報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「沈没前」

2015-12-09 19:30:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:曇 クイーン・アッツァー号(展望台屋根上) 稲生勇太&マリアンナ・スカーレット]

 梯子を登ると機材室があり、そこから外に出ることができた。
 アンテナのある場所までは、螺旋階段で登れるようになっている。
「久しぶりに外に出たって感じです。夜風が案外気持ちいいですね」
「船に乗る時は、こんな事態になるとは思わなかったな」
「ええ。早いとこ、イリーナ先生に状況を報告しないと……」
 階段を登ると、更にアンテナの直下まで登る梯子があった。
 また人形達にド突かれないよう、今度は稲生が先に登った。
「うーん……。見た感じは折れてるようでも、曲がってるようにも見えませんが……」
「電源が落ちてるんじゃないのか?」
「ですかねぇ……」
「あの分電盤みたいなのがそうじゃない?」
「なるほど」
 稲生は一瞬、屋内消火栓のように見える赤い箱を見た。
 しかし、稲妻のマークが書いてあるところをみると、これが電源ボックスっぽかった。
 葉書サイズの鉄板に、四隅でネジがしてある。
「マリアさん、ドライバー持ってませんよね?」
「あるわけないだろ!」
「ですよねぇ……」
 すると、メイド服姿のミク人形がメイド服のポケットの中からドライバーを取り出した。
「さすがミクさん」
 稲生が感心した様子になると、ミク人形はドヤ顔で大きく頷いた。
 ドライバーを受け取った稲生は、それで鉄板を外す。
「やっぱり。この中にスイッチがあります」
「OK.じゃ、お願い」
「ポチッとな」
 稲生はスイッチをOFFからONに切り替えた。
 すると、ヘリコプターのプロペラのような形をしたアンテナが、グルグルと回り始めた。
「おー!」
「これで交信できるかな」
 マリアはローブの中から、水晶球を出した。
「師匠、師匠。こちら、マリアンナです。応答願います」
(やっぱり、無線っぽい……)
{「あー、マリア!?無事なの!?」}
 水晶球からイリーナの声が聞こえた。
「繋がったぞ!」
「やった!……イリーナ先生、状況を確認させてください。クイーン・アッツァー号は大変な騒ぎです!」
{「そのようね。あなた達は知らないだろうけど、実は船の外も大変なことになってるのよ」}
「えっ!?」
「は?」
{「今、あなた達がいる所は魔界の海よ」}
「魔界!?ここは魔界でしたか!」
{「そう。そして“魔の者”のことについては、アルカディア王国政府も対策に乗り出していたところなのよ」}
「ほお。王国が……」
{「その船はアルカディア王国に向かってるみたいよ」}
「それじゃ、このまま時間稼ぎしていれば、僕達も助かるということですね?」
{「ところが、そうもいかないのよ」}
「確かに船底に穴が開いてるか何かしてるみたいですけど、私達で隔壁を操作しましたから、沈没の危険性は少ないかと」
 マリアも反論するように言った。
{「そういうことじゃないの。その船を意図的に沈めようという動きが今あるの」}
「どういうことですか!?」
{「王国政府はその船を王国には着けさせたくないみたい。まだ外海にいる間に、意図的に沈めたいらしいのよ」}
「まさか、船底に穴を開けたのって……?」
{「それはさすがに違うと思う。安倍首相……王国政府の方の安倍春明首相ね、彼が主導で魔王軍に正式導入した雷光集積兵器“ライディーン”を使うらしいわ」}
「な、何ですか、それは!?」
「雷の力を人工的に集めて、それを一気に放射する兵器か何かですか、師匠?」
{「マリア、正解。それが使われたら、いくら巨大客船と言えども、一たまりもないわ。もう魔王軍の方でカウントダウンを始めてるって話よ」}
「ちょ、ちょっと待ってください!この船、行方不明だったんですよね!?なのに、どうして位置が分かったんです!?」
{「それだけ船が王国に近づいたのと、あと、さっき船の方から緊急遭難信号が発せられたことで、位置が分かったらしいわ」}
「っ……!そ、それ、僕が送ったんですけど!?」
{「何年も彷徨っている船が、今さら生存者なんていないはず。それが送ってきたということは、“魔の者”の挑発に違いないという結論になったみたい」}
「藪蛇だった!」
「師匠、早く脱出の手配を!」
{「悪いけど、それはできない相談だわ」}
「ええっ!?」
「師匠、どういうことですか!?」
{「それだけ残された時間は少ないということ。だったら、照射自体を止める作業に入った方がマシだわ。あなた達は何とか時間を稼いでちょうだい」}
「マジですか……!」
「とんでもない話だ……。まあいいや。とにかく、船の中に戻ろう」
「参ったなぁ……」

 稲生達は再び展望台の中へ戻った。
 すると、また水晶球に“着信”が入った。
{「こちらエレーナ。マリアンナ、聞こえる?」}
「エレーナ!?」
{「話はイリーナ先生から聞いたわ。私、今、所用で魔界にいるの」}
「ホウキで助けに来てくれるのか?」
{「ムリ!」}
「ソッコー拒否すんなっ!}
{「私だって死にたくないしー」}
「ま、そりゃそうだけど!」
{「その船のことについては、実は聞いたことがあるの」}
「えっ?」
{「冥鉄が買い取る前に、魔王軍が買い取ろうとしていた時があって、船首にUAVが積んであるって話よ」}
「UAV!?……って、なに?」
 マリアが稲生にこっそり聞いて来た。
 稲生はマリアの耳元に小声で、
「無線操縦できる無人飛行機のことですよ」
 と、答えた。
「そんなものがあるのか!?」
{「確か、船首部分に置いてあるって話よ」}
 稲生は展望台の窓越しに、船首の方を見た。
 すると、
「あー、何かコンテナらしきものが見えます!」
「何かあるみたいだ」
{「UAVを上手く飛ばすことができたら、“ライディーン”の照準を目くらまし出来るはずよ」}
「了解だ!こういう時に限ってうちの師匠は、交渉に失敗するからな!」
「マリアさん、いくら何でもそれは……」
「いいから!早く船首に急ごう!」
「は、はい!」

 稲生達は再びホールに降りるエレベーターに乗り込んだ。
 ゆっくりとホールに向かって下りて行くエレベーター。
「船首にはどうやって行く?」
「プロムナードのバックヤードからエレベーターで行けるはずです。僕、1度だけそこのラウンジを探索しましたから」
「さすがはユウタ!」
 だが、そうは問屋が卸さないことはプロムナードに行ってから思い知らされるのである。
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“大魔道師の弟子” 「豪華幽霊船の展望台で」

2015-12-09 12:38:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:曇 クイーン・アッツァー号(船橋区画) 稲生勇太&マリアンナ・スカーレット]

 チーン♪
 ガチャ、ガラガラガラ……。

「久しぶりに船橋に戻ってきたなぁ……」
 機関部からのエレベーターで船橋まで上がって来た稲生達。
 もう既に電源が復旧しているということもあり、船橋区画も明るかった。
 まだ船橋区画は全て探索していなかったこともあり、機関部からのエレベーターで行くと、操舵室に行く前に上級船員達のロッカールームを通ることが分かった。
 操舵室に行くと、既に嵐自体は収まっていることが分かった。
 ただ、月明かりは全く見えないので、曇ってはいるようだ。
 相変わらず船はオートパイロットの状態ではあるが、はっきり言ってどこに向かっているのかは定かではない。
 冥鉄の連絡船なので、地獄界に向かっている恐れが無くも無いが。
 鉄道連絡船の中には1等船室もあるだろうが、船自体が豪華客船というのも珍しい。
 冥鉄は別の商売をしようというのではないかとさえ思う。
「ああ、これだ。船の見取り図」
「ありましたか」
 マリアが机の引き出しから出した図面を見ると、
「あの大ホールと繋がってるみたいですね」
「どうやって行くの?」
「この船橋からエレベーターでプロムナードまで降りれますので、そこからホールに出れます」
「そうか」

[クイーン・アッツァー号(大ホール→非常用通信室) 稲生&マリア]

 吹き抜け大ホールに関しては、マリアも稲生と同じ感想を持ったようだ。
「まるで、魔王城みたいだ」
 と。
「案外、ここが“魔の者”との最終決戦場になったりしてね」
 稲生が言うと、マリアも微笑を浮かべて、
「ここなら戦い易いな。だけど、こう明るいんじゃ、それは無いと思うな」
「……ですね」
「で、このちょっとしたオペラハウスみたいな場所のどこに非常用通信室があるんだ?」
「確か、向こうですね」
 マリアの屋敷のエントランスホールにもあるような、吹き抜けのT字型階段。
 しかし大きさは、その何倍もある。
 そこから上がって2階部分に、それはあった。
 ちょうど、大きな振り子時計の裏側。
 入口には貼り紙で、
『この先、非常用通信室につき、関係者以外立ち入り禁止。鍵を御入用の方は、機関部無線通信室まで』
 と、書かれていた。
 それで、機関長がここの鍵を持っていたのだ。
 稲生はその鍵でドアを開けると、早速中へ入った。
 操作パネルを起動し、チャンネルを非常通信用に合わせる。
 電波を送信しようとするが、エラーになる。
「あれ?れれれ?」
「……ユウタ、どうなってるって?」
「ハハ……ハハハハハハハハ……」
「はははははは……」
「……分かりません」
「ちっ……!」
 室内にあるマニュアルを読み漁った結果、エラーコードの意味と、どこが悪いのかを把握することができた。
「うー……アンテナそのものに異常って……。折れたのかなー……?」
「直せるんだったら直してみよう。場所は?」
「展望台の屋根の上です」
「……上がれるのか?」
「そりゃまあ、保守点検くらいはするでしょうから、そのルートで行けるはずですが……」
「よし。じゃあ、早速行ってみよう」
「そこのホールのエレベーターで上がれるとのことです。バックヤードのエレベーターと違い、非常電源では動かないらしいですが、もう今はメイン電源を復旧させてますからね」
「そうだね」
 非常用通信室を出た後、2人はガラス張りのエレベーターに乗り込んだ。
「これだけ見れば、真夜中の静かな豪華客船なんだけどな」
「そうですねぇ……」

[クイーン・アッツァー号(展望台) 稲生&マリア]

 エレベーターが展望台に到着する。
 日本の船ならここに大浴場でも作られそうな感じだが、ヨーロッパの船会社に所属していたアッツァーにそんなものは無い。
 因みにプールはさすがにあって、先ほどの大ホールから行けるようだが、あいにくと今の稲生達の探索目的の中には入っていない。
「何だか霧に包まれて、全く外が見えませんね」
「ていうか、夜だからそもそも何も見えないだろ。で、屋根の上にはどうやって上がる?」
「どこかに梯子か何か無いかな……?」
 円形の大ホールの真上に作られた展望台。
 当然、この展望台も円形に作られている。
 360度の大パノラマで、外海を航行中は大海原を眺めることができたのだろう。
 今では幽霊船そのものだが、現役当時が偲ばれる部分である。
「! 待って、ユウタ!」
 マリアが先を行く稲生の右手を掴む。
「えっ!?」
「何かいる……!」
 確かに、床の上に何かが寝そべっていた。
 “魔の者”とは違う。
「グオオオオ!」
「動いた!」
「ちっ!“魔の者”以外に、別のモンスターも乗り込んでたみたいだな!」
 それは巨大なイモムシのようだったが、足が無数に生えてきたので、ムカデの化け物のようでもあり……。
 天井近くまで飛び上がったりしてるので、まあ……何かのモンスターなのだろう。
「人形召喚!」
 マリアは杖を高く掲げて、ミク人形とハク人形を召喚した。
 かつてはサーベルやスピアを持っていたが、今では小銃を手にしている。
「あのモンスターを倒して!」
 マリアが命令すると、2体の人形達は早速モンスターに向かって集中攻撃した。
 ミク人形こと、ミカエラがライフル、ハク人形こと、クラリスがマシンガンを持っている。
「む、無敵だ……」
 モンスターは最後の力を振り絞って、天井近くまで飛び上がったが、むしろ人形達の集中砲火を浴びやすくなっただけだった。
「うわっ!」
 そのモンスターは床を強く叩くことで大きな揺れを起こし、稲生達の動きを封じるつもりでいたのだろう。
 倒れる瞬間、そのモンスターによる大揺れがあった。
 そしてそのショックのせいで、天井板が開き、梯子が勢いよく下りてきた。
「おおっ、ラッキー!」
 稲生が手を叩いて喜んだ。
「全く。敵は“魔の者”だけではないということか。……ありがとう、2人とも」
「どこから入ってきたんでしょうねぇ……?」
「何しろ、船底に穴が開いてたくらいだからな。侵入箇所は、いくらでもあるんだろうね」
「なるほど」
「それより、あの梯子が屋根の上に上がるルートじゃないか?」
「そのようですね」
「よし、行こう。ついてきて」
 マリアが梯子を登り始めた。
「はいっ!」
 稲生も後に続く。
 が!
 ミク人形とハク人形に阻止された。
「な、何だよ!?ま、マリアさん!何か、ミクさん達が……」
 梯子の上まで登るマリアを見上げようとした稲生をフルボッコにするミク人形達。
「マスターのスカートの中、覗いちゃダメ!」
「マスターの絶対領域を覗く変態!チカン!!」
「でーっ!?そんなつもりは……!」
「やめなさい、ミカエラ!クラリス!ユウタはいいからっ!!」

 危うく稲生のHPが残り1になるところであった。
 果たして、展望台の屋根の上にあるアンテナの状況や如何に?
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“大魔道師の弟子” 「日蓮正宗では水子の供養はしない?」

2015-12-09 10:33:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:晴 スターオーシャン号・船長室 稲生勇太]

 稲生は無人となった船長室で、サンモンドが書いた“魔の者”の正体に対する考察を読んだ。
 そこに書かれていたのは、驚くべき内容であった。

『……これが何を意味するのかは定かではないが、では第一の被害者であるマリアンナ師の動向を探ってみれば、おおよその筋書が見えてくる。
 いくつかある疑問点を挙げよう。
 1つ、“魔の者”からの高飛びとはいえ、その行き先を日本国にしたのは何故だ?
 2つ、日本国へ逃げたマリアンナ師をそれでも“魔の者”が追い掛けたのは何故だ?他にもヨーロッパには魔道師がいたはずだ。矛先を変えず、わざわざ日本まで追い掛けた理由が不明だ。
 3つ、マリアンナ師を第一の矛先に狙った理由は何だ?
 4つ、前回の北海道などにおける戦いにおいて、“魔の者”の目的がよく分からないこと。
 5つ、悪魔のやることだから分からないのは当然だが、『子宮を抉り出す』という儀式はそもそも存在しない。

 あくまで推察であるが、それぞれの疑問の答えを探ってみよう。
 実はこの“魔の者”騒動の裏には、イリーナ師の新弟子探しも含まれていたと思われる。
 予め、今度の新弟子を日本人の中から選ぼうとした可能性はある。
 それでいて、イギリスから遠く離れた国であるという条件も整う。
 “魔の者”はマリアンナ師に拘る理由があったのだ。
 前回における戦いで敗北を喫した為、一時的に他の魔道師に矛先を変えただけの可能性がある。
 “魔の者”は魔道師の魂を狙っていたと思うが、そもそも当初はマリアンナ師の子宮を狙うという意味不明のものだった。
 いかに寿命が普通の人間よりも伸びる魔道師とはいえ、使用する肉体は人間のままである。
 ただ単に悪魔との契約の副作用で、肉体の成長や老化が極端に遅くなるに過ぎない(これは悪魔が、せっかくの契約者を早死にさせてしまうと損するからという理由で、契約者に図る便宜の1つだとされている)。
 その魂を狙うというのなら分かるが、子宮を狙うというのは、どう考えてもおかしい。
 最終的に心臓を狙ったようだが、それは他の悪魔の囁きによるもののようだ。
 もしかしたらこれは、“魔の者”がマリアンナ師に対し、個人的な私怨があって、やっていたことではないか。
 個人的な私怨なら、やることなすこと何でもアリなのは当然だ。
 では何故、そうなのか?
 マリアンナ師が魔道師になるに当たっての経緯が特殊であることは有名な話だが、そこに謎が隠されているような気がして仕方が無い。
 引き続き、調査を続けることにしよう。
 日本人の中でも数ある候補者の中から稲生勇太氏を選んだのは、候補者の中で唯一、日蓮師の流れを汲む宗派の信徒というのが理由だったと噂されているが、これについても調査が必要である。
 水子供養云々について語っていたとイリーナ師は言っていたそうだが、それとどう関係があるのかも……』

[期日不明 時刻不明 天候:曇 クイーン・アッツァー号(レストラン) 稲生勇太&マリアンナ・スカーレット]

 気が付くと稲生は、再びアッツァーのレストランにいた。
「……!?」
「……お帰り」
 後ろから声がしたので振り向くと、そこにはジト目をしたマリアが立っていた。
「あっ、どうも!な、何か、僕だけ引き込まれたみたいで……」
「やっぱりサンモンドのヤツ、完全に私達の味方じゃないみたいだ」
「そうなんですか?」
「師匠の話だと、私達の戦いを観賞してるらしい。今回の“魔の者”騒動についても、色々と勝手な考察をしているらしいんだ」
「そうなんですか。……ねぇ、マリアさん」
「なに?」
「マリアさんが“魔の者”に襲われる理由って、何なんでしょう?」
「悪魔の考えることは知らないし、全て知る必要も無い。魔道師は奴らを上手く利用すればいい。利用できないばかりか、敵として襲って来るのなら倒すだけさ」
「はあ……」
「それより、早く機関室に行こう。何か、客室部分が停電したみたいだ」
「本当ですか」
「残された時間は長くない。急ごう」
「はい!」

[クイーン・アッツァー号 機関室内部 稲生&マリア]

 機関室のドアを開けると、更に下に降りる階段が続いていた。
 螺旋階段になっていて、そこを降りきってドアを開けた。
「……?何か聞こえる。……水の音?」
「……確かに。向こうの通路から聞こえますね」
 通路の手前には監視室があり、そこは無人だった。
 幽霊もいない。
 恐らくここに機関長がいたのだろう。
 モニターにはエラー画面が出ており、そこに機関部分の故障状況が表示されていた。
「えっ!?」
 メイン電源自体は再起動させるだけで良いみたいだが、他の異常画面を見て驚いた。

『船底機関部において、浸水発生。停電状態の為、水密扉閉鎖不能。至急、現場を確認し、メイン電源を復旧させてください』

「浸水って……ええっ!?」
「マズいな。もし船底に穴でも開いているって話なら、この船……沈むよ?」
 マリアが怖いことを言った。
「早いとこ、メイン電源を復旧させないと!」
「そうだな。行こう」

 電源を再起動させる場所は、更に監視室を下った部分にあった。
 そこに水が溜まっており、その深さは足首から脛の部分くらい。
 幸い、監視室に清掃用の長靴があったのでそれに履き替え、稲生はズボンをまくった。
 マリアはロングスカートだったので、スカートを膝丈上まで捲り上げて、その上で裾を結ぶ。
「この前、北海道に行った時みたいな服で来るべきだったな」
「ハハハ……。今度はそうしてください」
 バシャバシャと水をかき分け、船底の深部へ向かう。
 非常灯しか点いていない有り様だが、“魔の者”が現れる様子が無い。
「もちろん現れて欲しくないけど、“魔の者”、姿を現しませんね?」
「さっきの魔法で倒せるほど弱いヤツとも思えないけどな」

 メイン電源の再起動の仕方は、幸い現場に表示してあったので、それを見ながら行った。
 すると、機関室内部が明るくなった。
 どうやら、メイン電源の再起動に成功できたようである。
「よし!うまく行きましたね!」
「ああ!」
 その足で再び監視室に戻ると、エラー画面が消えていた。
「えーと、水密扉の閉鎖方法は……」
 稲生がパネルのキーボードを叩く。
 PC卓があることから、けしてこの船が古めかしいものではないことが分かる。
 あちこち老朽化してはいるものの……。
「上手く行きそう?」
「ええ、何とか……」
「こういう時、パソコンに詳しいユウタがいると助かる」
「ありがとうございます」
 すると、船が少し大きく揺れた。
 そして、監視室の窓から見える水密扉の近くに一瞬、波しぶきみたいなものが見えた。
「マズいな。どんどん水かさが増えてるみたい」
「ええ、今急いでやってます」
 稲生はタイピングのスピードを速めた。
「“魔の者”め!この船ごと私達を沈める気か!」
「……よしっ!マリアさん、あのレバーを引いてください!」
「これか!?」
 マリアは電気室にあったような、大きなブレーカーのレバーみたいな形をしたそれを手前に引いた。
 すると、ゴゴゴゴという音がして、監視室から見える大きな引き戸タイプの分厚い鉄扉、水密扉が閉鎖された。
「これでいい!これで一先ず安心です」
「良かった。いつまでも、“魔の者”に踊らされたくないからな」
「さすがに船と心中はカンベンですよねぇ……」
「で、これからどうする?“魔の者”が今現れて、そこで倒すに超したことはないけど……」
「イリーナ先生と連絡は取れませんか?」
「それが、前から交信を取ろうとしてるんだけど、どうも受信状況が悪い」
 マリアは水晶球をローブの中から取り出した。
(まるで、ケータイか無線みたいだな……)
 と、稲生は思った。
 それとも、もし電波状況が改善されたら、イリーナとも交信しやすくなるのだろうか。
「そうだ。非常用通信室!」
「ん?」
「そこに行けば、少しは電波状況もいいかもしれませんから、交信しやすくなるかもしれませんよ?」
「なるほど。で、どこに非常用通信室があるんだ?」
「えっと……そりゃあ……。あ、そうだ。船橋に行けば、船内の見取り図があるかもしれませんね」
「なるほど」

 2人は機関室を出て、復旧なったばかりのエレベーターに乗り、船橋に向かうことにした。
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