(前回までの内容)
第4回(最終回):OPECの産消対話のパートナーはEU
OPECとEUの第1回対話は昨年6月にブリュッセルのEU本部で行われた。そして同年12月にはウィーンのOPEC本部で第2回、今年6月再びブリュッセルで第3回が開かれた。3回目の対話では後述するように具体的な共同作業計画が合意され、両者の対話は軌道に乗りつつあるようである。
産油国と消費国の対話、いわゆる産消対話としては「国際エネルギー・フォーラム」(International Energy Forum, 以下IEF)が長い歴史を有している。IEFは湾岸戦争を契機として1991年に第1回会議が仏で行われ、以後隔年に開催、2002年には大阪で第8回IEFが開かている。そして今年4月にはカタールのドーハで第10回会議が開催され59カ国のエネルギー担当の閣僚級および6国際機関の代表が参加した。因みに日本からは二階経済産業大臣及び遠山外務大臣政務官が出席している。
IEFはこのように大規模な国際会議に発展したが、それに反して具体的な成果は殆ど生まれていない。2004年のIEF開催時には原油価格が45ドル/バレルに高騰し、また第10回会議が行われた今年4月には市場で75ドル/バレルの史上最高値となったにもかかわらず、産油国と消費国の両者が協力して油価の沈静化を図る動きは見られなかった。会議では消費国側が産油国の余剰生産能力の不足を非難し、一方産油国側は、石油価格高騰の原因は消費国特に米国の精製能力の不足と欧米の投機資金の動きにあると非難し、両者は不毛な議論を繰り返したのである。会議閉幕後に発表された「結語」では「高油価が世界経済、特に発展途上国に与える影響の可能性について懸念を表明した」との一文が盛り込まれたにとどまった。そして「対話と協力を強化する必要性を打ち出した」と言う表現こそ会議が何の成果も無く小田原評定であったことを如実に示している。
利害関係が複雑に錯綜する多数の国家と国際機関が一同に会する国際会議は、最近のWTOに見られるように暗礁に乗り上げる例が多く、現在のIEFもその悪弊に陥っているようである。IEFにはサウジアラビアのナイミ石油相が出席していたが、彼も会議には情報交換以外殆ど期待していなかったと思われる。
しかしロシアに次ぐ世界第二位の産油国であり、大きな輸出余力を有すると見られるサウジアラビアに対して、世界の石油消費国は熱い視線を送ると同時に同国の増産ペースの鈍さに怨嗟の声すら漏らしている。その非難をかわすためにも、サウジアラビアは単なる対話にとどまらない、消費国との具体的な協力行動に動き出す必要性を痛感している。それが一年前から始まったOPEC-EU対話である。
第1回、第2回の二度にわたる協議でOPECとEUは石油を取り巻く環境を分析して認識を共有するとともに、取り組むべき共通の課題について議論を深めてきた。会議終了の都度発表される共同記者発表が議論の深化の様子をはっきりと示している。そして第3回の会議では両者が今後共同で取り組む具体的な5つの行動計画が合意された。それらは、(1)EU-OPEC テクノロジー・センターの設立(2007年初めに専門家の準備会合を開催)、(2)炭化水素資源の獲得と備蓄に関する会議(9月21日にリヤドで開催)、(3)エネルギー政策に関する円卓会議(11月24日にブリュッセルで開催)、(4)石油精製部門の投資の必要性に関する共同研究を数ヶ月以内に立ち上げること、及び(5)投機資金が石油価格に与える影響に関して本年12月第1週に共同事業を開催すること、の5つの行動計画である。
このようにOPECとEUの産消対話は着実に深まっている。OPECが対話の相手としてEUを選んだ(或いはEUがOPECを対話の場に引き込むことができた)のは何故であろうか。OPECの産消対話の相手としては、EUの他にも世界最大の石油消費国である米国、或いは中国、日本、インドなどアジアの消費大国が考えられる。OPECがこれらの国々に先立ってEUとの対話を優先させた理由はいくつか考えられる。
米国の場合はその自由競争・市場経済信奉論および米国至上主義的な姿勢が問題と思われる。即ち自由競争・市場経済を信奉する米国はOPECが有するカルテル的性格を本質的に嫌っており、OPECを直接対話の相手とはみなしていない。そして米国一強時代の中で同国がしばしば見せる強圧的で一方的な態度は、OPECにとってとても対話の相手にならないと言うことであろう。
中国、日本、インド等のアジア各国についてはどうだろうか。今後アジアがOPECの最大のマーケットになることは間違いなく、中東産油国が主要メンバーであるOPECとしては地政学的に見てもアジアが最重点地域であろう。しかし現在のアジアの大消費国は、不安定な石油市場の中で需要者として結束することはない。それどころか各国は自国が必要とする石油を確保するためにお互いに鎬を削っている有様である。もし中国、日本、インドが結束してOPECとの産消対話を求めればOPECもそれに応じるであろうが、現状ではそれは望むべくも無い状況と言えよう。
結局、OPECは対話の相手としてEUを選んだ。中東とヨーロッパは政治・社会・経済・文化のあらゆる面で大きな差異がある。そして両者の間には長い抗争の歴史もある。サウジアラビアなどOPEC穏健派の中東産油国がEUとの対話を進めるのは驚きの感がある。しかし逆説的に言うならば、長い抗争の歴史を経たからこそお互いに相手の考えを理解し現実的で前向きの話し合いができる、と言うことなのであろう。OPECは、米国或いはアジア諸国との対話のレベルがそこまで達していないと判断しているようである。
OPECとEUは第4回対話を来年7月ウィーンで行うことで合意している。
以上