たにしのアブク 風綴り

86歳・たにしの爺。独り徘徊と追慕の日々は永い。

高木徹著「国際メディア情報戦」を読んで

2014-08-31 21:44:35 | 本・読書

今日で猛暑と豪雨の8月も終わりです。
今年は猛暑日の更新が話題になる中、台風が連続来襲したり、
西日本を中心に「これまで経験したことのない」ような豪雨にも見舞われ、
広島市などでは大勢の方が亡くなるなど甚大な被害をもたらしました。

この夏、読んだ本に高木徹著『国際メディア情報戦 (講談社現代新書)』があります。
著者は長らくNHKの国際報道番組ディクターとして、
「NHKスペシャル」などを手がけた国際ジャーナリストです。

現在、ウクライナの「親ロシア派」への、ロシア正規軍の介入が明らかになり、
欧州連合(EU)とアメリカは、ロシアのプーチン首相を強く非難し、
新たな追加制裁を検討しています。
それに対しプーチン首相はそのような事実はないと突っぱねています。
31日付の毎日新聞朝刊には、
「NATO特殊部隊編成へ」――ロシアの新戦術に対抗、という記事が載っていました。
これは、ロシアがウクライナ・クリミア半島を編入した際、特殊部隊の投入と同時に、
宣伝戦を展開して一方的に独立させた新たな戦術に対抗するためで、
NATOは特殊部隊の編成などを盛り込んだ対抗策の制定を、
検討することで合意したというものです。

現代の国際紛争は長距離ロケット砲のピンポイント爆撃、
無人機による空爆など重火器攻撃とともに、
サイバー攻撃など情報戦が行われています。
「国際情報戦争」――。国際世論を、いかに自国に有利(正義であるか)を演出するものです。


「国際メディア情報戦」は高木氏が世界の要人らを取材した経験から、
世界で日々繰り広げられている情報戦の現実と、
映像力の重要性を取材現場の目で綴ったものです。
また国際情報戦は「プロパガンダの世界」で学術的証明を競うものではなく、
世界に信じさせるプロのテクニックが勝利に導くものだという。
氏は3つのキーワードから論を進めます。
その手法はアメリカのPR会社のジム・ハーフが編み出した、
「サウンドバイト」「バズワード」「サダマイズ」です。
敵対者の弱みを極大化し、あるいは情報の受け手を瞬時に納得させる言葉、
他とへばボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、
セルビアのミロシェビッチ大統領を世界の悪党に仕上げた「民族浄化」はその傑作だという。

本書の構成は以下のようです。
序 章:「イメージ」が現実を凌駕する
第1章:情報戦のテクニック―ジム・ハーフとボスニア戦争
第2章:地上で最も熾烈な情報戦―アメリカ大統領選挙
第3章:21世紀最大のメディアスター―ビンラデリィン
第4章:アメリカの逆襲―対テロ戦争
第5章:さまようビンラディンの亡霊―次世代アルカイダ
第6章:日本が持っている「資産」
終章:倫理をめぐる戦場で生き残るために

とにかく面白いです。国際ニュースの見方が変わってきます。
高木徹氏には「国際メディア情報戦」の前に書かれた、
『ドキュメント戦争広告代理店――情報操作とボスニア紛争』
(講談社, 2002年/講談社文庫, 2005年)があります
文庫版は手元に買ってあります。引き続き読もうと思っています。

この春から「積極的平和主義」を掲げて、
世界中を駆け回り「日本の立場」を説明して歩いている安倍晋三首相。
日本海と東シナ海で向き合う最も近い国の「プロパガンダ」に、
対抗できる成果は上がっているのでしょうか。