石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

荒葉一也SF小説「イスラエル、イランを空爆す」(33)

2010-12-21 | 中東諸国の動向

砂漠と海と空に消えた「ダビデの星」(9)
大空に散華した三番機(下)
 『アブダラー』は何を思ったのか、突然ミサイル発射装置の液晶画面に指を触れ、左翼に残されたバンカーバスターに攻撃目標を入力した。次に彼は迷わず発射ボタンを押した。バンカーバスターは赤い炎を吐きさらなる上空をめざして飛び出していった。

 数秒後、ミサイルは180度反転して地球に戻り始めた。それは最早誰にも止められない意思を持ち、パイロットが入力した目標に向かって真一文字に飛行しつつあった。

 『アブダラー』はバンカーバスターが自分の戦闘機に向かってくるのを待ちかまえた。満天の星の中でバンカーバスターの炎が輝き、それはみるみる大きく迫ってきた。

 二つの物体が衝突する寸前、『アブダラー』は緊急脱出装置のボタンを押した。それが彼の最後の仕事であった。

 気密のコックピットから真空中に放り出された彼の肉体は一気に膨れ上がった。ヘルメット、飛行服、手袋そして靴が膨張する肉体を押さえつけたため、その力は唯一外気に晒された彼の頸部に集中した。彼の首まわりはスポーツ選手のように頭部と同じほどのサイズに膨れ上がった。首にかけていたネックレスの鎖が千切れて姉と姪の写真を入れたロケットは重力の殆ど無い超低温の暗黒の中に弾き飛ばされた。

 その時、バンカーバスターは設定された攻撃目標を正確に捉え、目標物体がバラバラに飛び散った。『ダビデの星』が描かれた胴体部分は空中に舞い、次いで重力に引かれて落下を始めようとした。

 しかし『ダビデの星』が落下運動に移ることはなかった。次の瞬間、強烈な閃光と爆風、そして全てを焼き尽くす高熱が辺りを支配した。バンカーバスターの激突で小型核ミサイルが誘爆したのである。

 超高熱のため『アブダラー』の肉体は瞬時に蒸発した。風防ガラス、プラスチック計器盤、そして胴体や翼部などの金属板も落下を始める前に溶けてなくなった。重い金属の塊であるジェットエンジンだけは表面が溶けたものの内部を残し地表へ落下していった。

 『アブダラー』の首からはずれ宙に漂うロケット。小さくて丸い円盤状のロケットは爆発の衝撃で新たな動きを始めた。超高温の気流がロケットに迫ったが、爆風に吹き飛ばされたおかげで内部が高熱に晒されることはなかった。核爆発のエネルギーが重力圏を脱出するに十分なスピードをロケットに与えた。こうしてロケットは地球を背に宇宙へと飛び立った。

 重力圏を脱して宇宙に飛び出したロケット。その軌道は正確にある方向を目指していた。そしてロケットの内部には真空と超低温の宇宙空間で冬眠状態に入った或る生命体がひそんでいた。その生命体は長く果てしない故郷への旅路についたばかりであった。

(第一部完)

(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)

荒葉一也:areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

 

 

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