[12月27日14:41.天候:晴 JR新宿駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]
電車が中央線の通勤電車と並走したり、追い抜いたりするシーンが多々見受けられるようになると、終点の新宿駅はもうすぐそこである。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、新宿、新宿です。10番線に到着致します。お出口は、左側です。……」〕
「東京はカラッとしてますね」
稲生は冬の太陽が燦々と降り注ぐ東京の街並みを見ながら言った。
「アルカディアシティとは明らかに違うね」
“霧の都”とも称される魔界のアルカディアシティと違い、湿気が無いせいか、見通しが良く、澄んでいるように見える。
「トイレとか大丈夫ですか?」
「立川駅を出た時に行ったから大丈夫」
「そうですか」
電車は新宿駅の複雑なポイントを渡り、10番線へと入って行った。
ここは中央本線特急のホームである。
臨時夜行快速の“ムーンライト信州”も、種別は快速だが、特急車両を使うなど実質的な特急であるため、特急ホームから出発する。
稲生達は下車する旅行客達に混じって、ホームに降り立った。
〔しんじゅく〜、新宿〜。本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
「ここからどう行くの?」
「会場のホテルがオータニでしたよね?キップを買い替える必要も無いので、このまま快速ホームに行って、四ツ谷回りで行きます」
会場はホテルニューオータニのザ・メイン。
ホテル側から案内されるアクセス経路で、電車からのものでは1番遠いルートである(徒歩8分)。
地下鉄の赤坂見附駅からのアクセスが推奨される(徒歩3分)。
稲生だったら喜んでホイホイと丸ノ内線のホームに向かうところだろうが、マリアがいたこともあり、乗り換え的には楽な中央線ルートにした次第。
「少し遠回りなルートですけど」
「まあ、大丈夫。いざとなったら、これもあるし」
マリアが取り出したのは、ゴルフボールくらいの大きさの無色透明なガラス玉。
ソウルピースが紫色の宝石でゴルフボールを作ったような感じなのに対し、こちらは本当にビー玉のようにつるつるである。
「何ですか、これは?」
「転がせば、師匠の所まで転がって行くので、これに付いていけば迷わない」
「何か、ドラえもんの道具みたいですね」
稲生はフッと笑ったが、
「ドラエモン?何だそれは?」
マリアには分からなかった。
隣の8番線ホームに移動すると、すぐに電車がやってきた。
〔しんじゅく〜、新宿です。ご乗車、ありがとうございます。次は、四ツ谷に止まります〕
「すぐ次の駅ですから」
「了解」
稲生はガラガラと、キャリーバッグを引いていた。
見習用のローブはそんなに物が入らない。
ついでに年末年始帰省する稲生は、それも含めた荷物を持って来ていたのだった。
だからそういった意味では、マリアの方が身軽だ。
1人前になって渡されたローブの方が、ドラえもんの四次元ポケット並みに何でも入ってしまうし。
手に持っているのは、魔道師の杖くらいのものだ。
電車に乗り込むと座席には座らず、車椅子スペースに立っていた。
車椅子やベビーカーがいないと、良い荷物スペースだ。
〔8番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
賑やかな発車メロディの後で、オレンジバーミリオンの帯を巻いた快速電車が発車した。
〔この電車は中央線、快速、東京行きです。停車駅は四ツ谷、御茶ノ水、神田です。次は、四ツ谷です。……〕
四ツ谷と言えば四谷怪談。
これは本当に四ツ谷(正確に言えば新宿区左門町)にある“お岩稲荷”(正式名称、於岩稲荷田宮神社)が由来であるが、四谷怪談自体は創作であるらしい。
お岩さんという女性は実在したらしいが、彼女が稲荷神社を勧請した時期と怪談の時期が合わないらしい。
怪談では蔑ろにされたお岩さんが田宮家を断絶するマリアもびっくりの復讐劇を繰り広げるが、実際にはお岩さんがそのような復讐劇を行った記録はそもそも無く、田宮家自体、今でも存続しているらしい。
まあ、怪談話なんてそんなものだ。
但し、田宮家ゆかりの女性が失踪した記録は残されており、これが怪談話のお岩さんの代わりにされたのではないかという。
あ、因みに復讐劇に登場する伊右衛門様はお茶と関係無いよ。
……そのような話を稲生がすると、マリアはふんふんと頷いて聞いていた。
「よく知ってるね」
「大学の教養です」
稲生がどこの学部の何学科を卒業したかまでは定かではないが、少なくとも文科系の、更に文系であることは間違いない。
「私はハイスクールまでしか出なかったから、学歴はユウタの方が上だな」
「いや、別に魔道師になるに当たって、学歴は関係無いかと……」
「残念だな。もしそのお岩さんって女が本当に復讐劇をやっていたのなら、是非ともその時の話を聞いてみたいものだったが……」
(聞いてどうするつもりなんだろう……?)
稲生は一瞬、震えた。
因みに、四ツ谷駅の手前に創価学会で有名な信濃町駅がある。
一部の学会員は信濃町の由来について、信心の濃い町であると思っている者もいるらしい(作者、顕正会時代に聞いた噂話)。
実際には江戸時代、信濃守である幕臣が住んでいた場所だったからである(紀尾井町の由来も似ている)。
[同日14:50.天候:晴 JR四ツ谷駅→ホテルニューオータニ(ザ・メイン) 稲生、マリア、イリーナ・レヴィア・スカーレット]
〔まもなく四ツ谷、四ツ谷。お出口は、右側です。中央・総武線各駅停車、地下鉄丸ノ内線と地下鉄南北線はお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いておりますので、足元にご注意ください。四ツ谷の次は、御茶ノ水に止まります〕
新幹線や特急の車内放送とはまた違う声優の自動放送が流れると、電車が速度を落とした。
〔四ツ谷〜、四ツ谷〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、御茶ノ水に止まります〕
電車を降りた稲生達は、
「どうする?あの玉、転がしてみる?」
「まあ、ホテルの場所自体はスマホで分かるからいいんですけどね……」
稲生はスマホを取り出した。
四ツ谷駅からオータニへのルートは、既に登録してある。
問題は広いホテルのどこに、イリーナが待っているかだ。
「ホテルに着いて、先生と会えないようでしたら転がしてみましょう」
「分かった」
取りあえず、2人はオータニへ向かうことにした。
乗車券は東京都区内までなので、そのまま改札口を出ることができた。
「既に大師匠様は到着されてるんですかね?」
「多分……」
電車が中央線の通勤電車と並走したり、追い抜いたりするシーンが多々見受けられるようになると、終点の新宿駅はもうすぐそこである。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、新宿、新宿です。10番線に到着致します。お出口は、左側です。……」〕
「東京はカラッとしてますね」
稲生は冬の太陽が燦々と降り注ぐ東京の街並みを見ながら言った。
「アルカディアシティとは明らかに違うね」
“霧の都”とも称される魔界のアルカディアシティと違い、湿気が無いせいか、見通しが良く、澄んでいるように見える。
「トイレとか大丈夫ですか?」
「立川駅を出た時に行ったから大丈夫」
「そうですか」
電車は新宿駅の複雑なポイントを渡り、10番線へと入って行った。
ここは中央本線特急のホームである。
臨時夜行快速の“ムーンライト信州”も、種別は快速だが、特急車両を使うなど実質的な特急であるため、特急ホームから出発する。
稲生達は下車する旅行客達に混じって、ホームに降り立った。
〔しんじゅく〜、新宿〜。本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
「ここからどう行くの?」
「会場のホテルがオータニでしたよね?キップを買い替える必要も無いので、このまま快速ホームに行って、四ツ谷回りで行きます」
会場はホテルニューオータニのザ・メイン。
ホテル側から案内されるアクセス経路で、電車からのものでは1番遠いルートである(徒歩8分)。
地下鉄の赤坂見附駅からのアクセスが推奨される(徒歩3分)。
稲生だったら喜んでホイホイと丸ノ内線のホームに向かうところだろうが、マリアがいたこともあり、乗り換え的には楽な中央線ルートにした次第。
「少し遠回りなルートですけど」
「まあ、大丈夫。いざとなったら、これもあるし」
マリアが取り出したのは、ゴルフボールくらいの大きさの無色透明なガラス玉。
ソウルピースが紫色の宝石でゴルフボールを作ったような感じなのに対し、こちらは本当にビー玉のようにつるつるである。
「何ですか、これは?」
「転がせば、師匠の所まで転がって行くので、これに付いていけば迷わない」
「何か、ドラえもんの道具みたいですね」
稲生はフッと笑ったが、
「ドラエモン?何だそれは?」
マリアには分からなかった。
隣の8番線ホームに移動すると、すぐに電車がやってきた。
〔しんじゅく〜、新宿です。ご乗車、ありがとうございます。次は、四ツ谷に止まります〕
「すぐ次の駅ですから」
「了解」
稲生はガラガラと、キャリーバッグを引いていた。
見習用のローブはそんなに物が入らない。
ついでに年末年始帰省する稲生は、それも含めた荷物を持って来ていたのだった。
だからそういった意味では、マリアの方が身軽だ。
1人前になって渡されたローブの方が、
手に持っているのは、魔道師の杖くらいのものだ。
電車に乗り込むと座席には座らず、車椅子スペースに立っていた。
車椅子やベビーカーがいないと、良い荷物スペースだ。
〔8番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
賑やかな発車メロディの後で、オレンジバーミリオンの帯を巻いた快速電車が発車した。
〔この電車は中央線、快速、東京行きです。停車駅は四ツ谷、御茶ノ水、神田です。次は、四ツ谷です。……〕
四ツ谷と言えば四谷怪談。
これは本当に四ツ谷(正確に言えば新宿区左門町)にある“お岩稲荷”(正式名称、於岩稲荷田宮神社)が由来であるが、四谷怪談自体は創作であるらしい。
お岩さんという女性は実在したらしいが、彼女が稲荷神社を勧請した時期と怪談の時期が合わないらしい。
怪談では蔑ろにされたお岩さんが田宮家を断絶する
まあ、怪談話なんてそんなものだ。
但し、田宮家ゆかりの女性が失踪した記録は残されており、これが怪談話のお岩さんの代わりにされたのではないかという。
あ、因みに復讐劇に登場する伊右衛門様はお茶と関係無いよ。
……そのような話を稲生がすると、マリアはふんふんと頷いて聞いていた。
「よく知ってるね」
「大学の教養です」
稲生がどこの学部の何学科を卒業したかまでは定かではないが、少なくとも文科系の、更に文系であることは間違いない。
「私はハイスクールまでしか出なかったから、学歴はユウタの方が上だな」
「いや、別に魔道師になるに当たって、学歴は関係無いかと……」
「残念だな。もしそのお岩さんって女が本当に復讐劇をやっていたのなら、是非ともその時の話を聞いてみたいものだったが……」
(聞いてどうするつもりなんだろう……?)
稲生は一瞬、震えた。
因みに、四ツ谷駅の手前に
一部の学会員は信濃町の由来について、信心の濃い町であると思っている者もいるらしい(作者、顕正会時代に聞いた噂話)。
実際には江戸時代、信濃守である幕臣が住んでいた場所だったからである(紀尾井町の由来も似ている)。
[同日14:50.天候:晴 JR四ツ谷駅→ホテルニューオータニ(ザ・メイン) 稲生、マリア、イリーナ・レヴィア・スカーレット]
〔まもなく四ツ谷、四ツ谷。お出口は、右側です。中央・総武線各駅停車、地下鉄丸ノ内線と地下鉄南北線はお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いておりますので、足元にご注意ください。四ツ谷の次は、御茶ノ水に止まります〕
新幹線や特急の車内放送とはまた違う声優の自動放送が流れると、電車が速度を落とした。
〔四ツ谷〜、四ツ谷〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、御茶ノ水に止まります〕
電車を降りた稲生達は、
「どうする?あの玉、転がしてみる?」
「まあ、ホテルの場所自体はスマホで分かるからいいんですけどね……」
稲生はスマホを取り出した。
四ツ谷駅からオータニへのルートは、既に登録してある。
問題は広いホテルのどこに、イリーナが待っているかだ。
「ホテルに着いて、先生と会えないようでしたら転がしてみましょう」
「分かった」
取りあえず、2人はオータニへ向かうことにした。
乗車券は東京都区内までなので、そのまま改札口を出ることができた。
「既に大師匠様は到着されてるんですかね?」
「多分……」