報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「山形県村山地方 道の駅巡り」

2021-08-15 19:57:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日13:00.天候:晴 山形県尾花沢市 道の駅尾花沢ねまる]

 『ねまる』とはこの辺りの方言で、『寛ぐ』という意味である。
 道の駅と同様、レストランもその名前が付いていた。
 そこで食べたのは、牛モツ煮込み定食。
 リサなど、大盛りをパクパク食べていた。
 これで暴走の心配は無いだろう。

 高橋:「こんなんでいいんスかね、俺達?ただドライブしてるだけっスけど……」
 愛原:「いいんじゃないの?リサを連れ歩くことが、何らかの役に立っているんだよ」
 高橋:「ラクな仕事ってあるんですね」
 愛原:「この場合、ある意味では命懸けだぞ?リサが暴走したら、俺達アウトだ」
 高橋:「まあ、それはそうですけど……」

 昼食を食べ終わった後は、土産物や産直物を見てみることにする。

 愛原:「スイカサイダーなんてあるよ」
 高橋:「マジっスか」
 愛原:「よし。食後のデザート代わりに頂くとしようかな」

 他にも山形花笠祭まつりの時、踊る際に使用する花笠も売っていた。
 当たり前だが、手作りの民芸品である。
 で、花笠まつりの掛け声。

 愛原:「『ヤッショーマカショー!!』?どこかで聞いたことあるな?」
 リサ:「めでた♪めーでたぁーの♪祭りの夜♪キミと2人きり♪ヤッショー、マカショー!……」
 愛原:「それだ!“海物語”!」
 高橋:「“アカキイロスミレイロ”っスね。……って!」
 愛原:「何でリサが知ってるんだよ!?」
 リサ:「この前、先生、寝言で歌ってた」
 愛原:「! “海物語”で確変が止まらない夢を見てしまったんだ。あの時か……」
 高橋:「だからって歌うもんなんですか!?」
 愛原:「テンション上げ上げだったんだ、あの時は……」
 高橋:「先生、後でどっかのパチ屋に寄りましょう」
 愛原:「そ、そうだな……」

 リサは改めて食後のデザートとして、スイカソフトクリームを買って食べた。

 リサ:「あー、美味しかった!」
 愛原:「そりゃあ良かった」
 高橋:「次はどこに行きますか?」
 愛原:「そうだな……。国道をずっと上れば、今度は道の駅むらやまに行けるという。今度はそこへ行こう」
 高橋:「分かりました」

 私は今度はナビに道の駅むらやままでのルートを入力した。

 高橋:「行きましょう」
 愛原:「よろしく」

 車は出発し、再び尾花沢新庄道路へと入った。
 ここでネックなのは、まだ高速道路は部分開通ということである。
 道の駅の近くまでは、まだ高速道路が開通していないということだ。
 再び尾花沢北インターから暫定二車線の道に入ったが、現在の終点は大石田村山インターである。
 ここで強制的に高速を降ろされ、県道189号線に合流させられる。
 そして、国道13号線の旧道である県道120号線と合流すると、国道13号線との交差点に差し掛かる。
 上り線は右折することになり、旧国道は直進である。
 道の駅は現国道沿いにある為、右折することになる。
 で、現在の国道を走ってみて思ったことがある。

 愛原:「……高速要らなくね?」
 高橋:「そうですねぇ……」

 秋田県ではお世辞にも線形がよろしくない国道13号線だが、山形県村山地方内は片側2車線の直線道路が続く良線形である。
 もちろん一般道路だから最高速度は60キロであるし、自動車専用道路ではないので信号機は所々にあるのだが、それにしても国道4号線より走りやすい道路である印象は持った。

 高橋:「さっき走ってきた『なんちゃって高速』が暫定二車線の制限速度70キロじゃないスか。こっちは片側二車線で60キロじゃ、こっちの方がいいような気がします」
 愛原:「なあ」

 走り屋にとって、制限速度60キロは近くを走るJR山形線の電車の速度と同じ……ゲフンゲフン。
 因みにバイパスの名前は山形北バイパスという。

[同日13:45.天候:晴 山形県村山市楯岡 道の駅むらやま]

 ほぼ直線道路を走行して来たが、山形新幹線の線路を跨ぐ橋を渡る時に若干カーブする。
 それでも速度規制が掛かるほどの急カーブというわけではない。
 この道の駅の特徴は、駐車場が上下線で分かれているということ。
 本館は下り線側にあるのだが、上り線側からも歩道橋を渡ってアクセス可能である。
 上り線側には駐車場とトイレと自販機しか無い。
 もちろん、まだ営業している本館へ向かってみることにする。
 この辺、冬は雪が多く積もるのだろう。
 歩道橋は完全にシェルターで覆われていた。
 シェルターの出入口には、折り戸2枚扉の自動ドアがあるのだが、開放状態になっている。
 だが、それでも夏は暑かった。
 雪対策の為のシェルターも、夏の暑さには弱いようである。
 その歩道橋を渡って、下り線側へ降りる。
 本館は尾花沢のそれより広いように見えた。
 そう思うのは、レストランが広く造られているからだろうか。

 リサ:「うう……。こっちの方も美味しそう……」

 リサは山形牛ステーキ重の写真を見て、涎を出した。

 愛原:「さすがにここでは食えないぞ」

 とはいうものの、山形牛に関しては私も少し興味があるな。
 尾花沢で食べた牛モツは、山形牛だったのだろうか。

 高橋:「先生。こっちにもスイカサイダーありましたよ」
 愛原:「なに、そうか」

 尾花沢からそんなに離れてないから、品揃えはそんなに変わらないのだろうか。
 取りあえず、ここでもスイカサイダーを買ってみる。
 きっと、こういう所でしか飲めないと思うからだ。

 高橋:「先生、次はどこに行きます?」
 愛原:「このまま南下しよう。……よし、今度は道の駅天童温泉だ。道の駅自体に入浴施設は無いみたいだが、足湯はあるらしいぞ」
 高橋:「タオルならありますね。名誉教授の御宅に泊まった時用の」
 愛原:「うん。温泉には後で入る予定だったんだが、足湯だけでも先に入る価値はあると思う」
 高橋:「そうですね。じゃあ、このまま南下しちゃいますか」

 私達はトイレを済ませると、再び歩道橋を渡って車に戻った。
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“私立探偵 愛原学” 「田舎道沿いにあった叡知なビデオ自販機小屋、もう無いよね?」

2021-08-15 16:09:15 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日11:30.天候:晴 宮城県加美郡加美町 ファミリーマート→国道347号線]

 コンビニで休憩した私達は再び車に乗り、国道347号線に入った。
 地方の国道あるあるで、けして高規格道路とは言えず、片側1車線の道を行くことになる。
 最初は加美町の中心街を進むので、そんなに寂しい雰囲気は無い。
 しかし、街を過ぎると田園風景が広がる所を進んだ。

 愛原:「これさ、昼間だから牧歌的でのんびりした雰囲気なんだろうけど、夜は真っ暗で不気味なんだろうな」
 高橋:「そこをHDDハイビームでかっ飛ばすから面白いんですよ」
 愛原:「……はいはい。走り屋のお前に、ホラー系の話題を持ち出そうとした俺が間違ってたよ」
 高橋:「さ、サーセン!」
 リサ:(←第一形態に戻ってリラックスしてる)
 愛原:「何か無いの?走り屋として、真夜中の道路走ってて、何かホラー体験をした話とか」
 高橋:「いやあ、俺はあんまり……。噂くらいなら聞きましたけどね」
 愛原:「例えばどんなの?」
 高橋:「交通標識に、黄色いひし形のヤツがあるじゃないスか」
 愛原:「あれだろ?『通学路』とか『踏切注意』とか『この先交差点』とかのヤツだろ?」
 高橋:「そうです。で、そん中にビックリマークの標識があるの知ってます?」

 

 愛原:「知ってるさ。あれは『その他の注意』だ。他の警戒標識じゃ表現できない内容をドライバーに伝える為だな」
 高橋:「さすが先生です。でもそれだと、ビックリマークだけじゃ分かんないスよね」
 愛原:「そうだな。だから普通、上記の画像みたいに補助標識を付けて具体的に説明するもんだ。『この先、冠水注意』とか、『路肩弱し』とかもあるよな」
 高橋:「はい。ところが、中にはそんな補助標識の無いビックリーマークもあるんですよ」
 愛原:「おいおい。それだと、何に気を付けたらいいのか分からんだろ」
 高橋:「噂ではその場合、『幽霊注意』とか、『この先、怪奇現象多発地域』とかいう意味らしいですよ」
 愛原:「ええっ?」
 高橋:「峠道とかに、たまにあるんですよ」
 愛原:「昔、『首無しライダー』とか、『ひき逃げされた女の幽霊』とか有名になったけど、そういうのが出るってか」
 高橋:「だけど、標識立てる側からすりゃ、『幽霊注意』なんて書けないじゃないスか。だけど、何故か幽霊を見たって目撃情報が絶えないどころか、それ絡みの事故が多い。しょうがないので、せめて注意を促す為だけでもやっておこうということで、ビックリマークの標識だけ立ててるらしいです」
 愛原:「へえ、そうなのか」
 リサ:「それって今、通り過ぎた標識?」

 いつの間にか起きたリサが運転席と助手席の間から顔を出して言った。

 愛原:「えっ!?今のあった!?」
 高橋:「ちょっと木に隠れた標識があったような気はしましたが……」
 リサ:「『BOWに注意』」
 愛原:「そりゃオマエのことだ!」

 正にそのBOWを輸送中なんだがな。

[同日12:35.天候:晴 山形県尾花沢市 道の駅尾花沢ねまる]

 それから1時間以上走った。
 私の掴んでいた情報通り、県境の峠道にはバイパスと新しいトンネルができていた。
 尚、旧道は走れるみたいで、高橋も食指を動かされたようだが、さすがに新道を走るように指示した。
 普通、峠道に新道ができると、旧道は廃道化されることが多いが、鍋越峠は違うようだ。
 地図を見ると、峠道の途中に牧場に通じる道があり、その牧場へのアクセスルートとして機能しているのだろう。
 そして山形県尾花沢市に入るが、取りあえず目的地としての道の駅は市の郊外にあり、町中には無い。
 国道を西進すると、国道13号と、将来の東北中央道となる“尾花沢新庄道路”の尾花沢インターにぶつかる。
 そこから、“尾花沢新庄道路”に乗った。
 この辺りは無料区間であり、今は国道13号線のバイパス的な位置づけである。
 また、車線数も暫定二車線であり、制限速度も70キロとなっており、高速道路としてのスペックは低い方であろう。

 愛原:「あった。見えて来た」

 2区間ほど走ると、尾花沢北インターに到着する。
 そこには道の駅尾花沢の看板も設置されていた。
 道の駅は高速道路と国道との間に設置されており、どちら側からでもアクセスできるようになっている。

 リサ:「やっと御飯食べれる……」

 道の駅に入って駐車場に車を止める。

 リサ:「おお~、スイカの匂いがする~」

 リサはマスク越しでも、フンフンと鼻を鳴らした。
 山形はスイカの産地でもあり、産直市場が大抵併設されている道の駅でも、地元農家が作った野菜(沿岸部にあれば水産物も)が売られていることか多い。

 愛原:「おお!大玉だな!」

 建物の外では、スイカの直販が行われていた。
 大きいものはバスケットボールよりも大きい。
 あれでスイカ割りをしたら楽しそうだが、実に勿体ない。

 リサ:「スイカ……」
 愛原:「さすがにあの大玉は無理だが、カットされたものなら中で売ってるかもな」
 高橋:「ちょうど今が食べ頃なんですね、スイカは」
 リサ:「先生。リサは今が食べ頃だよ?」

 リサは自分のスカートを捲り上げる仕草をしながら色目使いで言った。

 愛原:「知ってるか?松茸も実は毒キノコなんだぜ?」
 高橋:「さすが先生。博識ですね」
 リサ:「ワケわかんないよーっ!」

 但し、その毒性は弱く、一気に10本くらい食べないと、毒の効果が現れないらしい。
 松茸を一気に10本も食べる機会、一生に一度でもあるかね?

 愛原:「俺も腹減った。取りあえず、先に飯食おうや」
 高橋:「そうっスね」

 私達は多くの来訪客で賑わう道の駅の中に入って行った。
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“私立探偵 愛原学” 「鉄旅から車旅」

2021-08-15 11:35:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日09:35.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅]

〔「まもなく終点、仙台、仙台です。1番線に入ります。お出口は、右側です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度をしてお待ちください。仙台からの乗り換え列車をご案内致します。東北新幹線上り……」〕

 6両編成の電車は南下する度に乗客を増やして行き、仙台に着く頃には座席は全て埋まり、吊り革に掴まる客も出ていた。
 旅情は無いものの、やはり大都市近郊においてはロングシート車の方が効率は良いのだろうと思う。
 もっとも、名古屋鉄道のような競合鉄道会社がいる場合、この限りではない。

 愛原:「鉄道の旅は一旦ここで休止。あとは車の旅、略してドライブだ」
 高橋:「はい。鉄道の旅ってほどのものでしたかね?」
 愛原:「701系は無かったことにしよう。今回は新幹線の方を向いてくれ」
 高橋:「う、うス」

 電車は東北本線下り本線ホームに入線した。
 下り本線なので、上り列車はこの先には行けない。
 折り返し、下り列車になるので、上りホームに入るだけだ。

〔せんだい~、仙台~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 ドアが開くと乗客達が一斉に降り出した。
 私達も後に続く。
 ホームには折り返し電車を待っていた乗客達がドアの横に立っていた。
 改札口に行く前に、ホームにあるトイレに行っておく。
 仙台駅の1番線だけ対向式ホームなので、線路との反対側は壁になっている。
 トイレがあるのはそこ。
 それから改札口に向かう。
 運賃は往路と同じ770円也。

 愛原:「それじゃ、次はレンタカーだな」

 私達は駅レンタカーの事務所へと向かった。

 高橋:「じゃあ、どんな感じで行きますか?」

 予約していたので、すんなりと手続きを済ませることができた。
 車はホンダのフィット。
 ハイブリッドではない(カイドウさん、ありがとうございます。いおなずんさん、ごめんなさい)。

 愛原:「山形の村山地方だと言っていたから、そこをぐるっと回ることになるだろうな。よし、まずは北部の尾花沢辺りから攻めてみよう」
 高橋:「聞いたことの無い町ですね」
 愛原:「鉄道が通ってないからな。因みに山形新幹線終点の新庄駅がある辺りは最上地方なので、対象外となる」
 高橋:「じゃあ、高速行きますね。……高速代、出るんスか?」
 愛原:「善場主任からの依頼なんだから出るだろう。このレンタカー代もだ」
 高橋:「そりゃいいっスね」

 助手席に座る私は、ナビにルートをセットした。

〔ルート案内を開始します。実際の交通規則に従って、運転してください〕

 愛原:「これでいいだろう。休憩はこまめに頼むぞ」
 高橋:「分かりました」

 高橋は車を走らせた。

[同日11:15.天候:晴 宮城県加美郡加美町神山西 ファミリーマート]

 駅レンタカーの事務所は仙台駅東口にあり、その駐車場も東口にある。
 そこを出て跨線橋を渡って西へ向かい、車は国道48号線のバイパス自動車専用道路“仙台西道路”へと入った。
 仙台市にはいわゆる都市高速道路は存在しないが、強いて言えばこの仙台西道路がそれに当たるとされている。
 特徴なのは2つの長いトンネル。
 特に西側にある青葉山トンネルは長い。
 因みに東側の川内(かわうち)トンネルは、入口横にラーメン二郎があることで有名だ。
 それを知らなかったリサが目ざとく見つけて涎を垂らしていたのを、あえて私は無視した。
 確かにリサなら、メンカタカラメヤサイアブラニンニクマシマシを余裕で食べ切ることだろう。

 高橋:「この長いトンネル。あの、霧生市から脱出する時のことを思い出しますね」
 リサ:「!」
 愛原:「そうだな……」

 霧生市は四方八方を山に囲まれた町。
 その町にアクセスする県道はバイパスがあって、それはこの道路のように長いトンネルを通るものであった。
 日本アンブレラの秘密研究所(研究内容は秘密であったが、存在そのものは秘密ではなかったようだ)へのアクセスルートにもなっていた。

 リサ:「先生、あの恩……忘れないよ……」
 高橋:「おう!忘れんじゃねーぞ!先生への報恩はただ一つ!先生への絶対的な忠誠だ!分かったか!?」
 愛原:「何でオマエが偉そうなんだよ……」

 そんな会話をしながら、トンネルを出るとすぐに東北自動車道の仙台宮城インターに差し掛かり、そこから高速道路に入る。
 名前が仙台宮城なのは、元々この辺りは宮城郡宮城町という自治体があって、それが仙台市に吸収合併されたからという経緯があるからだ。
 東北自動車道は下り線に入り……。

 高橋:「……って先生?山形道は上り線を行った所にあるはずですが?」
 愛原:「誰が山形道で行くと言った?宮城県と山形県尾花沢市を結ぶ国道があるだろうが」
 高橋:「そっちっスか!」
 愛原:「いくら高速代がデイライトさん持ちだからと言って、遠慮なくガバガバ使ったら失礼だろうが」
 高橋:「は、はあ……」
 愛原:「コンパクトカーにしたのだって、その為だ。機材が多かったら、ライトバンかミニバンにする所だが、今回はそうじゃないのでコンパクトカーだ」
 高橋:「まあ、軽よりはマシです」
 愛原:「俺が運転するのなら軽でも良かったんだが、運転するのはオマエだからな」
 高橋:「気ィ使ってくれたんスね。あざーっす!」

 東北自動車道は大衡(おおひら)インターで降り、あとは県道やら国道やらを進むことになる。
 仙台駅を出発して凡そ1時間ほどした頃、国道と県道との交差点の角にあるコンビニに立ち寄って休憩することにした。
 大型駐車場もあるコンビニで、そこでは1台の長距離トラックが駐車していた。

 愛原:「そこで休憩しよう」
 高橋:「はい」

 建物の前の普通車用の駐車場に車を止める。

 愛原:「よし。じゃあちょっとここで休憩だ」
 リサ:「はーい」
 高橋:「確かに『尾花沢』って書いてありましたね」
 愛原:「だろ」

 県道と国道の交差点は丁字路になっている。
 私達が走って来た県道から見れば、右折が宮城県大崎市方面、左折が最初の目的地の尾花沢市となる。
 手前に青い看板があるのだが、ちゃんと尾花沢と書かれていた。
 で、このコンビニの駐車場、加美町内の観光ガイドマップの看板が立てられている。
 少し古い看板だ。

 愛原:「あの国道347号線を西にずっと進むことになる」
 高橋:「鍋越峠?何か、腕が鳴りそうな峠が控えてるってことですね!」
 愛原:「いや、今はバイパスと新しいトンネルが出来ているらしいぞ。峠道しか無かった頃は冬季通行止めだったが、トンネルができたことで通年通行可能となった」
 高橋:「マジっスか……」

 但し、冬季の夜間は通行止めとのこと。
 これは夜間に雪崩が発生した際、恐らく救助困難だからだろう(というか、夜間除雪の費用が捻出できないだけかも)。

 愛原:「まあ、そんな顔するなよ。スムーズに走れるって、いいことじゃん」
 高橋:「まあ、そうですね……」

 先に店内に入ったリサを追って、私も店内へ。
 一方、高橋は店の横にある喫煙所に立ち寄っていた。
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“私立探偵 愛原学” 「東北本線2530M列車」

2021-08-13 19:58:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日08:37.天候:晴 宮城県遠田郡美里町 JR小牛田駅→東北本線2530M列車1号車内]

 公一伯父さんの家をあとにした私達はタクシーに乗り、それで小牛田駅に向かった。
 往路と同じように、手持ちのICカードで自動改札機を通る。
 東北本線下り本線ホームで列車を待っていると、往路と同じ編成・両数の電車がやってきた。
 それもそのはず。
 私がこれから乗る電車は仙台駅到着後、折り返し、私達が往路に乗った電車になるからだ。
 なので編成と両数は701系の6両編成。
 確かに平日の朝ラッシュとしては、適正な運用と言える(ガチのラッシュなら、もう2両欲しいところか)。
 だが休日のそれとしては、ちょっと物足りなさを感じる運用なのだった。
 ただ、もしかすると、オリンピック関連で運用が変わっている恐れがある。
 昨日も今日も、本来なら平日である。
 それをオリンピック絡みで無理やり祝日にしたものだから、車両運用だけは平日のままなのかもしれない(東北本線の仙台支社管内では、平日ダイヤ・休日ダイヤの区別が無い)。

 愛原:「よっと」

 平日ならもう少し乗客が多いと思える駅も、今日は少なかった。
 うん、平日ならもっと多い……はずだ。
 先頭車両に乗り込み、ドア横のロングシートに3人並んで座る。

〔「ご案内致します。この電車は8時49分発、東北本線上り、普通列車の仙台行きです。終点、仙台まで各駅に止まります。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 高橋:「ところで先生、レンタカーはもう予約したんですか?」
 愛原:「ああ。駅レンタカーを予約した。まあ、いつも通りのコンパクトカーだが、運転よろしく頼むな」
 高橋:「任せてください。普通免許で運転できる車なら、何でも回しますよ」
 愛原:「それは頼もしい」
 リサ:「お兄ちゃん、免停期間過ぎたの?」
 高橋:「とっくに過ぎとるわ~!」
 愛原:「さすがにそれは困る」

[同日08:49.天候:晴 JR東北本線2530M列車1号車内]

〔「お待たせ致しました。8時49分発、東北本線上り、普通列車の仙台行き、まもなく発車致します」〕

 2両編成ならワンマン運転に使用される車両だが、6両ともなれば車掌が乗務している。
 で、ツーマン運転の時は自動放送は使用しない。
 小牛田駅では発車ベルもメロディも無い為、1番後ろにいる車両の笛の音が聞こえて来るだけだ。
 ドアチャイムが2回鳴ってからドアが閉まる。
 こういう地方の駅ではホームドアなど無い為、ドアが閉まったらすぐに電車は発車する(JR東日本の電車列車では発車合図ブザーは無い)。
 半室構造の開放的な造りの運転室からは、ハンドルをガチャガチャ操作する音が聞こえる。
 電車は定刻通りに発車した。
 尚、この時点で座席は半分ほどが埋まっていた。
 これが平日なら、もう満席となっているのだろう。
 先頭車に乗っているのは、何度も先述している通り、BSAAとの取り決めによるものである。
 リサが監視対象となっているのは、言わずもがな。
 しかし、欧米ではリサと同じような者がいるらしい。
 アメリカのシェリー・バーキン氏ではなく、エブリンの力を引き継いだ者だとか……?

〔「おはようございます。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。8時49分発、東北本線上り、普通列車の仙台行きです。これから先、松山町、鹿島台、品井沼、愛宕の順に、終点仙台まで各駅に止まります。【中略】終点、仙台には9時35分の到着です。【中略】次は松山町、松山町です」〕

 高橋:「姉ちゃんの言うルートってどんな感じなんでしょうね?」
 愛原:「特に決まったルートは無いな。恐らく、適当に山形県内を走ればいいんだろう」
 高橋:「山形県に白井が?」
 愛原:「いや、ほんと今回は詳しい話を聞いてないんだ。聞いても教えてくれないし。でも、県と地域だけは指定してくるということは、そうなんだろうなぁ」
 高橋:「遭遇したらブッ殺していいんですか?」
 愛原:「俺達、探偵は通報するまでが仕事だよ。それ以上のことは、警察関係者から協力を求められた時のみすればいい。そこは警備業者と変わらんね」

 だから、アニメやドラマみたいに、警察を出し抜いて事件を解決するなど、本来は有り得ないのである。
 たまたま私が推理を利かせて、先に真犯人を突き止めたのだって、濡れ衣を着せられた高橋を助けてやる為だった。
 そういう事情でも無い限りは、な。
 だからアニメやドラマの中の探偵達も、わざとそういう状況に追い込まれた設定になっているのだろう(殺人事件に巻き込まれた、など)。

 高橋:「分かりました」
 愛原:「大まかなルートについては、主任から聞いてる。取りあえずは、そこを適当に走るだけでいいらしい。もちろん、途中休憩したり、観光したりするのはOKだそうだ」
 高橋:「まるで諜報活動ですね」
 愛原:「それが目的かもしれんな」

 しかし、厳密にはそれも違うだろう。
 諜報活動だって、何を諜報するのかの目的が大事だ。
 それを知らないのでは意味が無い。
 私は囮捜査なのではないかと思った。
 リサを連れ歩くことで、リサを狙うヴェルトロとか、何かそういう組織が襲って来る。
 それを一網打尽にする為、常に私達をどこかで監視していて……と、そんな気がするのだ。

 愛原:「ま、とにかく俺達は言われた通りにすればいい」
 高橋:「分かりました」
 リサ:「先生、サイトーへの連絡もダメ?」
 愛原:「ダメとは言われてないからいいんじゃないか」
 リサ:「良かった。サイトー、朝から大量のLINE」
 高橋:「ヒマなビアンガキだな」
 リサ:「夏休みの学生あるある」
 愛原:「夏休み明け、テストとかあるんだろ?あんまり遊び過ぎないように」
 リサ:「もちろん」

 電車は田園地帯の中、朝日を浴びて走行する。
 今は天気は良くても、山沿いの方とかはゲリラ豪雨注意とのことだ。
 ゲリラ豪雨、なるべくなら遭遇したくはないな。
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“愛原リサの日常” 「解けなかった謎」

2021-08-13 14:56:29 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日07:00.天候:晴 宮城県遠田郡美里町 愛原公一の家]

 今度はエロい夢を見ることはなく、7時にセットしたアラームで目を覚ましたリサ。
 南向きの窓からは、夏の日差しが既に差し込んでいる。

 リサ:「ううーん……」

 大きく伸びをし、布団から這い出る。
 白いTシャツに黒い短パンを穿いていた。
 だいたいこれがリサの夏の寝巻。
 起きて洗面所に行くと、既に愛原と高橋が髭を剃ったり、歯を磨いたりしていた。
 先にリサはトイレに行く。
 夜中に入った個室に入ったが、今度は壁の中から機械の音がすることはなかった。
 戻りがてら、仏間の中を覗いて見る。
 既に仏壇にはお供え物がされており、中には誰もいなかった。
 そして、仏壇の下の地袋には南京錠がされていた。
 観音開きの地袋なので、南京錠は2つの取っ手を跨ぐようにして取り付けられている。

 愛原:「こら、リサ。悪戯はダメだぞ」
 リサ:「悪戯じゃないよ」

 リサは心外とばかりに頬を膨らませた。

 愛原:「洗面所が空いたから、行ってこい」
 リサ:「はいはい」

 リサは手持ちのタオルと、携帯用の歯磨きセットを持って洗面所に向かった。

〔「おはようございます。朝のNHKニュースです」〕

 洗面所に行ってからリサはまた自分の寝ていた部屋に戻り、着替えを始めた。
 昨日着ていた服とは別の服を着る。
 夏なので上はTシャツだが、下は赤いプリーツのミニスカートにした。
 尚、TシャツにはBSAAのロゴマークがプリントされている。
 研究所時代には、こういう私服を着ることは許されなかった。
 着替えが終わってから茶の間に行くと、テレビが点いていた。

〔「昨日午後、NHkの契約請負人は埼玉県川口市内の雲羽百三氏の家を訪れ、視聴契約を求めましたが、雲羽氏はこれを拒否。議論の場は法廷へ持ち越されることとなりました。これについて雲羽氏は、『私は折伏をしただけだ。契約しないとは言っていない。これは単なる言い掛かりであり、NHKには大聖人様の鉄槌が下されることになるだろう』と、意味不明な発言をしているということです。これについて、厳虎独白の名無し氏は『パチンカス、中二病全開のバカ基地外サイコパスが何を言っても無駄だ』とコメントしており、NHKの契約に関するトラブルはまだまだ続きそうです」〕

 公一:「待たせたの。ほれ、朝食じゃ。アジの開きでいいかの?」
 愛原:「ちょっと焦げ臭い臭いがすると思ったら、魚焼いてたんだ」
 高橋:「素晴らしい焼き加減ですね」
 愛原:「ほら、リサ。オマエ、一番大きいの食え」
 リサ:「ありがとう。いただきます」

 朝食は典型的な和食であった。

 高橋:「名誉教授が全部作ってらっしゃるんスか?」
 公一:「そうじゃよ。気ままな1人暮らしぢゃ」
 愛原:「それでも寂しい時はある。こうして俺達が時々遊びに行ってあげることが大事なんだ」
 公一:「悔しいがそれはその通り。ジョンの散歩だけでは、なかなか暇が潰せんでの」
 愛原:「大学は?」
 公一:「引退した今となっては、時折遊びに行くだけじゃの」
 愛原:「そうなんだ」
 公一:「ああ、そうそう。最近、日本の製薬会社がワシの相手をしてくれるようになったぞ」
 愛原:「え?」
 公一:「ワシの発明品をコロナのワクチンに転用できんかということで、サンプルが欲しいと来た」
 愛原:「それって、例の科学肥料?枯れた苗を元に戻す薬だったっけ?」
 公一:「そう、それ」

 リサを人間に戻す薬にもなるような話があったが、どこまで研究が進んでいるのやら。

 愛原:「どこの製薬会社?」
 公一:「ダイニチじゃよ。大日本製薬」
 リサ:「サイトーんとこだ!」
 愛原:「ここで繋がってたんかーい!」
 高橋:「枯れた苗を元に戻す薬で、コロナ退治ができるんスか?」
 公一:「ワシにも想像がつかん。あくまでワシは農学を勉強していただけで、肥料や農薬もその一環で発明してみただけで、細菌学とか、更にそっちの薬学についてはとんと専門外なもんでのう……」
 愛原:「“グスコーブドリの伝記”にも、主人公が新しい肥料や農薬を開発して、村人を驚かせるシーンがあったね」
 公一:「ブドリが作った薬を、ウィルスのワクチン開発の素にしようとは、正に『事実は小説より奇なり』じゃの」
 高橋:「どうやって作るんスかね?」
 愛原:「説明されたところで、きっと俺達、難しくて理解できないと思うぞ?」
 公一:「うむ。ワシも途中で寝ると思う」
 愛原:「元大学教授が言っていいセリフじゃないよね?」
 リサ:「あの……」

 リサはここで切り出してみた。
 昨夜、トイレの個室の壁の向こうから機械の音がしたことについてだ。

 リサ:「壁の向こう側って、仏間ですよね?そこに機械なんてあるんですか?」
 公一:「勘のいいガキは嫌いじゃよ」

 そう言って公一は、いきなりリサに拳銃を……出すことはなかった。

 公一:「……と、これが映画だったら有り得る展開じゃが、あいにくとこの雲羽作品ではそんなベタ過ぎる展開はせん。あれはただの空調機械の音じゃよ」
 リサ:「空調機械?」
 公一:「うむ。この建物が、元は公民館じゃったことは知っておるじゃろう?その名残で、空調も集中式なのじゃよ。で、その大元となる空調機械が設置されておるのじゃが、それがあのトイレの壁の中なんじゃ。学校やビルなんかでも、機械室はあるじゃろう?あれをコンパクトにしたものがあるんじゃな」
 リサ:「機械室。確かにあるけど……」

 しかし、空調機械が唸り声を上げるほどの空調が昨夜は入っていたのだろうか。
 愛原と高橋、そしてリサは空調を切っていた。
 昨夜の気温は23度くらいで涼しかったので、扇風機だけで事足りたからだ。
 今でもそうだ。
 茶の間も窓を開けて、扇風機を回しているが、それでもクソ暑いとは思わない。
 もう少し時間が経てば、仙台市内の予想最高気温は30度なので、その北部にある美里町もそれなりに暑くなるだろうが。

 愛原:「そんなに気になったか?」
 リサ:「うん、まあ……」
 公一:「枕が変わると神経が高ぶって寝付きが悪くなることは、よくあることじゃ。そんな時、いつもは些事であっても、一度気になってしまうと、とことん気になってしまうというのは何も珍しいことではない。これがホラー映画なら、そのような者に後で恐怖体験が振り掛かるという展開が待っているのじゃろうし、サスペンス映画なら、気を紛らす為に出歩いたところ、偶然にも何らかの事件を目撃してしまい、後でその関係者に狙われるという展開が待っているのじゃろう。悪い事言わんから、今後は気にせんことじゃ」
 リサ:「はあ……」

 リサはこれ以上、何も言えなかった。
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