砂漠と海と空に消えた「ダビデの星」(7)
大空に散華した三番機(上)
三機編隊の後方に米軍の戦闘機が近づきつつあった時、『アブダラー』は他の二人のパイロットと同様米軍の救援により「地上」に舞い戻れるという安心感が高まった。彼は自分自身に言い聞かせた。
<落ち着け!米軍に従えば無事に帰還できる>と。
しかしその一方、他の二人とは異なり彼だけは安心感と不安感が交錯する奇妙な感覚を覚え始めていた。その感覚は『マフィア』が隊列を離れ伴走の米軍機と共にアラビア半島方面に消えて行き、次は自分の番だと告げられた時、少し鋭さを増した。
米軍機のパイロットが『マフィア』の時と同じように『アブダラー』機の下に回り込み、装備を確かめた。パイロットは左翼と胴体部分にそれぞれ1発づつのミサイルが装着されたままであることを目視するとそのことを直ちに基地に報告した。基地に緊張が走った。
「右上方を見よ!」
『アブダラー』の耳に米機のパイロットの声が飛び込んできた。
「これから給油機により貴機に空中給油を行う。」
米戦闘機の後に従いつつ揺れ動く心に気を取られていた『アブダラー』は我に返り窓外を見た。黒い巨体が頭上に迫っていた。
先導役の米戦闘機が並走態勢に戻り、給油機が覆いかぶさるように彼の戦闘機の上にせり出し、腹部から給油パイプを空中に伸ばし始めた。
「本給油機は我が国がイスラエル空軍に売却したものと同じ型式だ。従って通常の訓練の要領で給油を受けよ。」
今度は給油機のパイロットの声であった。頭上の給油機のマークが目に入った。パイロットになりたての時、米国アリゾナ州の空軍基地で受けた飛行訓練を思い出した。あの時と全く同じ光景だ。否、一つだけ違うことがあった。それはあの時『アブダラー』が操縦したのは五角形の星の米軍訓練機であったが、今彼が操縦している戦闘機には六角形の星がついている。
入れ替わりに再び米軍戦闘機のパイロットが語りかけてきた。
「給油が終わる頃にはホルムズ海峡を越えているはずだ。そこでディエゴ・ガルシア島の基地を発進した別の米軍機に護衛業務を引き継ぐ。彼が貴機をディエゴ・ガルシアまで送り届ける予定である。」
(続く)
(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)
荒葉一也:areha_kazuya@jcom.home.ne.jp