(注)本シリーズはホームページ「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0166OpecNext50Years.pdf
7.OPECは結束を維持し新しい戦略を樹立できるか?
2009年のOPEC加盟国の原油生産量はサウジアラビアの818万B/Dを筆頭に、生産量の多い国としてはイラン356万B/D、ベネズエラ288万B/Dなどがある。一方エクアドル(46万B/D)、カタール(73万B/D)などは世界的にみて25位から30位程度の生産量に過ぎない(以上OPEC統計)。OPEC加盟国の中ではイラン、イラク、ナイジェリアなどは人口が5千万人以上あり、国民を養うためにはある一定以上の石油収入が欠かせない。今後生活水準が上昇すれば当然ながら石油の国内消費量も増え、輸出に回すことのできる石油量が限られてくる。
石油収入を確保する方策は二つ。石油価格を上げて単位当たりの収入を高めることが一つ。そしてもう一つは石油開発を強化して生産量を上げできるだけ多くの輸出量を確保すること。価格の引き上げは単独では不可能でありOPECとして結束することが不可欠である。そして輸出量を確保するためには生産割当を増やすことが必要である。もし自力で輸出拡大を図ることが可能なら、OPECを離れ一匹オオカミとして市場に乱入すると言うシナリオが考えられそうであるが、市場はそれほど甘くない。OPEC加盟国はいずれも政治的に非力であり一匹オオカミにはなれない。従ってイラン、イラクはOPECの中で大きな生産枠を確保しようと画策する訳である。
上記の対策は収入の増大を石油だけで考えた場合だが、OPEC加盟国の中にはイラン或いはカタールのように多量の天然ガスを生産している国がある。これらの国は石油と天然ガスのベストミックスで収入を最大化するという別の選択肢もある。天然ガスは石油に代わる環境に優しいエネルギーとして世界的に需要が急増しているからである。ロシアを含めた主要な天然ガス輸出国は「天然ガス輸出国フォーラム(GECF)」を結成し有利な価格による輸出を目指して結束を強めている 。
但しここでもイランとカタールにはそれぞれ個別の事情がある。イランでは天然ガスは全て国内消費に消え、また先進国による経済制裁のためLNG輸出設備が建設できない。結局イランは外貨獲得のためにはOPECの生産割当量を増加して石油輸出を増やすしかない。
LNG輸出に力を注ぐカタールにもアキレス腱が無い訳ではない。実は同国のLNG事業はかなり厳しい状況に置かれている。世界的なLNGの供給余剰のためスポットマーケットは惨憺たる状況である 。カタールは天然ガス輸出国フォーラム(GECF)の有力国として、スポット価格の改善に苦闘しており、原油価格との連動方式などを模索している最中である。
OPECの今後を占う鍵はいくつかあるが、ここでは加盟国の増加の可能性及びOPECの盟主とされるサウジアラビアの二点について述べてみたい。
OPECの現在の加盟国は12カ国であり、世界の原油生産量に占める割合は40%強である。過去2年の間にインドネシアが脱退する一方、エクアドル及びアンゴラが加わった(アンゴラは再加盟)。これまでもOPECは有力産油国に参加を呼び掛けてきた。ロシア、メキシコ、ノルウェー、ブラジルなどである。しかしヨーロッパ或いは米国に取り込まれているノルウェー及びメキシコはOPEC加盟に全く興味を示していない。また欧州への天然ガスの供給者として大きな影響力を持っているロシアも独自の道を歩もうとしている。その中で深海油田の開発に成功し石油生産量が伸びているブラジルにはOPEC加盟の可能性が残る。しかしブラジルは新興工業国家群BRICsの一員として国際社会に一定の存在感を築こうとしておりOPECに加盟するメリットがないと考えているようである。
結局OPEC加盟国が現在以上に増加する気配はない。むしろインドネシアの例に見られるように石油の輸入国に転落してOPECを脱退する国が出ないという保証はなく、加盟国が減少する可能性の方がむしろ現実的かもしれない。
次ぎにOPECの盟主サウジアラビアの動向である。同国の生産能力は1,200万B/D以上と言われているが、現在の生産量はロシアより少ない。今後世界の石油需要が上向いて価格が上昇したとき、石油の安定した供給者としてのサウジアラビアに脚光が当たる。同国はこれまでも自国をある程度犠牲にしてまで石油の安定供給に寄与してきた。
その政策を強力に推進してきたのが同国のナイミ石油相である。このような彼の功績を取り上げて関係者は彼を「石油のグリーンスパーン」と呼んでいる。グリーンスパーンとは国際通貨の安定に貢献した元FRB議長のことである。しかし高齢のナイミ石油相自身はかねてから引退を望んでいると言われ 、最近再び引退説がメディアで報じられている 。その場合誰が彼の後継者になろうが、彼ほどの指導力を発揮できるかどうかは未知数であり、仮に指導力を発揮するとしても或る程度の時間がかかることは間違いない。その間、OPECが結束を維持できるのか不安が残り、ベネズエラ、イランなどいわゆる強硬派の国々がOPECをかき乱す恐れがある。
不安定な世界経済、天然ガスに脅かされる石油の地位、OPEC内部の乱れ等々、新たなる半世紀に踏み出したOPECの前途は荒れ模様である。
(完)
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