写真は「世界一美しい本屋」の一つとたたえられる、ポルトのレロ書店の入口。細かな彫刻の美しさが目を引く。
【普段着のフリマ】
ポルト2日目は日曜日。ホテル周辺の小道では小机に手作りのアクセサリーや家の不用品を売る市民によるフリーマーケットが開かれていました。
値付けが思い思いなので、安いものからびっくりするほど高いものまで様々です。彫金のアクセサリーが素敵だなあ、革のブローチもあるぞ、と、見ているだけでウキウキ。
売る人たちの服装はラフなのに、おしゃれな感じもいい。たとえば銀髪の髪を無造作にアップして束ねておだんごにまとめ、灰色のハイネックの長めのセーターにぴっちりとした青めのパンツを着ていたおばあ様。たとえば、茶色い着古された革ジャンのイキなお姉さん、と、自分に自信がある気分が波動のように伝わってきます。それがまた売り物の作品を輝かせているのです。それらの相乗効果で道もなんだか輝いて見えました。
というのも午後、この道を通ると雰囲気は一変。フリマは午前のうちに終了し、皆がものを広げていた机が消え、うら寂しい道になっていたのです。まるで魔法が解けたみたいに。(日曜で店舗がしまっているせいもあるのですが)
【“世界一”の書店】
さて午前10時ごろ、フリマの先を進むと、長蛇の行列にぶつかりました。のぞいてみると書店に入るための行列です。しかも書店なのに入場料を取るとのこと。
外から見える範囲でうかがうと、木製の曲がりくねった階段が中央にそびえ、周囲の壁そいには重々しい本が天井まで埋め尽くし、ほどよい暗さをたたえた、まるでハリーポッターに出てくるような雰囲気です。
そこで入場料を払って入ってみました。
中は案の定、人でいっぱい。みな、本を探すより、周りをキョロキョロ、写真をカシャカシャ。入場時に手渡されたパンフレットを読むと、
「1869年に創業し、1906年からこの場所で店を構える本屋」とあります。日本でいうと明治期の創業というわけです。世界で最も美しい本屋の一つに数えられているそうです。(イギリスのガーディアン紙2010年発表。)
ここはハリーポッターシリーズの作者J.K.ローリングがこの地で英語教師をしていた時に足しげく通った書店なのだとか。なるほど、と素直にうなずける素晴らしい内装です。
とにかく、ため息がでるほど美しい。ネオゴシック様式というのだそうですが、ステンドグラスの張られた天井と見事な木彫の壁や螺旋階段。これが本屋として作られたのです。なんという街なのでしょう。もっと静かなときにこの本屋にたたずめたら、どんなに幸せか。
じっさいには上野でパンダを見る時ほどの混雑ぶりで、世界一美しい書店は、世界一混んでいて、本のタイトルはほどほどだったのでした。
現在ではハリーポッターシリーズのインスピレーションの源泉だと話題になり、見学者が増えてしまったことから入場料を取っていますが、書店内で買い物した場合は代金に充当するバウチャーシステムとなっていることがわかったので、何か買わねば、と自然と目に気合が入りました。
ポルトガルの本屋なので、当然ながらポルトガル語の本が並んでいます。ポルトの対岸はイギリスなので英語の本もチラホラ。日本の本屋と同じように文房具などの小物もずいぶんありました。特集コーナーにはファドの名盤らしきレコードやファドの歴史の展示も。いま、思うと、そのレコードを買えばよかった、と後悔しきりですが、その時は人の多さに当てられたのと、これから続く旅行で傷むのではと考えて、買わずじまい。
買わねば損だと焦れば焦るほど、何もかも高く思えて私は手が出ず、最終的に家人が本を買う資金となったのでした。
(つづく)