3.シェールガスとは
天然ガスとして通常生産されているのは地下の帽岩(キャップロック)に閉じ込められたメタンを主体としエタンやプロパンを少量含有したガスである。このうち石油と一緒に生産されるものはウェット・ガスと呼ばれ、ガスのみの単体で産出されるものをドライ・ガスと呼ぶ。カタールの北部ガス田は典型的なドライ・ガス田である。これらは坑井を掘削すれば地層の圧力で天然ガスが自墳するため、古くから開発が行われてきた。
しかし同じ天然ガスでも薄片状の岩層或いは炭層や固い砂層に閉じ込められたガスは地層内でガスが移動できないため井戸を掘削しても商業量のガスを生産することができない。このためこれらのガス層は世界各地で多数発見されているもののこれまで開発に手が付けられていなかった。地層の種類によってシェールガス、CBM(コール・ベッド・メタン)、タイトガスサンドに区分されるが、現在生産されている天然ガスを「在来型」と呼ぶのに対し、これらのガスは「非在来型」と呼ばれている。
非在来型ガスの一つであるシェールガスとは、泥岩の一種で薄片状にはがれやすい頁岩(シェール)の微細な割れ目に閉じ込められたガスのことである。シェールガスについては(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(略称JOGMEC)の隔月誌「石油・天然ガスレビュー」最新号(2010.5 Vol.44 No.3)に掲載された同機構調査部伊原賢氏の論文「シェールガスのインパクト」及びパレアレシ氏講演「シェールガス革命」抄録(同調査部市原氏編)が非常に参考になる。以下はこれら二編から抜粋したものである。
全世界のシェールガスの資源量は16,000Tcf(兆立法フィート)と推定されており、回収率20%と仮定すれば確認可採埋蔵量は3,200Tcfとなる。BP統計によれば世界の天然ガスの埋蔵量は6,621Tcfとされているので シェールガスは在来型ガスの50%近い埋蔵量があることになる。このうち米国の埋蔵量は500Tcfで2008年の生産量は1.7Tcfに達している。因みにこの生産量は日本の消費量の1/2以上を占めている。シェールガスの生産は米国のほかカナダでも始まっており、中国や欧州でも商業生産を検討中と言われる。なお日本は地層が比較的新しく頁岩を持っていないためシェールガスは賦存しない。
商業量のシェールガスを生産するためには頁岩層に多数の坑井を掘削し、さらにシェールに人工的な大きな割れ目を作って地層内のガスの流動性を高める技術が必要である。これを可能にしたのが、地表からの1本の立坑から地層内に多数の横坑を掘る水平坑井掘削技術が実用化されたことであり、また水平坑井から高粘性流体のジェルをシェール内に押し込みフラクチャー(割れ目)を作る技術が確立したことである。それとともに地下の割れ目の広がりをモニタリングするソフトウェアが開発されたことによりシェールガスを商業生産することが可能になったのである。
米国の石油・天然ガスの探鉱開発技術が世界一であることは誰も疑わないであろう。また国内には豊富なシェールガス資源があり、これまで多くの現場で実証実験を積み重ねてきたことが実際の生産に結びついたと言える。さらに米国がシェールガスの商業生産にこぎつけた理由がいくつか考えられる。それは(1)在来型天然ガスの生産減退、(2)シェールガス生産コストが低下し競合エネルギーとの価格競争力が生まれたこと、(3)国内のガスパイプライン網が完備しており流通の初期投資を低く抑えることができる、などがその理由である。
米国の天然ガスの埋蔵量は1998年を底に上向いているとは言え(前回参照)、過去30年間近く可採年数は10年前後にとどまっており、在来型天然ガスはじり貧状態にある。このためエネルギー自給率の低下を防ぐ手段としてシェールガスの開発が手掛けられた。そしてシェールガスの開発生産コストの削減に努力した結果、現在そのコストは熱量換算で在来型ガスとほぼ同じ5ドル/MMBtuになった。米国のシェールガスの主要生産地は南部から東部地域のBarnet, Fayetteville, Haynesville, Marcellus, Muskwaなどであるが、いずれも既存の天然ガスパイプライン網に近いため搬送コストは低い。これに比べ輸入に頼るLNGはカタールなど遠隔地からの輸送コストに加え、受入基地及び再ガス化設備の建設に膨大な投資が必要である。
このようにシェールガスはLNGに対して競争力が高い。今や米国の天然ガス市場ではシェールガスがLNG輸入を駆逐する勢いなのである。
(続く)
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