石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(22)

2010-10-22 | 中東諸国の動向

米軍乗り出す(2)

ペルシャ湾地域の混乱はイランの核開発疑惑問題に端を発した米国のイラン封じ込め政策によってさらにエスカレートした。イランが核開発で地域の主導権を握れば、中東全体が不安定になり、さらに将来イランの核兵器がイスラム・テロ組織に流れる恐れがある、というのが米国の理屈である。

しかし米国が本当に守ろうとしていた利益、それはイスラエルの安全保障であった。米国にとってはるか大西洋を隔て地球の裏側にあるとも言えるイスラエルそのものは経済的にはさほど大きな意味を持たない。それでも米国がイスラエルに肩入れするのは、政治家たちがイスラエル・ロビーの圧力に意のままに操られているためであり、また聖地エルサレムのあるイスラエルに対するキリスト教右派の過剰な思い入れのためであった。さらに9.11同時多発テロが米国民のアラブに対する嫌悪感を高めた。それを最大限に利用したのがイスラエルでありそのロビイスト達であった。

「殺(や)られる前に殺(や)れ」「先制攻撃こそ最大の防御」と言ってはばからないイスラエルの右派政府及び軍部は、イランの核施設建設が進むにつれてますます強硬になっていった。かれらはこれまでにもイラクのオシラク原子力発電所やシリアの核疑惑施設を空爆している。イスラエルは自己の安全が脅かされると感じれば躊躇しない。それは脅威が客観的に証明されると言うレベルの問題ではなく、彼ら自身が脅威を「感じる」と言う皮膚感覚である。

イスラエル右派政府及び軍部のそのような皮膚感覚は日本人のように平和な世界に生きる者とは全く異なる。彼らは建国以来60年以上もの間、脅威と隣り合わせに生きてきた。彼らに常識的な脅威論や平和論は通用しない。明日攻撃されるかもしれない相手に対する正しい対応は、「殺られる前に殺る」ことである。そこでは彼ら自身の暴力は正しい暴力であり、敵の暴力は叩きのめすべき暴力なのである。

今やイランに対しても同じことである。イスラエル国内の強硬派の暴走とそれを後押しする米国内の国会議員や右派宗教指導者たち。ワシントンが彼らを抑えるのはもはや限界であった。

(続く)


(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

 

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