報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「“魔の者”は実は弱い?」

2015-12-08 22:01:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:嵐 クイーン・アッツァー号(船底機関部) 稲生勇太&マリアンナ・スカーレット]

「パペ・サタン・パペ・サタン、アレッペ!炎と雷(いかづち)、この杖に集え!……ヴェ・ギュラ・マ!」
(ベギラマ!?)
 マリアが放った攻撃魔法は真っ直ぐ、“魔の者”に向かって行く。
「キャアアアアアッ!」
「おおっ、やった!?」
 白く透けた悪霊のような“魔の者”が、その灼熱の炎と稲妻のような放電現象に包まれる。
「ど……して……?まま………」
「?」
「マリアさん、早くこっちへ!」
 稲生は通信室へのドアを開けた。

 入ったらすぐに、通信室という部屋になっているわけではなかった。
 無線機などの通信施設のあるエリアという意味のようだ。
 この廊下にも船員の姿は無かった。
 それでも通信室には入ることができ、
「あっ、これで外に助けを呼べるんじゃないですか?」
「そうかもしれないね。やれる?」
「やってみましょう」
 稲生はヘッドホンを頭に着けると、新人通信士が持っていたメモ書きを見ながらマイクに向かって喋った。
「メーデー、メーデー、メーデー。こちら、クイーン・アッツァー。救難信号【中略】。メーデー、メーデー、メーデー」
 日本語で喋った後、今度は英語で、
「Mayday,Mayday,Mayday.This is the Queen Azzar.Emergency Call number【中略】.Mayday,Mayday,Mayday.」
 と、喋った。
「……何も起こりませんね」
「……無線機、故障してるのかな?」
「ええっ?でもこれ、Azzarって、『アッヅァー』になるような……?」
「多分、これはイタリア語読みだと思う。イタリアにアッツァーテという名前の町があって、その綴りがよく似ている」
「へえ……。何も起きないみたいなので、先に行きましょう」
「そうだね」
 稲生とマリアは通信室を出た。
 隣に部屋に入ると、そこはまた仮眠室になっていた。
 2段ベッドの下段に寝そべっている船員がいて、上半身を起こすと、
「おお……。やっと……メーデーを出せた……。これで、助かる……。助けが……来る……」
 と、安堵の声を出すと、“成仏”していった。
「ちゃんと、意味があったみたいですね」
「う、うん……」
 稲生はソウルピースを手に入れた。
「でも、別の船員みたいだぞ?」
「えっ?」
「さっきの船員、どこ行った?」
「まだ廊下は続いてますからねぇ……」

 とは言いつつ、いい加減、船尾付近から船首まで歩いてきたような感じだ。
 実際突き当りにエレベーターがあり、やっとそこに件の船員を見つけることができた。
「……よし。エレベーターが起動できた。これで……船長室に……助けを……」
 そこでその船員は、ソウルピースを残して消えた。
 船長は相変わらず行方不明なのだが、このエレベーターでも船橋区画へ行けるらしい。
 見ると、『客室下階・客室上階・船橋区画へ』と書かれている。
 ボタンを押すと、ちゃんと稼働した。
「それじゃ、これで客室エリアに戻ってみましょう」
 2人はエレベーターに乗り込んだ。

 誰もいなくなった客室エリアを経由し、再びレストランに戻る。
 すると厨房から、機関長らしき船員がやってきた。
「ありがとう……。皆を助けてくれて……。これで……私も……。本当に……ありがとう……」
 機関長は稲生達に敬礼しながら消えていった。
 彼が残したものは、ソウルピースだけではなかった。
 床にポトリと落ちたのは、2つの鍵。
 1つは機関室の鍵と、もう1つは非常用通信室の鍵だった。
「非常用通信室なんてあるんですね」
「船底には無かったね。もっと他の場所にあるんだろうね」
「そのようです。まあ、まずはメイン電源を復旧させましょう」
「そうだね」
「と、その前に……」
「?」
 このレストランにも、レリーフがあった。
「もうそろそろ、ソウルピースも集まり切ったと思うんですよ」
「サンモンドの所に行くのか?」
「はい」
「分かった。私も一緒に行く。師匠からの伝言が色々とあるんだ」
「そうですか。それでは……」
 稲生が件の本をレリーフに翳す前に、マリアは空いた稲生の左手を掴んだ。
 期せずして、マリアと手を繋げた稲生だったが……。

[期日不明 時刻不明 天候:晴 スターオーシャン号 稲生勇太&サンモンド・ゲートウェイズ]

「あれ!?」
 実際にサンモンドの元へ行けたのは稲生だけだった。
「やあ。また来てくれたね」
「あ、あの、マリアさんも一緒だったんですが……」
「ん?ああ、その本は私がキミに貸し出しているものだ。悪いが、所有者権限で、ここへのアクセスはキミだけに制限させてもらっている」
「それは一体……」
「それより、キミは私に何かを渡しに来たのではないかね?」
「ええ。ソウルピースが集まったので……」
「そうか。助かるよ。……うん、これだけあれば十分だ。これで、“魔の者”に対抗する武器を作ることができる。私とキミ達とは目指す所が違えど、“魔の者”を倒すという目的は同じだ。それまでは、協力体制で行きたいと思っている」
「はあ……」
「ところで、キミは今までの船旅で、疑問に思ったことはないかい?」
「色々と、あります」
「私が答えられるものは、何でも答えてあげよう」
「まず……船長は、“魔の者”を倒す武器を作って、どうするつもりですか?」
「もちろん、“魔の者”を倒すに決まってるさ。私とて魔道師の端くれ。それを害する敵である“魔の者”は排除する。何かおかしいかね?」
「いえ……。ただ、その武器を作って、その武器で僕達に“魔の者”を倒させるつもりなんじゃないかなと思いまして……」
「協力してくれるのなら、是非お願いしたいところだがね。もちろん、無理にとは言わない。実は今回の“魔の者”について、おおよその正体が判明した」
「ええっ!?」
「そしてそれはそのブローチで、“魔の者”の魂を弱めれば、あとはマリアンナ君の魔法で倒せるくらいの弱さだ」
「じゃ、船長の武器は必要無いんじゃ……?」
「そのノート……。私のノートだな。そこに、既に答えが書いてある。ソウルピースを集めたキミには、私の魔法具を受け取る権利がある。完成したら、また会おう」
 サンモンドはそう言うと、船長室から消えてしまった。
 船長室のドアを開けないと、クイーン・アッツァーに戻ることはない。
 稲生は、恐る恐るサンモンドの考察ノートを開いた。

 そこには、目を疑うものが書かれていた。
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