写真は高床式住居の1階に置かれていた酒餅(コウジ)。円盤状の手を広げたぐらいの大きさで中央部にえくぼのようなへこみがある。匂いはとくに感じない。クモノスカビがはっているためか、白い餅が黒くほこりで汚れたような不気味な形状をしている。
それにしても食物だというのに、編んだかごに山盛りに無造作に置かれている姿に驚く。製品上、問題ないらしい。宿の人に聞くと「すぐ使うから問題ない」とのことだった。
【パイチュウの造り方】
造り方は、まず粟を蒸して、白米主体のコウジの固まりを3割ほど割り入れて、甕に詰め、そのまま一ヶ月、放置。
(そこの農家のおじいさんは、酒餅をただ一言「餅」と表現していた。(※1)私の中国語もあやしいが、おじいさんも母語が傣語で中国語は勉強中とのこと。ボールペンをなめなめ、ノートに丁寧に漢字を書いたものをうれしそうに見せてくれた。筆談主体で話を聞いたのだが、単語が本当におじいさんの言いたいことを的確に表しているのか、そういうわけでやや頼りない)
※1酒曲、と書く地域もある。曲は音楽の曲ではなく、「麯」の略字。
これでは、腐ってしまうと心配することなかれ。甕の中では発酵が静かに進んでいるので問題ないのです。甕の中の模様を、醸造学の小泉武夫先生の文章から引用します。
「中では、麯の糖化酵素の作用によって主原料の穀物のデンプンが分解されてブドウ糖となり、そのブドウ糖に、窖の壁や煉瓦などに付着していたアルコール発酵を起こす酵母が作用しまして、アルコールが生成されるのであります。アルコールばかりではありません。香気成分も生成されます。」(『中国怪食紀行 我が輩は冒険する「舌」である』2003年、光文社文庫)
しかも、液体ではなく、穀物にカビが生えたのチーズのような状態、つまり固体の状態なのです。
そして、甕の説明をしてくれた、宿泊施設の農家のおじいさんは
「明日、おもしろいことをするよ」
と、ニコニコ顔で話すのでした。
翌朝、宿の庭に設置された大鍋に火をくべています。朝食作りかな、と思いながら周辺を散歩に行くと、各所で煙りが上がり、なんともいえない、ふわっとした焼酎のような香りが漂っています。
みると、庭先の炉の上に大きな鍋と木樽が設置されていて、そこから蒸気がさかんに吹き出ているのでした。
(つづく)