報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「幽霊客船の片隅で」

2015-12-02 21:27:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻12:00? 天候:不明 クイーン・アッツァー号・船内カジノ 稲生勇太]

 稲生の持ちコインは95枚。
 持ち前のクソ福運というヤツか、ルーレットを1回やっただけで、枚数が100枚を越えた。
 すると支配人がパチパチと拍手をしてきた。
「おめでとうございます。いやあ、あなたのような強い幸運の持ち主をお待ちしておりました。さあ、あちらへどうぞ。当カジノ最強の女ディーラー、シンディ・レックスが御相手致します」
「えー……?」
 ブラックジャックの台には、それまで台の上に腰掛けて足を組んでいた女ディーラーが、台の後ろの定位置に就いていた。
「あの、もしかして、あなた……」
 稲生がその台までやってくる。
「? どこかで会ったかしら?」
「右手がマシンガンやライフルに変形できる、かつては大量虐殺兵器として製造された女性型アンドロイドさんじゃないですか?」
「何の話をしているのか意味が分からないわ。ブラックジャックをご存知無いようね。そこから説明するから、よく聞きなさい」
「はい……。(しれっと流された……)」
 まあ、とにかくカードの合計の数が21を超えなきゃいいみたいな所まで理解できた稲生だった。
 で、手持ちのコインを2倍以上、つまり200枚以上にできたら勝ちとのこと。
 女ディーラー、シンディは基本的にコインを20枚以上賭けてくる。
 稲生も負けじと勝負に打って出るが、こちらも一進一退。

 で、やはり船内においては時間の流れ方が違うのだろうか。
「あっ、スペードの1だ!」
 ブラックジャックにおいて、スペードの1は最強である。
 それを引いた稲生、一気に勝負のカタが付いてしまった。
「……負けたわ。まさかこのタイミングで、それが出るとはね」
 シンディは肩を竦めた。
「まだお若いのに、最強の幸運をお持ちのようで。ご褒美にキスでもしてあげたいくらいよ」
「ええっ!?」
 稲生が戸惑っていると、支配人が、ツッコミを入れる。
「シンディ。どうやらこのお客様は、先約済みのようだ。それ以上の手出しは無用だ」
 魔道師、幽霊、悪魔と、人間以外にモテる稲生であった。
「分かってるわよ。じゃあ皆、そろそろいいかしら?」
「実に楽しいゲームでした。できれば、化け物に殺される前にあなたとお会いしたかったです」
 ルーレットのディーラーも稲生に握手を求めて来た。
「またのご利用を、お待ちしておりますよ?それでは、カジノ“アッツァー”は、これにて閉店致します」
 カジノのスタッフ達は、全員が“成仏”していった。
 一気に、ソウルピースが3つも集まった。
 そして、支配人が何か鍵を落として逝った。
 拾い上げると、それはVIPルームの鍵だった。
 カジノにはよくある部屋で、バカラ賭博など、カジノの中でも高額の賭け金が飛び交うゲームに参加する者は、カジノを訪れる者の中でもセレブであることが多い。
 そこでカジノ側としては、そのような客に応えるため、専用のVIPルームを設けていることが多い。
 豪華客船のカジノでも有りがちなことであり、この船においても例外ではなかったようだ。
「VIPルームか……。どこにあるんだろう?」
 それはブラックジャックの台の後ろ……シンディが立っていた場所にある衝立の裏側に、それはあった。
 なるほど。一般客からは見えない所に入口が隠されていると聞いたことはあるが、そんな所にあったとは……。
 稲生はVIPルームの鍵を開けた。
 が、ドアが開かない。
(ええっ!?鍵がもう1ついるの!?)
 さすがはセレブ専用室。
 そう簡単には入れてくれないようだ。
(参ったなぁ……。もう1つ、どこに鍵があるんだろう?)
 稲生はカジノの中を探してみることにした。
 と、先ほどのルーレット。
 その担当ディーラーが立っていた場所に、何かが落ちていた。
 それは鍵ではなくメモ書きであったが、恐らく件のディーラーが書き残したものであろう。

『VIPルームの鍵を開けるには、支配人の鍵の他に、カジノガールにコイン与えてやる必要がある。ゴールドコイン1つを与えれば良いのだが、医務室の医者が持って行ってしまった。返してもらう為には、診察時間が終わらなければならないらしい』

 確かにVIPルームの入口には、バニーガールの衣装を着たマネキン人形が置かれていた。
 その手には金属製のトレイが置かれていたが、丸い穴があって、そこにゴールドコインを入れる必要があるらしい。
「しょうがない」
 カジノの時計を見ると、まもなく17時になろうとしていた。
 確かに夢中になってゲームに興じた稲生であるが、それにしても時間が経つのが早過ぎる。
 やはり、時間の流れ方が違うようである。
 稲生はカジノを出て、医務室に向かった。

「失礼します」
 稲生が医務室に入った。
「やあ、また来たね。どこか、具合でも悪いのかい?」
 診察室の椅子には、船医が座っていた。
「あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど、ゴールドコインについて聞きたくて……」
「ゴールドコイン?……ああ!そういえば非番の時に、たまたま遊びに行ったら大勝ちしてね。記念にもらったものだよ。とはいえ、同じ船のスタッフがそんなもの持っているわけにはいかないからね。返しに行きたいんだけど、診察時間中にここを出るわけにはいかないからな」
「それなら、僕がお預かりしますよ」
「ふーむ……。いや、ちょっと待ってくれ」
「えっ?」
「むしろ、どうせならキミに譲りたい。このゴールドコインは、コインを200枚以上稼いだ者に与えられる特別なコインだ。キミ、カジノに行って稼いできたらどうだい?そしたら、これを譲ろう」
「あ、それなら……」
 稲生は200枚以上のコインを取り出した。
「おおっ!?もう既に稼いでいたか!」
「そうなんです」
「そうかそうか。それなら、このコインはキミのものだ。持って行きなさい。……カジノの皆は、もう逝ったのかな?」
「ええ。逝かれました」
「そう、か……。じゃあここで私が営業していても、意味が無いな。カジノが閉店したということは、もうここを訪れる者もいないということだ。心残りも解消できたし、私も逝くとしよう。あ、そうそう。室内の引き出しに、色々と薬が入っている。役に立ちそうなものがあったら、持って行きなさい」
「はい。ありがとうございます」

 稲生はお言葉に甘えて、傷薬や体力回復薬などを頂戴することにした。
 当然、“成仏”した船医のソウルピースも。
(そうだ)
 一気に4つもピースが集まったことだし、これを持って再びサンモンド船長の所へ向かうことにした稲生だった。
 VIPルームへは、その後でも遅くはないだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする