春の道野辺の足元を彩る紫色の花列ヒヤシンス。
美少年の化身した姿だという哀しくも妖しい神話があります。
古代ギリシャの神々と言えば、
全能の神ゼウスに次いで、太陽の神アポローン。
美しく輝く肉体容姿で象徴される美男神ですね。
美しい女性たちが取り巻いていました。
いくつかの恋をしたが、恋の終わりは、
不幸な結果に終わって、彼を嘆かせました。
神話の古代ギリシャ時代は、オリーブの香りと、
たくましい身体の象徴として、同性愛が普通でした。
アポローンも恋の遍歴の果て最後に、
美少年のヒュアキントスを得ました。
ある日二人は、裸になり、
オリーブ油を塗った肌を輝かせながら、
円盤投げの遊びに興じました。
アポローンが大きな円盤を腕を撓らせながら投げ上げた。
少年は落ちてきた円盤を拾うと駆け寄っていった。
円盤は弾んでヒュアキントスの顔面を直撃して額を割った。
アポローンは少年を抱き起こし、体を愛撫し、
傷口に薬草を塗り、去り行く魂を引きとめようとした‥‥
美少年はそのままアポローンの腕の中で息絶えました。
「青春の花を奪われて‥‥」アポローンは嘆き悲しみ、
お前の思い出が永遠に残るように、悲しみを訴えると、
地上の草を染めていたヒュアキントスの血が、
鮮やかに変わり紫色の花が咲き出た。
花びらにアイアイ(悲しい悲しい)という、
嘆きの文字が浮き出ていたという。
こうして美少年ヒュアキントスは花に化生したのでした。
この花こそが春の野辺を彩るヒヤシンスなのだろうか。
手元にある多田智満子著「花の神話学」2,330円 白水社 1991年刊から、
ストーリーの概略を抜書きさせていただきました。
同書では、もっと詳細に変身譚が述べられています。
世界に今でも残っているヒュアキントスを祀る祭りもあるという。