合いがあるんだから、気にしなくていいよ。取りあえず、行こう」
 アルカディアシティのサウスエンド地区は、直訳すると『南端』という意味なので、この辺りに住む日本人移住者は『南端村』と呼んでいる。
 実際、駅前広場の看板には、『ようこそ!閑静な郊外の町、サウスエンド(南端村)へ!』と掲げられいた。
 さすがにここには魔界高速電鉄・高架環状線の駅があるだけで、ここから地下鉄や路面電車への乗り換え路線は無かった。
 元々は城壁の上を走るトロッコ列車がルーツだとされる環状線。
 駅の外は、基本的に城壁の外なわけだから、本来の意味で城下町から出ることになる。
 今の行政区としてはアルカディアシティの中にいるわけだが、昔ながらの城下町からは出ることになるので、別の村だという考えから、『南端村』という名前が付けられたのだろう。
 城壁の外は内戦から疎開した人間達が多く住む地区もあり、特にこのサウスエンド(南端村)は日本人村とも言われている。
 魔王討伐隊としての安倍春明の勇者パーティは、この隣の駅、東京なら品川駅に相当するサウスゲート駅から、線路を通って魔界民主党が政権を牛耳っていたシティ内へ侵入している(さすがに内戦中は電鉄も運行を中止していた)。
 その為か、ここでは安倍政権への支持層が多い。

 そんな話を聞きながら、稲生は村の外れにある大きな神社に辿り着いた。
 当然、大きな鳥居が目立つ。
 日本人村が形成された辺りから建立されたらしいが、長らく神主不在であったという。
 そこで、権禰宜の資格を持っているさくらが代行しているそうだ。
 日本国憲法では政教分離が謳われているため有り得ないが、ここでは国家予算の中から増改築されたこともあって(大魔王バァル討伐に対する褒賞の一環である)、安倍春明率いる魔界共和党のポスターが貼られている。
 アルカディア王国は立憲君主制で、議会は一院制の一党制である。
 理由は二院制や多党制にするほど、政治家の人口が多くないため。
 あえて王制を残すことで政党の独裁政治を防ぎ、また、議会を立てることで、王制の絶対化を防ぐ目的もある。
 憲法では議会の方で王権を停止させることができるし、議会(実質、与党のみ)が暴走した際は王権で持って強制解散させることもできる。
 それでもにっちもさっちもいかなくなったら、今度は総理大臣が調整に入れる権限がある。
 国がまだ若いということもあって、今のところはまだそんな混乱は起きていない。
「ただいまァ」
「こんにちはー」
 神社の境内に入り、裏手の住まいの所へ回る。
「お帰りなさい。……あ、稲生勇太さんですね。いらっしゃいませ」
 楚々とした感じの女性が奥からやってきた。
 着物姿だが、袴は緋色ではなく、浅葱色であった。
 やはりここでは巫女ではなく、神職としての顔であるらしい。
「お久しぶりです。大魔王戦以来ですね」
 魔王城の最深部に安置されていた大水晶の中に閉じ込められていたさくら。
 バァルの野望が打ち砕かれたことで、大水晶も役目を失って瓦解し(たことになっているが、稲生の霊力によるところも大きいとされ)た。
 そして中にいたさくらも解放され、稲生とさくらは400年越しの恋を叶えて、今に至っている。
 人間界に戻るという選択をしなかったのは、江戸時代から400年も魔界にいた女性が、今さら人間界に馴染めるかどうか不確定要素が大きかったからである。
 幸い新政府(現政府)からの褒賞もあり、威吹として元々は魔界の住民であったわけだから、これを機に魔界で暮らすことになったわけである。
「はい。その節は本当にお世話になりました」
「さ、ユタ、上がってよ」
「お邪魔します」
 ユタは靴を脱いで上がった。
「さすがに社殿には行けないか」
 威吹は苦笑いした。
「どうもねー、藤谷班長の話だと、僕は正式に脱講していないみたいなんだ」
「ほお……?」
「魔道師だの、魔界だの、そんなものは人間界ではとても信じ難い話じゃない?」
「まあね」
「『魔道師になるから脱講します』じゃダメみたいだよ」
「なるほど……。魔道師自体、寺の坊主でもなければ、神主でもないわけだからな」
「悪魔と契約して色々やるのが仕事なんだけど、その悪魔達も神話とかキリスト教辺りで取り沙汰されているモノばかりだからね。それだけじゃ、謗法でもないみたいだよ」
「悪魔だって、とても信じられんよ。妖怪のボクでさえね」
 威吹はそう言って、肩を竦めた。

 立派な床柱のある和室に通され、卓を挟んで向かい合わせに座椅子に着席する。
 その座椅子も肘掛けの付いている立派なものだった。
「粗茶でございますが……」
「あ、こりゃどうも。おかまいなく……」
 さくらが稲生と威吹に茶を入れて来た。
「ユタもつい先日まで、激しい戦いをしてきたみたいだな。まだ、そんなに疲れも取れていないんじゃないのかい?」
「まあ、病院で点滴も打ってもらったし、ほとんど寝てたからね」
「イリーナの長話に付き合わされたんじゃないのかい?」
「まあ、どうせ1日空いてたし」
「マリアの具合、悪いのか?」
「もうしばらく入院が必要みたいだね」
「まあ、ユタが人間界に戻るまで、ここで何日でもゆっくりしていいよ」
「悪いね」
「いやいや。どうせボクとさくらの2人暮らしだから、そんなら広い家でなくても良かったのに、政府が『活躍してくれたから』という理由で、だいぶ広く造りやがってねぇ……」
「ははは……」
「どうせ土地は一杯あるからったってねぇ……」
「いずれは威吹にも子供ができるんでしょ?その分の広さも考えれば……」
「それでも広過ぎるよ。子供が家で迷子になる」
「はははははは!」
 まださくらに妊娠の兆候は無いが、威吹としては家は広いし、生活費に事欠くことも無いので(政府からの慰労金ではなく、威吹の実家から何か援助があるらしい。厄介者扱いだった威吹だが、霊力の強い巫女……今は神職だが、さくらを獲物にしたことで掌を返したようである)、何人か欲しいらしい。

 積もる話がかなりあったせいか、盟友達の談笑は何時間にも渡ったと、さくらは参拝者に語っていたという。
コメント
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“大魔道師の弟子” 「魔界高速電鉄・環状線」

2015-12-18 02:27:15 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月14日10:00.天候:晴 魔界アルカディア王国・王都アルカディアシティ(1番街駅) 稲生勇太]

 魔界高速電鉄の軌道線(路面電車)から高架鉄道に乗り換えた稲生。
 全く様相が異なれど、同一の鉄道会社である。
 軌道線との違いは、無論走る場所や使用される車両のみならず、その客層や職員の構成であった。
 地下鉄の客層や職員は魔族が多く、軌道線は半々、高架鉄道は人間の乗客や職員が多いとされる。
 稲生が通った有人改札の駅員は、東アジア系であった。
 魔界に迷い込み、帰る術を失った人間も、ここでたくましく生きているということだ。
 車両は地下鉄や軌道が諸外国のそれが運用されることもあるのに対し、高架鉄道は頑なに日本の鉄道で使用されたものが運用されているということだ。
 その為か、地下鉄や路面電車が右側通行で運転されることも珍しくないのに対し、高架鉄道は頑なに左側通行である。
 つまり、高架鉄道は昭和時代の日本国鉄、私鉄のコピーなのである。
 稲生が乗る予定の環状線は、もちろん内回りと外回りがあるが、東京の山手線が一周約60分、大阪の環状線が約40分なのに対し、こちらは2時間掛かる。
 その為か、環状線には珍しい急行電車がたまにやってくる。
 稲生が今いる1番街駅は、東京の東京駅(大手町駅)に相当する電鉄のターミナル駅で、これから向かおうとするサウスエンド駅は、路線図では大崎駅に相当する。
 ホームは4面8線。
 つまり中央線用の島式ホームが2面4線、環状線用が同じ数だけあるということだ。
 中央線は正に東京の中央線(総武緩行線)に相当する路線で、こちらは冥界鉄道公社の列車が乗り入れしてくることもある。
 電車しか持っていない高速電鉄に対し、冥鉄はディーゼル車や機関車、客車なんかも持っているので、貴重なSL列車の運転シーンが見られるかもしれない。
「はい、すいません!道を開けてください!」
 環状線のホームに向かう稲生達の間を縫うように、職員に先導され救急隊に運ばれる人間達がいた。
「あっ!」
 稲生は中央線の発車票を見て、その中に『回送』と書かれた表示を見た。
 こんな時間に折り返し回送となるのは……。

「わっ!?」
 中央線のホームに上がってみると、そこには古めかしい電車ばかりが運転される中、ひと際新しい電車が停車していた。
「間違えて乗ったのよぅ!乗せて!帰して!!」
 固く閉ざされた電車のドアをドンドン叩く五十路の主婦といった感じの人間の乗客。
 駅員2人に両脇を抱えられ、駅事務室に連れて行かれた。
 その新しい電車はJR西日本の207系。
 水色の帯が、ある事故を彷彿とさせる。
 車体横の車番と、稲生のデータベースとが一致した。
 幽霊電車を運行させるのが冥界鉄道公社。
 正しく、幽霊電車として運転されてもおかしくない車両が稲生の目の前を発車していった。
福知山線脱線事故の電車か……)
 事故後は冥界鉄道公社に引き取られ、幽霊電車として運転されているようである。
 なまじ、多くの幽霊電車が有り得ないほどに古めかしい車両で運転されているのに対し、207系は新しいので誤乗する乗客が後を絶たず、先程の女性のように魔界まで連れてこられたりするのだろう。
 そして到着した幽霊電車は、その殆どが折り返し回送となり、誤乗して迷い込んだ乗客を置き去りにしてしまうのである。
 その後、乗客達は魔界の新しい住民となる。
「あれはイヤミかな……?」
 稲生がそう呟いたのは、中央線ホームからコンコースに下りる階段の上に、こういうスローガンが掲げられていたからである。

『気をつけよう誤乗!行き先は大丈夫?今一度確認を!』

[同日10:15.天候:晴 環状線電車・最後尾車両 稲生]

 やってきた電車は各駅停車だった。
 車両はJR東日本の209系である。
 確かに、京浜東北線からの運用は既に終了し、既に廃車されたものも多いが……。
(何か、冥鉄に引き取られていそうなタイプだなぁ……)
 と思ったのは、この電車が901系(209系900番台)だったからである。
 京浜東北線に投入されるに辺り、その試作車として3編成が製造され、現在は全て廃車されている。
 稲生が乗ったのは車内が特徴的なタイプで、蛍光灯が枕木方向に設置されていた。
 結局、量産タイプで元のレールと平行したタイプに戻されたのは、節電にはなるが、その分、車内が暗いことが原因だろう。
(まさか、ここでこの車両に乗るとはな……)
 こげ茶色の内回り電車とすれ違う。
 省線電車かもしれない。
(帰りはあれに乗りたいな……)
 と、霧の中に消えて行く対向電車を見送った。

 地下鉄はワンマン運転なのに対して、高架鉄道は車掌が乗務している。
 ただ、あまり真面目に安全確認はしていなさそう。
 というのは、電車が駅に着いてから、車掌は乗務員室の窓から顔を出してはいるのだが、特に指差確認や歓呼をすることはない。
 どうもそれは人種によりけりのようだ。
 車掌はラテン系っぽいのだが、ホームでは電車の近くに乗客がいると、わざと電車のドアを1度再開閉する。
 駅のホームに発車ベルや放送が無いので、この再開閉が、
「ドアが閉まります。ご注意ください」
 という意味なのだろう。
 近くに乗客がいない場合は、そのまま閉めていた。
 別の駅で、対向電車から笛を吹く音が聞こえたと思ったら、日本人の車掌かもしれない。

〔「この電車は、環状線外回りです。サウスエンドからは、急行電車となります。通過駅をご利用の方は、各駅停車にお乗り換えください」〕

 そんな放送が流れた。
 環状線で急行運転が行われるタイミングってそうなのかと稲生は思った。
 是非その瞬間が見たいと、サウスエンド駅に電車が到着して、稲生は行き先表示を見た。
「はー……」
 と、何だか複雑な顔になる。
 確かに209系は通勤電車で、JRでは急行として運転されることはほぼ無い。
 だから最初からそんな種別表示なんて無いのは分かっていたが、だからって……。
(フロントガラスの上から、札をぶら下げるだけか……)
 『急行 Express』の赤札を掲げる車掌の姿があった。
 先頭車に回ってみると、やっぱり人間の運転士が札を取り付けているところだった。
 側面の行き先表示は何も変わっていない。
 その代わり、後付けと思われる青いランプが点灯した。
 急行かどうかは、このランプの点灯の有無で確認せよとのことか。
「本当に面白い鉄道だなぁ……」
 稲生はそう呟きながら、改札口へと歩いて行った。

 目指す盟友宅まで、あと少し。
コメント (4)
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