[日付不明 時刻不明(夜間) 天候:豪雨 船尾甲板→船内倉庫部 マリアンナ・スカーレット]
イリーナから魔法でクイーン・アッツァー号へ転送されたマリア。
どうやら船尾甲板に着いたというのは、出航の際の鐘の存在で分かった。
イリーナと更新を交わした後、船の中に入る手立てを探していた。
どういうわけだか、海は集中豪雨の大嵐の中で、小さな船なら一たまりも無いほどに波がうねっていた。
マリアはローブのフードを深く被り、甲板の上を走る。
ザップァァァン!
「うわっ!」
大波が甲板の上にまで飛び込んで来た。
船が大きく揺れてマリアは足を取られ、危うく転びそうになった。
何とか魔道師の杖でバランスを取り、転倒は免れた。
その船尾部分に設置されている、出航時に鳴らす鐘が不規則に揺れて、ゴンゴンゴンと不協和音のような音色を奏でている。
そして、どうにか船内に入るドアを見つけたが、ドアの前にはチェーンが巻かれ、南京錠で固定されていた。
ドアに鍵は掛かっていないようだが……。
「パペ・サタン・パペ・サタン、アレッペ!……アヴァ・カ・ムゥ!」
マリアンナは手持ちの杖を南京錠に当て、魔法を唱えた。
杖から光が発せられ、南京錠と鎖が溶け落ちた。
ドアから中に入ると、そこは倉庫。
電気は点かず、殆ど真っ暗である。
マリアは杖から光を出して、それをカンテラ代わりにした。
(ちっ、ヒドい臭いだ。放置されてから、だいぶ経つのか?)
よく見ると、船員らしき死体が累々と転がっている。
腐臭を放つその死体達はクレア師のように体に穴がいくつも開けられ、それが致命傷となって死んだようである。
(こんな所にユウタが……?)
次の部屋に入ると、また別の倉庫になっている。
船尾部分は倉庫になっているようだ。
「うふふふふふふ……」
「誰!?」
棚越しに、一瞬の人影が見えた。
マリアは急いでその人影があった所に向かったが、誰もいなかった。
ただ、天井には穴の開いたダクトがあったが……。
「…………」
もう1つドアを開けると、今度は下に降りる階段があった。
豪華客船の割には地味な造りになっているのと、倉庫があったことから、この辺は一般乗客の立ち入る場所ではないことは分かる。
ゴンゴンゴンゴン!
「!?」
先ほどのダクトの中を、何かが突き進む音が聞こえた。
ネズミか何かだろうか?
階段を下り切って、またドアを開けると薄暗い廊下であった。
左右に廊下が別れている。
しかし、突き当りの部分のダクトから、赤い液体がダラダラと垂れ落ちてきている。
「ダクトから血が……?」
ガコンッ!
「!!!」
ダクトの接続部分が外れ、そこからライフジャケットを着た船員らしき死体が落ちて来た。
「“魔の者”の仕業か……!ユウタ、無事でいてよ……!」
さすがのマリアも口元を押さえるほどの強烈なインパクトである。
右側に進むと、荷物用の大型エレベーターがあった。
電源を入り切りする鍵型のスイッチがあるが、OFFの方に回されて鍵が抜かれている状態だったので、動かすことはできなかった。
「しょうがない。こっちか」
マリアは左側の通路を進むことにした。
[日付不明 時刻不明 客室エリア 稲生勇太]
とんでもないスプラッタ―状態となっている船尾倉庫部分の状況など露知らない稲生は、客室エリアで幽霊の相手をしていた。
豪華客船の名に恥じぬ豪勢な造りの客室エリア廊下に置かれたソファに寝転がる、泥酔した乗客の幽霊。
どうやら楽しみにしていたカクテルを飲む前に“魔の者”に殺されてしまったため、それが心残りで地縛霊になってしまったらしい。
そこで稲生は、彼の親友だとする別の乗客の部屋に入り、そこで酒を手に入れた。
作り方は親友の部屋の中に書いてあり、それで何とか作ることができた。
「これでどうですか?」
「んー?」
稲生はグラスを泥酔者の幽霊に渡した。
「この色……?もしかして……?」
泥酔者の幽霊は、グラスの酒を一気に飲み干した。
「ふ……ふふっ!ふふふふふふふふ……!」
すると、何やら自嘲するような笑い声を上げる。
作り方が違ったのだろうか?
「何てこった……。何も味がしねぇ……」
「ええっ!?おかしいなぁ、レシピ通りに作ったのに……」
「いや……。多分、兄ちゃんの作った通りで間違いねぇよ……」
「それならどうして?」
「そりゃそうさ……。俺は……もう、死んでるんだからな……。幽霊の分際で、酒の味が分かってるたまるかって感じだろ……?生きてる兄ちゃんよ?」
「そ、それは……」
「分かった分かった……。もう、十分だ……。いつまでもここにいねぇで早く来いって、エドワードのヤツも言ってるんだろう……」
この酔っ払いに特別な酒を作ってくれていた親友の名前だろうか。
「ありがとよ、兄ちゃん……。何の礼もできねぇが、俺の部屋はそこにある……。俺は……日記を書くのが日課でよ……。この船に化け物に現れてから……俺の死ぬ直前のことまで……の、ことが……書いてある。……何か参考になれば、いいんだがな……」
それだけ言い残すと、酔っ払いの幽霊はソウルピースを残して消えた。
それだけじゃなく、鍵を置いて逝った。
これが酔っ払いの部屋の鍵らしい。
実際これで、酔っ払いの部屋のドアの鍵を開けることができた。
部屋の造りは、やはり豪華ホテルの部屋並みに豪勢な造りになっている。
酒好きの乗客の部屋らしく、打てば響くようなワインやウィスキーの空瓶が何本か転がっていた。
机の上には酔っ払いの言ってた通り、日記が置かれていた。
しかし日記には必ずどこかに年月日が書かれているはずなのに、その記載が全く無いのが不思議だった。
『(1日目)今日、エドワードとダニエル、エリアスと一緒にポーカーをやった。エドのヤツ、やたらついてやったが、きっとイカサマでもしたに違いねぇ。俺達をバカにしやがって!』
『(2日目)今朝5時頃、船員に突然叩き起こされて、ライフジャケットを着させられた。何でも船ん中に化け物が現れて非常事態らしい。どういうわけだか電話も繋がらねぇと来やがる。こいつは一体何の冗談だ!?』
『(3日目)さっきから副船長がマイクで、「船長、直ちに操舵室へ戻ってください」なんてアナウンスしてやがる。何だよ、おいw 船長1人だけ逃走か?www』
『(4日目)エドワードが半狂乱になって、俺の部屋に飛び込んで来た。何でも、本当にこの目で化け物とやらを見たらしい。で、そいつは厨房のコックを食っていやがったんだと。こいつ、俺より先にアル中にでもなったのか?酒の臭いはしなかったが・・・』
『(5日目)船内が突然真っ暗になった。何でも、電気室で不具合があったらしい。暗い場所は化け物が好むから、生きてるヤツは明るい甲板に出ろとのお達しだ。てか、甲板に出てみたら、客やスタッフの数が全然足りねぇ!おいおい、先に避難しやがったのか?マジでヤベぇなら、早いとこ避難させてくれよ』
『(6日目)何で避難できねーかの理由が分かった。化け物が救命ボートを全部ブッ壊しやがったんだ!俺はたまたま停電の時、すぐ甲板に出られたから良かったものの、暗い場所から出られなかった客やスタッフ達は化け物に食われちまったらしい』
『(7日目)やっと停電が復旧した。しかし、あくまで非常予備電源で点けているだけなので、いつまた消えてもおかしくないらしい。だが、もう手遅れだ。甲板は夜になって真っ暗になっちまいやがったし、また、廊下の電気も消えちまったらしい。化け物が俺の気配に気づいたのか、ドアをドンドン叩いてやがる。もしかして、最後に生き残ったのは俺だけってオチじゃねーだろうな?だが、そんなことはどうでもいい。化け物のヤツ、今度はダクトから顔を出して……さいごに、エドの酒が飲み……』
「これは……!」
この船が“魔の者”によって蹂躙される一部始終のことが、断片的だが書かれている。
よく見ると、机の引き出しが少し開いていた。
開けてみると、ドアの鍵とはまた違う何かの鍵があった。
一緒にメモ書きが入っており、
『レストランで拾った鍵。厨房の鍵らしいんで、明日、スタッフに渡すのを忘れるな』
と、書かれていた。
書いておきながら忘れてしまったのか、それとも渡す前に“魔の者”に襲われてしまったので、それどころではなかったか……。
(そうか。今は非常電源だけで、電気が点いてるだけなのか。確かにこのままじゃマズいな。何とか、メイン電源を元に戻そう。それだけでも、“魔の者”にかなり対抗できるはずだ)
稲生は厨房の鍵を手に入れると、客室エリアで手に入れたいくつかのソウルピースを持って、レストランに向かうことにした。
取り急ぎ、まずは吹き抜けホールに向かうことになる。
イリーナから魔法でクイーン・アッツァー号へ転送されたマリア。
どうやら船尾甲板に着いたというのは、出航の際の鐘の存在で分かった。
イリーナと更新を交わした後、船の中に入る手立てを探していた。
どういうわけだか、海は集中豪雨の大嵐の中で、小さな船なら一たまりも無いほどに波がうねっていた。
マリアはローブのフードを深く被り、甲板の上を走る。
ザップァァァン!
「うわっ!」
大波が甲板の上にまで飛び込んで来た。
船が大きく揺れてマリアは足を取られ、危うく転びそうになった。
何とか魔道師の杖でバランスを取り、転倒は免れた。
その船尾部分に設置されている、出航時に鳴らす鐘が不規則に揺れて、ゴンゴンゴンと不協和音のような音色を奏でている。
そして、どうにか船内に入るドアを見つけたが、ドアの前にはチェーンが巻かれ、南京錠で固定されていた。
ドアに鍵は掛かっていないようだが……。
「パペ・サタン・パペ・サタン、アレッペ!……アヴァ・カ・ムゥ!」
マリアンナは手持ちの杖を南京錠に当て、魔法を唱えた。
杖から光が発せられ、南京錠と鎖が溶け落ちた。
ドアから中に入ると、そこは倉庫。
電気は点かず、殆ど真っ暗である。
マリアは杖から光を出して、それをカンテラ代わりにした。
(ちっ、ヒドい臭いだ。放置されてから、だいぶ経つのか?)
よく見ると、船員らしき死体が累々と転がっている。
腐臭を放つその死体達はクレア師のように体に穴がいくつも開けられ、それが致命傷となって死んだようである。
(こんな所にユウタが……?)
次の部屋に入ると、また別の倉庫になっている。
船尾部分は倉庫になっているようだ。
「うふふふふふふ……」
「誰!?」
棚越しに、一瞬の人影が見えた。
マリアは急いでその人影があった所に向かったが、誰もいなかった。
ただ、天井には穴の開いたダクトがあったが……。
「…………」
もう1つドアを開けると、今度は下に降りる階段があった。
豪華客船の割には地味な造りになっているのと、倉庫があったことから、この辺は一般乗客の立ち入る場所ではないことは分かる。
ゴンゴンゴンゴン!
「!?」
先ほどのダクトの中を、何かが突き進む音が聞こえた。
ネズミか何かだろうか?
階段を下り切って、またドアを開けると薄暗い廊下であった。
左右に廊下が別れている。
しかし、突き当りの部分のダクトから、赤い液体がダラダラと垂れ落ちてきている。
「ダクトから血が……?」
ガコンッ!
「!!!」
ダクトの接続部分が外れ、そこからライフジャケットを着た船員らしき死体が落ちて来た。
「“魔の者”の仕業か……!ユウタ、無事でいてよ……!」
さすがのマリアも口元を押さえるほどの強烈なインパクトである。
右側に進むと、荷物用の大型エレベーターがあった。
電源を入り切りする鍵型のスイッチがあるが、OFFの方に回されて鍵が抜かれている状態だったので、動かすことはできなかった。
「しょうがない。こっちか」
マリアは左側の通路を進むことにした。
[日付不明 時刻不明 客室エリア 稲生勇太]
とんでもないスプラッタ―状態となっている船尾倉庫部分の状況など露知らない稲生は、客室エリアで幽霊の相手をしていた。
豪華客船の名に恥じぬ豪勢な造りの客室エリア廊下に置かれたソファに寝転がる、泥酔した乗客の幽霊。
どうやら楽しみにしていたカクテルを飲む前に“魔の者”に殺されてしまったため、それが心残りで地縛霊になってしまったらしい。
そこで稲生は、彼の親友だとする別の乗客の部屋に入り、そこで酒を手に入れた。
作り方は親友の部屋の中に書いてあり、それで何とか作ることができた。
「これでどうですか?」
「んー?」
稲生はグラスを泥酔者の幽霊に渡した。
「この色……?もしかして……?」
泥酔者の幽霊は、グラスの酒を一気に飲み干した。
「ふ……ふふっ!ふふふふふふふふ……!」
すると、何やら自嘲するような笑い声を上げる。
作り方が違ったのだろうか?
「何てこった……。何も味がしねぇ……」
「ええっ!?おかしいなぁ、レシピ通りに作ったのに……」
「いや……。多分、兄ちゃんの作った通りで間違いねぇよ……」
「それならどうして?」
「そりゃそうさ……。俺は……もう、死んでるんだからな……。幽霊の分際で、酒の味が分かってるたまるかって感じだろ……?生きてる兄ちゃんよ?」
「そ、それは……」
「分かった分かった……。もう、十分だ……。いつまでもここにいねぇで早く来いって、エドワードのヤツも言ってるんだろう……」
この酔っ払いに特別な酒を作ってくれていた親友の名前だろうか。
「ありがとよ、兄ちゃん……。何の礼もできねぇが、俺の部屋はそこにある……。俺は……日記を書くのが日課でよ……。この船に化け物に現れてから……俺の死ぬ直前のことまで……の、ことが……書いてある。……何か参考になれば、いいんだがな……」
それだけ言い残すと、酔っ払いの幽霊はソウルピースを残して消えた。
それだけじゃなく、鍵を置いて逝った。
これが酔っ払いの部屋の鍵らしい。
実際これで、酔っ払いの部屋のドアの鍵を開けることができた。
部屋の造りは、やはり豪華ホテルの部屋並みに豪勢な造りになっている。
酒好きの乗客の部屋らしく、打てば響くようなワインやウィスキーの空瓶が何本か転がっていた。
机の上には酔っ払いの言ってた通り、日記が置かれていた。
しかし日記には必ずどこかに年月日が書かれているはずなのに、その記載が全く無いのが不思議だった。
『(1日目)今日、エドワードとダニエル、エリアスと一緒にポーカーをやった。エドのヤツ、やたらついてやったが、きっとイカサマでもしたに違いねぇ。俺達をバカにしやがって!』
『(2日目)今朝5時頃、船員に突然叩き起こされて、ライフジャケットを着させられた。何でも船ん中に化け物が現れて非常事態らしい。どういうわけだか電話も繋がらねぇと来やがる。こいつは一体何の冗談だ!?』
『(3日目)さっきから副船長がマイクで、「船長、直ちに操舵室へ戻ってください」なんてアナウンスしてやがる。何だよ、おいw 船長1人だけ逃走か?www』
『(4日目)エドワードが半狂乱になって、俺の部屋に飛び込んで来た。何でも、本当にこの目で化け物とやらを見たらしい。で、そいつは厨房のコックを食っていやがったんだと。こいつ、俺より先にアル中にでもなったのか?酒の臭いはしなかったが・・・』
『(5日目)船内が突然真っ暗になった。何でも、電気室で不具合があったらしい。暗い場所は化け物が好むから、生きてるヤツは明るい甲板に出ろとのお達しだ。てか、甲板に出てみたら、客やスタッフの数が全然足りねぇ!おいおい、先に避難しやがったのか?マジでヤベぇなら、早いとこ避難させてくれよ』
『(6日目)何で避難できねーかの理由が分かった。化け物が救命ボートを全部ブッ壊しやがったんだ!俺はたまたま停電の時、すぐ甲板に出られたから良かったものの、暗い場所から出られなかった客やスタッフ達は化け物に食われちまったらしい』
『(7日目)やっと停電が復旧した。しかし、あくまで非常予備電源で点けているだけなので、いつまた消えてもおかしくないらしい。だが、もう手遅れだ。甲板は夜になって真っ暗になっちまいやがったし、また、廊下の電気も消えちまったらしい。化け物が俺の気配に気づいたのか、ドアをドンドン叩いてやがる。もしかして、最後に生き残ったのは俺だけってオチじゃねーだろうな?だが、そんなことはどうでもいい。化け物のヤツ、今度はダクトから顔を出して……さいごに、エドの酒が飲み……』
「これは……!」
この船が“魔の者”によって蹂躙される一部始終のことが、断片的だが書かれている。
よく見ると、机の引き出しが少し開いていた。
開けてみると、ドアの鍵とはまた違う何かの鍵があった。
一緒にメモ書きが入っており、
『レストランで拾った鍵。厨房の鍵らしいんで、明日、スタッフに渡すのを忘れるな』
と、書かれていた。
書いておきながら忘れてしまったのか、それとも渡す前に“魔の者”に襲われてしまったので、それどころではなかったか……。
(そうか。今は非常電源だけで、電気が点いてるだけなのか。確かにこのままじゃマズいな。何とか、メイン電源を元に戻そう。それだけでも、“魔の者”にかなり対抗できるはずだ)
稲生は厨房の鍵を手に入れると、客室エリアで手に入れたいくつかのソウルピースを持って、レストランに向かうことにした。
取り急ぎ、まずは吹き抜けホールに向かうことになる。