報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生の奮闘」

2015-12-12 21:58:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明 天候:曇 クイーン・アッツァー号(船尾部分) 稲生勇太]

 案の定、サイドデッキにもモンスター達が徘徊していた。
 稲生の姿を見つけると襲ってきたので、稲生はサンモンドからもらった銃で応戦した。
 見た目は普通のショットガンだが、発砲する度、青白い光が出るところが、普通の銃弾ではないことを表していた。
「どいてくれ!お前達の相手をしてる場合じゃないんだ!!」
 モンスター達は当然のことながら、現在船の上空で何が起きているのかを知らない。
 稲生を普通に敵や獲物と見なして向かってくるだけだ。
 稲生の前に立ちはだかったモンスター達は頭部を撃ち抜かれたり、被弾の衝撃で海に転落したりした。
 ようやくモンスター達を倒したり、振り切って業務用通路に入る。
 そこにもモンスター達はいて、それを倒し、何とか業務用エレベーターの前に着くことができた。
 それはスイッチ・キーがOFFになっていたものの、幸い既に手に入れた鍵でスイッチをONにすることができた。
 エレベーターに乗り込んで、最下層のボタンを押す。
 すぐにエレベーターが下に向かってグングン降りて行く。
 このエレベーター、マリアが初めてこの船に乗り込んだ時、スプラッターな状態になっていたフロアも通過する。
 マリアが電源が切れていて乗れなかった貨物エレベーターが、これであった。
「急いでくれ!時間が……!」

 エレベーターは途中で止まることなく、船尾の船底に辿り着いた。
 メイン電源が復旧しているおかげで、船底であっても照明がちゃんと点灯している。
「制御室はどこだ!?」
 エレベーターを降りる。
 コンテナが無造作に積まれており、停止しているクレーンなどもあった。
 リフトもあったことから、往時はクレーンでコンテナを吊り上げて、リフトに乗せたり降ろしたりしていたようだ。
「ど、どうしよう!?場所が分からない!」
 稲生は頭を抱えた。
 すると、エレベーターを降りた最初の通路の所に、ある人物が現れる。
「制御室は、あそこだよ、お兄さん」
 それは小学校低学年くらいの少年だった。
 コンテナが無造作に積まれている部分の奥を指さす。
「そ、そうなの?」
「うん」
 白人の少年はスウッと飛び上がると、そのコンテナの前に下り立った。
 体が一瞬、透けていたことから、どうも幽霊っぽい。
 しかしそれまでの船員らの幽霊と違い、影ではなく、ちゃんと姿は存在している。
 何だろう?
 ジェシカも全体的に白い姿をしていたが、こっちの少年の方はもっと幽霊っぽいというか……。
 稲生は急いで、そのコンテナの所に向かう階段を駆け下りた。
「き、キミは一体……?」
「後で後で!」
 少年はパタパタと、コンテナとコンテナの間をすり抜けるようにして進んだ。
 その後を稲生が追うのだが、ギリギリであった。
「ああっ!?」
「ちっ、まだいたのか……」
「グェッへへへへへへ!」
 おぞましい姿をしたモンスターが待ち伏せしていた。
 両手には鋭い爪が長く研ぎ澄まされ、大きな口には全てが牙かと思う程に尖った歯が目立つ。

 ズダーン!
 ズダーン!
 ズダーン!

「グヴゥェ……ッ!」
 稲生の射撃にあっと言う間に倒される、中ボスなのに小ボス扱いのモンスターだった。
「お兄さん、強いね」
「ここでモンスターと遊んでる場合じゃ……」
 その時、稲生の視界が歪んだ。
 足元がおぼつかなくなる。
 一瞬また船が大きく揺れたのかと思った。
 もしや、もう“ライディーン”が撃って来た!?
「な、何だろう?体がだるく……?」
 その時、稲生は気づいた。
 いや、病気ではない。
 この銃に込められた銃弾。
 全く弾切れの心配が無いなと思っていたのだが、どうも魔法の銃弾だったらしい。
 つまり、稲生の魔力を使うシロモノだったらしく、要するに稲生は魔法を使いまくったため、MPが残り僅かの状態になってしまったということだ。
 ゲームと違い、そんなものは数値化されるわけではない。
 実際に、魔道師が己の体調と相談するのが実情なのである。
 それでも稲生は少年の手引きにより、制御室に辿り着くことができた。
 入ると同時に、稲生の後を追ってきたモンスター達がドアをドンドンと叩く。
 稲生は鉄扉の内鍵を閉めた。
「しつこい奴らだ!」
 とにかく鍵を掛けて侵入への時間を稼ぐと、稲生は制御盤を操作した。
 サンモンドはちゃんとUAVを組み立ててくれたらしい。
 画面には、
『UAV-01、離陸待機中です』
 と、出ていた。
「頼む!間に合ってくれ!」
 稲生は必死の願いを込めて、エンターキーを叩いた。
『UAV-01、離陸が承認されました』
 その時、画面横の電話機が鳴った。
「はい、もしもし?」
{「稲生君、私だ」}
 サンモンドからだった。
{「UAVが今、無事に飛び立ったぞ」}
「本当ですか!?」
{「あのUAVにはチャフが搭載されていた。あれが飛行中にばら撒かれれば、更に“ライディーン”の照射先をズラすことができる」}
「おおっ、やった!」
{「だが、油断してはいけない」}
「えっ?」
{「確かに“ライディーン”の照準はズレるだろうが、ピンポイントで巨大艦船1隻を一気に沈める新兵器だ。恐らく、大きな衝撃くらいはあるだろう。それに備えて、身を……し……」}
「船長?もしもし?もしもーし!?」

 ドォーン!

「わあああっ!?」
 制御室に大きな衝撃がやってきた。
 稲生は床から両足が離れた感覚に襲われると、何かに叩きつけられたのか、全身に痛みが走るような感覚に襲われると、そのまま意識を失った。

[魔界時間03:35.魔界アルカディア王国・首相官邸 安倍春明&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 イリーナの水晶球に、勢い良く船首から飛び立つUAVの姿が映し出される。
 そのUAVは、高速で船から離れながらチャフをばら撒いて行った。
 案の定、大きな稲妻が船ではなく、そのUAVに落ち、更にはチャフに向かってバラバラに落ちて行く。
 それはつまり、威力も分散させることに成功したことを意味すると思われるが、それでも甘かったようだ。
 海面に強い衝撃波が発生したのか、大きな波が船に覆い被さるように襲って来た。
「マリア!ユウタ君!」
「こ、こりゃ、想定外の巨大波だ……!」
「ライディーンどころかギガディーン……いえ、ミナディーンだわ!」
「……今度の軍事予算会議で、改名を打診してみます。……あ、いや、コホン」
 安倍は咳払いをすると、
「すぐに救助隊を派遣します」
 と言うと、執務机の電話の受話器を取った。
「あー、私だ。すぐ、魔王軍総司令部に繋いでくれ。……そうだ」
 安倍は軍部に対し、すぐに飛空艇を一隻飛ばし、“ライディーン”の照射現場に向かうよう通達を出した。
 そしてレナフィール大佐率いる、“ライディーン”を操作・制御している部隊に対しては、2度目以降の発射中止を指示したのである。
コメント (4)
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