報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「Deep the ship.」

2015-12-06 22:49:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:嵐 クイーン・アッツァー号 レストラン(コンベンションホール) 稲生勇太]

 サンモンドと別れた後、稲生は再びクイーン・アッツァーのプロムナードに舞い戻された。
 大時計が見下ろす円形の吹き抜け大ホールを突き抜けると、確かにカーペットに『レストラン』と書かれた扉があった。
 中に入ると、非常灯しか点灯していない暗い空間があった。
 ドアの横にスイッチがあったが、ONにしても点かない。
「うふふふふふふふ……」
「!?」
 そしてその暗闇に乗じて、ジェシカの姿をした“魔の者”が現れた。
 魔道師の杖を稲生に向けるが、稲生の体が持ち上がらない。
 代わりに、レストラン内の椅子やテーブルが持ち上がり、それが稲生に向かってきた。
「うわっ!」
 稲生は何とかそれをかわし、手持ちのショットガン型水鉄砲を構えると“魔の者”に向けて放射した。
「キャアアアアッ!」
「どうしてジェシカ先生の姿をしているか分からないけども、“魔の者”だというのなら僕が倒す!」
 稲生は何度も消えては現れる“魔の者”に聖水入りの水鉄砲を吹き掛けた。
 ついに“魔の者”が逃げ出したことは、室内の照明が点いたことで分かった。
「結構効くんだなぁ……これ」
 とはいえ、結構無駄に使った感はある。
 ホール内の片隅にある洗面所の蛇口を捻ると、幸い水が出たので、それを瓶に詰め直した。
 瓶の方に仕掛けがあり、これがただの水を聖水へと変える効果がある。
「よしっと。あとは……厨房だな」
 小さなドアがあり、そのドアには鍵が掛かっていた。
 それを、あの酔っ払いの部屋から持って来た鍵を入れてみる。
 開いた。
 ドアを開けると、これまた室内が薄暗い。
 だが今度はスイッチを入れると、ちゃんと照明が点いた。
 この辺りはもう安全なのだろう。
「?」
 厨房の奥に、誰かがいた。
 もちろん、生きてる人間ではない。
 幽霊であった。
 厨房にいるのだから、コックの幽霊だろうか。
「キミは……人間だな……」
「はい。ここで何をしているんですか?あなたは誰ですか?」
「私は……機関部のクルーの1人だ。この下には……機関部に所属している、俺の部下達がいる……」
 機関部ということは、コックではないようだ。
「俺もそうだが……皆……化け物に、食われちまった……。だが……この下にいる連中は……死んだことにすら、気づいていない者が多い……」
「えっ?」
「お願いだ……。皆を……救ってくれ……。俺は……リーダーとして、皆を置いて逝くわけにはいかない……」
「この下には、どうやって行ったらいいんですか?」
「そこに……機関部……船底に行くエレベーターがある……。それで、行くといい……」
「わ、分かりました」
「気をつけろ……。化け物が……船底にいる……」
「ええ。まあ、化け物なら、隣のレストランにもいましたけどね。じゃ、行ってきます」
 機関部のリーダーということは、機関部長ということか。
 厨房内にあるエレベーターは、当然配膳用。
 但し、ワゴンごと乗せられる設計になっているため、そこそこの大きさがある。
 これに稲生は乗って、船底へ向かった。

[期日不明 時刻不明 天候:嵐 クイーン・アッツァー号(船底機関部) 稲生勇太]

 エレベーターが止まるのを見計らい、稲生は扉を手動で開けて、エレベーターの外に出た。
 すぐに機関系統の部屋があるのではなく、ここもパントリーになっていた。
 どうやらここは船員用の食堂であるらしい。
 上で乗客用の食事を作りながら、船員の賄いを下にも送っていたのだろう。
 ここも照明が消えていて暗かった。
(早くスイッチを入れないと……)
 稲生はパントリーから食堂へ出ようとした。
「うふふふふふふ……。逃がさなぁぁぁぁい……!」
「うっ!?」
 食堂側から“魔の者”がやってきた。
 地下パントリーは袋小路である。
 完全に閉じ込められた。
 稲生は水鉄砲を構えた、が!
「うわっ!」
 “魔の者”が機先を制し、魔法で稲生の水鉄砲を壊してしまった。
 そんな何度も同じ攻撃を受けるほど、甘い相手ではないということだ。
「そ、そんな……」
「ちょうだぁぁぁぁぃ……あなたぁのぉ……魂ぃぃぃ……!」
「……!!」
 稲生は一旦、退散しようと、エレベーターのボタンを押した。
 だが、
「あ、あれ!?何で!?」
 エレベーターは全く動こうとしなかった。
 故障してしまったのか!?
「あははははははははは!」
 “魔の者”はポルターガイスト現象を起こす魔法を使うのが得意なのか、パントリー内の物を浮き上がらせて、それで稲生の攻撃に当たった。
 極めつけは、何本もの包丁。
「魂……魔道師のォ……魂ぃぃぃぃ……!」
 敵を追い詰めるその目つきは、どこなくマリアに似てなくもない。
 が、“魔の物”の攻撃はそこで止まった。
「ギャアアアアアッ!眩しいぃよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 突然、照明が点灯して厨房と食堂が明るくなったのだ。
 想定外のことに、“魔の者”はまた煙のように消えてしまった。
 照明を点けたのは……。
「マリアさん!」
「ユウタ、無事だったか……。早く、こっちに!」
「は、はい!」
 稲生がパントリーから食堂に移ると、パントリー内の照明が消えた。
「船底は電力が物凄く不安定なので、停電してしまってるんだ。ここの電気が短時間だけでも点いたのは、運が良かった」
「そ、そうですか」
「今回の“魔の者”は、光に頗る弱いらしい。今、この船は非常電源しか動いていないから、メイン電源を復旧させる必要がある」
「マリアさんもその結論でしたか」
「問題なのは、電気室と機関室に鍵が掛かってることなんだ」
「えっ?」
「ユウタは持ってないか?」
「いえ、あいにく……」
「すると、船員のゴーストが持っていると思うけど、全く答えようとしないんだ」
「マリアさんの魔法に、鍵をこじ開けるのがありますよね?」
「その魔法も効かない」
「えっ!?」
「“魔の者”のしわざだと思う。“魔の者”も知ってるんだ。それで、メイン電源を復旧させてほしくないらしい」
「ということは、復旧させれば、ほぼ僕達の勝ちというわけですか?」
「油断はダメだけど、かなり有利になることは間違いないな」
「では、普通に鍵を探すしか無いというわけですか」
 稲生達は廊下に出た。
 廊下は非常灯以外は点灯しておらず、やっぱり暗かった。
 もちろん、スイッチを入れても全く点かない。
「!?」
 すると、廊下の奥から何かが近づいて来た。
 笑い声はしないので、“魔の者”ではないらしい。
「多分、見回りの船員のゴーストだ。何でも交替が来ないんで、休むに休めないんだそうだ」
 と、マリアが稲生に説明した。
 稲生が来る前に、マリアはここを一通り探索したらしい。
「交替の船員さんも殺されたから、来ないんでしょうねぇ……」
 稲生は首を傾げた。
 とにかく、もう1度船底機関部を探索する必要はあった。
 “魔の者”の攻撃に晒されながら、稲生達は鍵の掛かっていない部屋を回ることにした。
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