[期日不明 時刻不明 天候:曇 クイーン・アッツァー号(展望台屋根上) 稲生勇太&マリアンナ・スカーレット]
梯子を登ると機材室があり、そこから外に出ることができた。
アンテナのある場所までは、螺旋階段で登れるようになっている。
「久しぶりに外に出たって感じです。夜風が案外気持ちいいですね」
「船に乗る時は、こんな事態になるとは思わなかったな」
「ええ。早いとこ、イリーナ先生に状況を報告しないと……」
階段を登ると、更にアンテナの直下まで登る梯子があった。
また人形達にド突かれないよう、今度は稲生が先に登った。
「うーん……。見た感じは折れてるようでも、曲がってるようにも見えませんが……」
「電源が落ちてるんじゃないのか?」
「ですかねぇ……」
「あの分電盤みたいなのがそうじゃない?」
「なるほど」
稲生は一瞬、屋内消火栓のように見える赤い箱を見た。
しかし、稲妻のマークが書いてあるところをみると、これが電源ボックスっぽかった。
葉書サイズの鉄板に、四隅でネジがしてある。
「マリアさん、ドライバー持ってませんよね?」
「あるわけないだろ!」
「ですよねぇ……」
すると、メイド服姿のミク人形がメイド服のポケットの中からドライバーを取り出した。
「さすがミクさん」
稲生が感心した様子になると、ミク人形はドヤ顔で大きく頷いた。
ドライバーを受け取った稲生は、それで鉄板を外す。
「やっぱり。この中にスイッチがあります」
「OK.じゃ、お願い」
「ポチッとな」
稲生はスイッチをOFFからONに切り替えた。
すると、ヘリコプターのプロペラのような形をしたアンテナが、グルグルと回り始めた。
「おー!」
「これで交信できるかな」
マリアはローブの中から、水晶球を出した。
「師匠、師匠。こちら、マリアンナです。応答願います」
(やっぱり、無線っぽい……)
{「あー、マリア!?無事なの!?」}
水晶球からイリーナの声が聞こえた。
「繋がったぞ!」
「やった!……イリーナ先生、状況を確認させてください。クイーン・アッツァー号は大変な騒ぎです!」
{「そのようね。あなた達は知らないだろうけど、実は船の外も大変なことになってるのよ」}
「えっ!?」
「は?」
{「今、あなた達がいる所は魔界の海よ」}
「魔界!?ここは魔界でしたか!」
{「そう。そして“魔の者”のことについては、アルカディア王国政府も対策に乗り出していたところなのよ」}
「ほお。王国が……」
{「その船はアルカディア王国に向かってるみたいよ」}
「それじゃ、このまま時間稼ぎしていれば、僕達も助かるということですね?」
{「ところが、そうもいかないのよ」}
「確かに船底に穴が開いてるか何かしてるみたいですけど、私達で隔壁を操作しましたから、沈没の危険性は少ないかと」
マリアも反論するように言った。
{「そういうことじゃないの。その船を意図的に沈めようという動きが今あるの」}
「どういうことですか!?」
{「王国政府はその船を王国には着けさせたくないみたい。まだ外海にいる間に、意図的に沈めたいらしいのよ」}
「まさか、船底に穴を開けたのって……?」
{「それはさすがに違うと思う。安倍首相……王国政府の方の安倍春明首相ね、彼が主導で魔王軍に正式導入した雷光集積兵器“ライディーン”を使うらしいわ」}
「な、何ですか、それは!?」
「雷の力を人工的に集めて、それを一気に放射する兵器か何かですか、師匠?」
{「マリア、正解。それが使われたら、いくら巨大客船と言えども、一たまりもないわ。もう魔王軍の方でカウントダウンを始めてるって話よ」}
「ちょ、ちょっと待ってください!この船、行方不明だったんですよね!?なのに、どうして位置が分かったんです!?」
{「それだけ船が王国に近づいたのと、あと、さっき船の方から緊急遭難信号が発せられたことで、位置が分かったらしいわ」}
「っ……!そ、それ、僕が送ったんですけど!?」
{「何年も彷徨っている船が、今さら生存者なんていないはず。それが送ってきたということは、“魔の者”の挑発に違いないという結論になったみたい」}
「藪蛇だった!」
「師匠、早く脱出の手配を!」
{「悪いけど、それはできない相談だわ」}
「ええっ!?」
「師匠、どういうことですか!?」
{「それだけ残された時間は少ないということ。だったら、照射自体を止める作業に入った方がマシだわ。あなた達は何とか時間を稼いでちょうだい」}
「マジですか……!」
「とんでもない話だ……。まあいいや。とにかく、船の中に戻ろう」
「参ったなぁ……」
稲生達は再び展望台の中へ戻った。
すると、また水晶球に“着信”が入った。
{「こちらエレーナ。マリアンナ、聞こえる?」}
「エレーナ!?」
{「話はイリーナ先生から聞いたわ。私、今、所用で魔界にいるの」}
「ホウキで助けに来てくれるのか?」
{「ムリ!」}
「ソッコー拒否すんなっ!}
{「私だって死にたくないしー」}
「ま、そりゃそうだけど!」
{「その船のことについては、実は聞いたことがあるの」}
「えっ?」
{「冥鉄が買い取る前に、魔王軍が買い取ろうとしていた時があって、船首にUAVが積んであるって話よ」}
「UAV!?……って、なに?」
マリアが稲生にこっそり聞いて来た。
稲生はマリアの耳元に小声で、
「無線操縦できる無人飛行機のことですよ」
と、答えた。
「そんなものがあるのか!?」
{「確か、船首部分に置いてあるって話よ」}
稲生は展望台の窓越しに、船首の方を見た。
すると、
「あー、何かコンテナらしきものが見えます!」
「何かあるみたいだ」
{「UAVを上手く飛ばすことができたら、“ライディーン”の照準を目くらまし出来るはずよ」}
「了解だ!こういう時に限ってうちの師匠は、交渉に失敗するからな!」
「マリアさん、いくら何でもそれは……」
「いいから!早く船首に急ごう!」
「は、はい!」
稲生達は再びホールに降りるエレベーターに乗り込んだ。
ゆっくりとホールに向かって下りて行くエレベーター。
「船首にはどうやって行く?」
「プロムナードのバックヤードからエレベーターで行けるはずです。僕、1度だけそこのラウンジを探索しましたから」
「さすがはユウタ!」
だが、そうは問屋が卸さないことはプロムナードに行ってから思い知らされるのである。
梯子を登ると機材室があり、そこから外に出ることができた。
アンテナのある場所までは、螺旋階段で登れるようになっている。
「久しぶりに外に出たって感じです。夜風が案外気持ちいいですね」
「船に乗る時は、こんな事態になるとは思わなかったな」
「ええ。早いとこ、イリーナ先生に状況を報告しないと……」
階段を登ると、更にアンテナの直下まで登る梯子があった。
また人形達にド突かれないよう、今度は稲生が先に登った。
「うーん……。見た感じは折れてるようでも、曲がってるようにも見えませんが……」
「電源が落ちてるんじゃないのか?」
「ですかねぇ……」
「あの分電盤みたいなのがそうじゃない?」
「なるほど」
稲生は一瞬、屋内消火栓のように見える赤い箱を見た。
しかし、稲妻のマークが書いてあるところをみると、これが電源ボックスっぽかった。
葉書サイズの鉄板に、四隅でネジがしてある。
「マリアさん、ドライバー持ってませんよね?」
「あるわけないだろ!」
「ですよねぇ……」
すると、メイド服姿のミク人形がメイド服のポケットの中からドライバーを取り出した。
「さすがミクさん」
稲生が感心した様子になると、ミク人形はドヤ顔で大きく頷いた。
ドライバーを受け取った稲生は、それで鉄板を外す。
「やっぱり。この中にスイッチがあります」
「OK.じゃ、お願い」
「ポチッとな」
稲生はスイッチをOFFからONに切り替えた。
すると、ヘリコプターのプロペラのような形をしたアンテナが、グルグルと回り始めた。
「おー!」
「これで交信できるかな」
マリアはローブの中から、水晶球を出した。
「師匠、師匠。こちら、マリアンナです。応答願います」
(やっぱり、無線っぽい……)
{「あー、マリア!?無事なの!?」}
水晶球からイリーナの声が聞こえた。
「繋がったぞ!」
「やった!……イリーナ先生、状況を確認させてください。クイーン・アッツァー号は大変な騒ぎです!」
{「そのようね。あなた達は知らないだろうけど、実は船の外も大変なことになってるのよ」}
「えっ!?」
「は?」
{「今、あなた達がいる所は魔界の海よ」}
「魔界!?ここは魔界でしたか!」
{「そう。そして“魔の者”のことについては、アルカディア王国政府も対策に乗り出していたところなのよ」}
「ほお。王国が……」
{「その船はアルカディア王国に向かってるみたいよ」}
「それじゃ、このまま時間稼ぎしていれば、僕達も助かるということですね?」
{「ところが、そうもいかないのよ」}
「確かに船底に穴が開いてるか何かしてるみたいですけど、私達で隔壁を操作しましたから、沈没の危険性は少ないかと」
マリアも反論するように言った。
{「そういうことじゃないの。その船を意図的に沈めようという動きが今あるの」}
「どういうことですか!?」
{「王国政府はその船を王国には着けさせたくないみたい。まだ外海にいる間に、意図的に沈めたいらしいのよ」}
「まさか、船底に穴を開けたのって……?」
{「それはさすがに違うと思う。安倍首相……王国政府の方の安倍春明首相ね、彼が主導で魔王軍に正式導入した雷光集積兵器“ライディーン”を使うらしいわ」}
「な、何ですか、それは!?」
「雷の力を人工的に集めて、それを一気に放射する兵器か何かですか、師匠?」
{「マリア、正解。それが使われたら、いくら巨大客船と言えども、一たまりもないわ。もう魔王軍の方でカウントダウンを始めてるって話よ」}
「ちょ、ちょっと待ってください!この船、行方不明だったんですよね!?なのに、どうして位置が分かったんです!?」
{「それだけ船が王国に近づいたのと、あと、さっき船の方から緊急遭難信号が発せられたことで、位置が分かったらしいわ」}
「っ……!そ、それ、僕が送ったんですけど!?」
{「何年も彷徨っている船が、今さら生存者なんていないはず。それが送ってきたということは、“魔の者”の挑発に違いないという結論になったみたい」}
「藪蛇だった!」
「師匠、早く脱出の手配を!」
{「悪いけど、それはできない相談だわ」}
「ええっ!?」
「師匠、どういうことですか!?」
{「それだけ残された時間は少ないということ。だったら、照射自体を止める作業に入った方がマシだわ。あなた達は何とか時間を稼いでちょうだい」}
「マジですか……!」
「とんでもない話だ……。まあいいや。とにかく、船の中に戻ろう」
「参ったなぁ……」
稲生達は再び展望台の中へ戻った。
すると、また水晶球に“着信”が入った。
{「こちらエレーナ。マリアンナ、聞こえる?」}
「エレーナ!?」
{「話はイリーナ先生から聞いたわ。私、今、所用で魔界にいるの」}
「ホウキで助けに来てくれるのか?」
{「ムリ!」}
「ソッコー拒否すんなっ!}
{「私だって死にたくないしー」}
「ま、そりゃそうだけど!」
{「その船のことについては、実は聞いたことがあるの」}
「えっ?」
{「冥鉄が買い取る前に、魔王軍が買い取ろうとしていた時があって、船首にUAVが積んであるって話よ」}
「UAV!?……って、なに?」
マリアが稲生にこっそり聞いて来た。
稲生はマリアの耳元に小声で、
「無線操縦できる無人飛行機のことですよ」
と、答えた。
「そんなものがあるのか!?」
{「確か、船首部分に置いてあるって話よ」}
稲生は展望台の窓越しに、船首の方を見た。
すると、
「あー、何かコンテナらしきものが見えます!」
「何かあるみたいだ」
{「UAVを上手く飛ばすことができたら、“ライディーン”の照準を目くらまし出来るはずよ」}
「了解だ!こういう時に限ってうちの師匠は、交渉に失敗するからな!」
「マリアさん、いくら何でもそれは……」
「いいから!早く船首に急ごう!」
「は、はい!」
稲生達は再びホールに降りるエレベーターに乗り込んだ。
ゆっくりとホールに向かって下りて行くエレベーター。
「船首にはどうやって行く?」
「プロムナードのバックヤードからエレベーターで行けるはずです。僕、1度だけそこのラウンジを探索しましたから」
「さすがはユウタ!」
だが、そうは問屋が卸さないことはプロムナードに行ってから思い知らされるのである。