石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BP統計に見るエネルギー資源の埋蔵量・生産量・消費量(その2:天然ガス篇)(その3)

2006-03-29 | その他
(その1)2004年の全世界、地域別および国別埋蔵量
(その2)2004年の地域別および国別の生産量と消費量

(その3)
2004年のパイプライン及びLNGによる輸出状況
  従来、天然ガスはカナダから米国へ、或いはロシアから西欧へと言うように大陸間の陸上パイプラインで輸出されていた。一部、アフリカ大陸北岸から西欧向けに地中海海底パイプラインで搬送されるものもあるが、いずれにしろパイプラインが唯一の輸出方法であった。しかし近年、天然ガスを液化して専用船で需要国まで運搬するLNG輸出が増加している。
 全世界の2004年の天然ガス輸出量は、パイプラインによるものが5,020億立方米、LNG輸出は1,780億立方米であった。同年の全生産量2兆6,920億立方米に占める割合は、パイプライン輸出19%、LNG輸出7%であり、両者を合計した輸出比率は26%となる。天然ガスは環境にやさしいエネルギーとして脚光を浴びており、また消費国が多様化し需要が拡大している。このため今後天然ガスの輸出比率は増大し、特に消費国の多様化は、大陸間を越えた需要としてLNG輸出の増大をもたらすものと考えられる。
 次の2表は2004年の主要なパイプライン輸出国とその輸出先及び主要LNG輸出国とその輸出先を示したものである。(単位:10億立方米、bcm、billion cubic meter)
主要なパイプライン輸出国
輸出国名  輸出量(bcm)     主な輸入国とその量(bcm)
ロシア     148       独(38)、伊(21)、トルコ(14)
カナダ     102       米国(102)
ノルウェー    75       独(26)、仏(15)
オランダ         49              独(22)、仏(9)、伊(9)
アルジェリア    35              伊(24)、スペイン(8)
(全世界)      502  

主要なLNG輸出国
輸出国名             輸出量(bcm)   主な輸入国とその量(bcm)
インドネシア               33              日(21)、韓国(7)、台湾(5)
マレーシア                 28              日(17)、韓国(6)
アルジェリア               26              仏(7)、スペイン(7)、トルコ(3)
カタール                    24              日(9)、韓国(8)、スペイン(4)
トリニダード・トバゴ      14              米国(13)
(全世界)                 178  

 アルジェリアはパイプライン輸出とLNG輸出の両方を行っている。これに対し、ロシア、カナダ、ノルウェー、オランダはパイプライン輸出国であり、一方、インドネシア、マレーシア、カタール、トリニダード・トバゴはLNG輸出国である。これは輸出相手国が陸続きか否かの違いによるものである。
 またこれを輸入国から見た場合、天然ガスを主にパイプラインで輸入しているのは米、独、仏、伊などの西欧先進工業国である。特に米国はカナダから、またドイツはロシア、ノルウェー、オランダから大量の天然ガスを輸入している。これに対し日本及び韓国は、東南アジアのインドネシア、マレーシアと中東のカタールから大量のLNGを輸入している。 現在中央アジアではパイプラインが盛んに建設されており、またLNGについても世界各国で出荷施設、専用運搬船及び受入施設の建設が活発に行われている。天然ガスは石油とは異なり生産地と消費地が直結し、しかも長期間かつ安定的な販売契約が取り交わされるため、パイプライン及びLNG施設の建設により天然ガスの輸出が今後ますます増加することは間違いないであろう。

1980~2004年の埋蔵量と生産量とR/Pの推移
 次に1980年から2004年までの埋蔵量と生産量及びR/P(可採年数:当年末の埋蔵量を同年の生産量で割った数値、即ち現在の生産をあと何年続けられるかと言う数値)の推移を見てみる。
 冒頭の図では埋蔵量(兆立方米、tcm)及びR/P(年)は左目盛りを、また生産量(兆立方米、tcm)は右目盛りで示されている。1980年に84tcmであった埋蔵量はほぼ一貫して増加し、2004年には2倍以上の180tcmに増加している。その間に生産量も1.5tcmから2.7tcmに増加している。盛んな需要増加に対応するため探鉱・開発活動が活発に行われたことがうかがわれる。しかし埋蔵量と生産量の増加のペースが同じであったため、可採年数(R/P)はほぼ一定して60~70年である。
 因みに2004年のR/Pは66.7年であり、石油の40.5年(「石油篇」参照)に比べて約50%長い。また天然ガスは現在も世界各地で新しいガス田が発見されている。このため石油については資源の枯渇を懸念するいわゆる「ピークオイル論」が盛んに論じられているのに対し、天然ガスについては今のところそのような問題提起は見られない。
 しかし世界的なエネルギー消費の増加、さらにはエネルギーの中で比較的クリーンとされる天然ガスに対する潜在的な需要は根強い。ロシアからドイツへのパイプライン増強計画に加えて、ロシアから極東、イランからインドへのパイプライン建設計画も進められている。また世界的にLNGの輸出は拡大しており、LNGの出荷及び受入設備の新増設、LNG船の新造計画も盛んであるため、LNG輸出の比率はアップするものと思われる。更に天然ガスを通常の液体燃料に転化するGTL(Gas To Liquid)プロジェクトも進められており天然ガスの生産と消費がますます増加することは間違いない。
 これまで天然ガスは輸送手段であるパイプラインとLNG施設に大規模な投資が必要であったため生産国と消費国が限定され、両者は比較的穏やかな関係にあった。しかし中国、インドなどが世界の天然ガス市場のプレーヤーとして台頭してきており、今後は石油と同様の熾烈な資源獲得競争が展開される気配である。

(天然ガス篇 完)
コメント
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