(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0554SovereignRatingJan2022.pdf
本レポートは著名な格付け会社Standard & Poors (S&P)[1]の2022年1月現在の世界主要国及びMENA諸国のソブリン格付け[2]を取り上げて各国を横並びに比較するとともに、いくつかの国について過去3年間にわたる半年ごとの格付け変化を検証するものである。
因みにS&Pの格付けは最上位のAAAから最下位のCまで9つのカテゴリーに分かれている。このうち上位4段階(AAAからBBBまで)は「投資適格」と呼ばれ、下位5段階(BBからCまで)は「投資不適格」又は「投機的」とされている。またAAからCCCまでの各カテゴリーには相対的な強さを示すものとしてプラス+またはマイナス-の記号が加えられている[3]。なおC以下でS&Pが債務不履行と判断した場合はSD(Selective Default:選択的債務不履行)格付けが付与され、さらに格付けを行わない場合はN.R.と表示される。
*過去のレポートは下記ホームページ参照。
http://mylibrary.maeda1.jp/SovereignRating.html
(ほとんどの国が格付け変更なし!)
1.2022年1月現在の各国の格付け状況
(表:http://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-01.pdf 参照)
2022年1月現在の格付けを半年前の2021年7月と比べると最高格付けAAA(トリプルA)のドイツ、シンガポール等の国々を含めAA+の米国、AAの英仏、A+格付けの日本、中国など主要な国々に変動はなかった。
日本を含む極東各国(地)の現在の格付けは香港のAA+が最も高く、韓国と台湾が1ランク下のAA、日本と中国がさらに2ランク低いA+とされている。香港の格付けは米国と同じであり、中国本土より3ランク高い。米中の対立および中国の同化政策が厳しさを増しており、格付け機関が今後香港に対してどのような評価を下すのか注目される。
G7の国々のうちドイツ及びカナダはAAAの最高格付けであり、米国は1ランク下のAA+、英国及びフランスはさらに1ランク低いAAである。そして日本はAAAより4ランク低いA+に格付けされ、イタリアは投資適格ではあるがBBBにとどまっている。因みに格付け定義ではAAは「債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(トリプルA)との差は小さい」とされ、これに対して格付けAは「債務を履行する能力は高いが上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化からやや影響を受けやすい」とされている。そしてBBBの定義は「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い」である。
G7以外の国ではアジア諸国のうちシンガポール及びオーストラリアがAAAに格付けされ、またMENA諸国では、アブダビがAAに、カタール及びイスラエルAA-に格付けされている。サウジアラビアの格付けはA-である。
アジアの国々の多くは投資適格では最も低いBBBの格付けであり、タイ及びフィリピンがBBB+、インドネシアはBBB、インドはBBB-である。またロシアはインドと同じ格付けで、南米のブラジルとアルゼンチンはいずれも投資不適格である。ブラジルはBB-、アルゼンチンの格付けはCCC+とされている。
昨年下半期ではクウェイトがAA-からA+に格下げされたが、それ以外の国々は変更されていない。因みに昨年上半期には台湾、アイルランド、アルゼンチンなどが格下げされている。
世界的に新型コロナウィルスが猛威をふるい、各国は感染対策、景気下支えのため巨額の財政出動を行っており、財務内容が悪化している。この状況が格付けに反映されていないのは事態が全世界の国々で同時進行しているため格差がつけられず格付け変更が先延ばしになっていると見て良いであろう。コロナ禍が終息し景気の足並みに乱れが出るようになれば格差が顕在化するものと思われる。
(続く)
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[1] 世界的な格付け会社はS&P社のほかにMoody’s及びFitchRatingがあり、三大格付け会社と呼ばれている。
[2] ソブリン格付とは国債を発行する発行体の信用リスク、つまり債務の返済が予定通りに行われないリスクを簡単な記号で投資家に情報提供するものである。「ソブリン格付け」は、英語のsovereign(主権)に由来する名称であり、国の信用力、すなわち中央政府(または中央銀行)が債務を履行する確実性を符号であらわしたものである。ソブリン格付けを付与するにあたっては、当該国の財政収支の状況、公的対外債務の状況、外貨準備水準といった経済・財政的要因だけでなく、政府の形態、国民の政治参加度、安全保障リスクなど政治・社会的要因を含めたきわめて幅広い要因が考慮される。
[3] S&Pの格付け定義についてはhttp://menadabase.maeda1.jp/1-G-3-02.pdf参照。