石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)OPEC総会で加盟国拡大を非公式協議(第3回)

2006-07-04 | OPECの動向

(前回までの内容)

第1回:ベネズエラがアンゴラなど3カ国のOPEC加盟を提案

第2回:生産量のシェア以上に急落したOPECの輸出シェア

 

第3回:石油を武器にしたくないOPEC穏健派

  世界の石油生産に占めるOPECのシェアは第一次オイルショック当時の55%から2004年には42%に低下したが、輸出のシェア低下はそれ以上に激しく87%から51%へと4割も低下している。かつて1970年代にはOPECの一挙手一投足が全世界の耳目を集め、石油消費国と石油企業はOPECの言動に一喜一憂していた。しかし最近ではOPEC総会こそ注目を集めるものの、普段はNYMEX(ニューヨーク商品取引所)やロンドンの石油先物市場の動きに注目が集まっている。

  そしてOPECは1970年代のオイルショックの際に国際社会に与えた強烈な政治的インパクトを喪失している。ベネズエラのチャベス大統領が狙っているのはまさにこの政治的インパクトを取り戻すことであろう。彼がOPEC加盟候補に挙げたアンゴラ、スーダン、エクアドル(以上はメンバー候補国)及びボリビア(オブザーバー候補国)がいずれも南米とアフリカの国々であることは興味深い。ロシアやノルウェーなど元々OPECに参加する意思の無い国はともかく、中米のメキシコや中央アジアのカザフスタンのように百万B/D以上の石油輸出量を誇る国を差し置いて、ベネズエラが4カ国をOPECに加えようとする意図は余りにもあからさまである。それは米国に対抗するためにOPECを利用しようとする極めて政治的な陰謀としか言いようが無い。  

  OPEC設立は、当時の巨大石油会社(いわゆるセブン・メジャーズ)から石油価格の支配権を取り戻そうとする産油国の資源ナショナリズムの表れであった。従って当初のOPECに政治的な色合いが強かったことは否定できない。その端的な例が1973年の第一次オイルショックである。イスラエル支援国家に対する禁輸措置を発動したのはOAPEC(アラブ石油輸出国機構)であったが、サウジアラビアなどOAPECの主要メンバーは同時にOPECメンバーである。従って世界はOAPEC即ちOPECとみなした。その後もOPEC総会で決定される加盟国の生産枠とそれによる原油価格の変動が世界経済に大きな影響を与え、OPECの行動はますます政治的なものとみなされる傾向が強くなった。このため米国を初めとする西欧先進国は、OPECが石油の生産を抑え価格を高騰させて世界経済を混乱に陥れた張本人であると非難した。

  しかし1980~90年代に石油価格が低迷すると、欧米先進国は今度は、世界経済を安定させるためにOPECは減産すべきであり、石油市場混乱の原因はOPECにあると非難した。確かに生産枠を遵守しない一部のOPEC産油国によって供給過多になったことは事実である。しかし1980年代にはOPECの生産シェアが3割以下にまで低下していることから、供給過剰と価格暴落の原因をOPECだけに押し付けるのは公平性を欠くであろう。

  さらに近年の価格暴騰についても、米国及び同国が主導するIEAなどはその原因に産油国の増産投資の不足をあげている。価格高騰で多額の石油収入を得ているOPECに対する強い牽制である。しかし石油価格高騰で潤っているのはOPECだけではない。ロシアや国際石油会社もその恩恵を最大限に受けている。ロシアは最近対外債務を前倒しで全額返済しており、世界最大の石油会社エクソンモービルの昨年の純利益は4兆円に達しているのである。彼らはまさに「漁夫の利」をむさぼっていると言えよう。

  石油価格が高い時も低い時もOPECは非難の矢面に立たされてきた。このためOPECの穏健派は「石油を武器に」と言った発言は軽々しく口にしない。OPECは石油を武器にして欧米を敵に回す危うさを体験的に知り抜いている。彼らは「政治はタブー」と肝に銘じているのである。

  OPEC非公式協議でのベネズエラ提案は却下された。サウジアラビアなどの穏健派は石油を政治的道具とすることに強く反対している。急進派と言われたリビアもイランもベネズエラに同調しなかった。リビアは米国との関係を改善し国際社会に復帰したばかりであり米国を敵に回す愚を避けた。米国と鋭く対立しているイランは、ハメネイ師が石油を武器にするとほのめかしているが、向こう見ずのチャベス・ベネズエラ大統領に同調すれば更なる孤立化を招くであろうことも承知している。

  OPECは消費国との対決ではなく対話を望んでいる。そして将来のエネルギー問題を話し合うパートナーとしてEUを選んだ。OPECの対話の相手は世界最大の石油消費国の米国ではなく、また日本、中国、インドなどアジアの大消費国でもない。OPECの主要メンバーは中東諸国である。中東とヨーロッパ - この二つの地域は長い対立と抗争の歴史を経ておりお互いを知り尽くした間柄である。だからこそOPECとEUは対話のテーブルに付けるのかもしれない。

  次回(最終回)は、OPECとEUの産消対話について。

 (今後の予定)

 第4回:OPECの産消対話のパートナーはEU

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