石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

「OPECは何処へ向かう」(連載第12回―最終回)

2008-07-19 | OPECの動向

その12.感情的な発言も飛び出すOPECと先進国の対立

  原油価格沈静化のためにOPEC産油国の増産を促す先進消費国と、米国原油市場における投機資金を規制すべきであるとするOPECの主張は平行線をたどったままである。4月のローマ国際エネルギーフォーラムに続き6月のサウジアラビア・ジェッダにおける緊急産消対話、さらに同じ月のスペイン・マドリッドの世界石油会議、と立て続けに会合を開いた産油国と消費国であったが、ジェッダの産消対話で主催国のサウジアラビアが単独増産に踏み切った程度で(前回「火中の栗を拾うサウジアラビア」参照)、ローマ、マドリッドでは何らの成果も無かった。その間ついに原油価格は147ドル(7月11日)の史上最高値をつけたのである 。

  価格高騰の原因をOPECになすりつけようとするかのごとき先進国の発言に、アルバドリOPEC議長(アルジェリア石油相)はついに堪忍袋の緒が切れたのか、「米国はOPECに対するハラスメント(いじめ)を止めよ」と逆襲した 。これまでもOPEC首脳の欧米先進国に対する批判はいくつかある。穏健派のカタルのアッティヤ・エネルギー相ですら昨年末のOPEC総会前、OPECに増産を強制する先進国に対して、「90年代後半に原油が暴落して産油国が困窮した時、先進国は何の手も差し伸べなかったのに、価格が高騰すればOPECを攻め立てる」と皮肉たっぷりの言い振りであった。一方、アハマドネジャド・イラン大統領やチャベス・ベネズエラ大統領のようなOPEC急進派でありかつ反米の急先鋒のOPEC加盟国は、「これまで米国に支配され不当に低く抑えられた石油価格が正当な水準を取り戻したにすぎない」と主張し更なる高値を誘導するような発言すらしている。

  OPECと欧米先進国の対立のとばっちりを受けた最大の被害者はアジアやアフリカの開発途上国であろう。この地域では少なからぬ国が補助金によって食料品やガソリンなど生活必需品の価格を低く抑えてきたが、原油価格の高騰による補助金の急増に音を上げた各国の政府はたまらず末端価格を上げたのである。これが一般市民の生活を直撃し、インドの大都市をはじめ各地で自然発生的なデモが頻発した。OPEC加盟国であるインドネシア(但し同国は既に実質的な輸入国に転落している。「その9.インドネシア、OPEC脱退を示唆)」参照)ですら、ジャカルタでデモが発生した。

  石油の値上がりによる最大の被害者は国内に石油資源を持たない発展途上国である。このことは1970~80年代の第一次、第二次オイル・ショックでも同様であった。当時の世界は米ソ二強時代であり資本主義、社会主義それぞれの陣営がこれらの国に援助の手を差し伸べ、自陣営に囲い込もうと援助競争を繰り広げていた。ソ連の東欧諸国やキューバに対する援助はその典型的な例である。被援助国から見れば、それは国家の破産あるいは政権の転覆などの危険から身を守ってくれるセーフティー・ネットだったと言えよう。

  ところが米国一強時代、資本主義万能時代となった現代では、富める国はますます豊かになる一方、貧しい国はますます窮乏化している。最貧国には食糧援助など生存のための最低限の援助がなされるが、それでは窮乏状態から脱却することは不可能である。貧困が暴力とテロの温床であり、経済発展による豊かな国造りこそ究極のテロ対策であると叫ばれている。その掛け声のもと米国は「大中東平和構想」を、そして日本も「平和と繁栄の弧」構想により中東和平に寄与しようとしている。しかしこれらの構想の基本にあるのは被援助国の自助努力であり、格差の拡大により平和の実現はむしろ遠のいた感すらある。

  日米欧先進国自身は石油高騰による物価対策や景気対策に追われ、あるいはサブプライム問題による金融不安払拭に躍起である。そのため開発途上国に気前よく無償援助できる余裕がなくなっている。しかし途上国の困窮状態を放置すれば世界全体がますます不安定化することは間違いない。先進国と産油国はそれぞれ開発途上国の貧しさを救う手段を持っている。前者には技術とノウハウがあり、そして後者には資金がある。両者が協力して途上国に手を差し伸べれば、途上国は這い上がることができる。それこそが世界に安定と秩序をもたらす唯一の方法であろう。両者は今こそ不毛な対立から脱却する時である。

 (最終回完)

 (これまでの内容)

その11.火中の栗を拾うサウジアラビア - ジェッダ産消会議をめぐって

その10.ブッシュ大統領の頼みに耳を貸さない湾岸産油国

その9.インドネシア、OPEC脱退を示唆

その8.原油120ドル時代に開催された第11回国際エネルギー・フォーラム

その7.またも生産量据置を決めた第148回総会

その6.生産量据置を決めた第147回OPEC総会

その5.OPECの市場シェア

その4.OPECの原油生産量と世界に占めるシェア

その3.生産枠の変遷

その2.過去最多の13カ国になったOPEC加盟国数

その1.どこまで上がる原油価格

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする