石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

財政悪化は各国共通、格付け変更先延ばし:世界主要国のソブリン格付け(2022年1月現在) (下)

2022-01-12 | その他

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0554SovereignRatingJan2022.pdf

 

3.2019年1月以降の格付け推移

  ここでは2019年1月以降現在までの世界の主要国及びGCC6か国のソブリン格付けの推移を検証する。

 

(固定化する欧米とアジア・新興経済国との格差!)

(1)世界主要国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-01.pdf参照)

先進国の中ではドイツが過去3年間常に最高のトリプルAの格付けを維持している。米国はドイツより1ランク低いAA+を、また英国は米国よりさらに1ランク低いAAを過去3年間続けている。

 

これに対しアジアの経済大国中国と日本の格付けは3年間A+で推移している。AAAのドイツとは4ランク、米とは3ランク、英国とは2ランクの格差があり、過去3年間格差は解消していない。これら欧米・アジアの経済大国より格付けは少し下がるが、石油大国のサウジアラビアは2019年1月以降格付けA-を維持している。

 

コロナ禍前の世界的な経済成長の中で注目されたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの頭文字)諸国は、上述のとおり中国が日本と同じ格付けである。その他の4カ国を見ると、ロシアとインドは2019年1月以降格付けBBB-である。これは投資適格の中で最も低く、S&Pの格付け定義では「債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い。」とされている。

 

2019年1月には南アフリカはBB、ブラジルはBB-の、いずれも投資不適格であった。2020年7月には南アフリカもBB-に格下げされ、以来今回まで同じ格付けである。BBの格付け定義は、「より低い格付けの発行体ほど脆弱ではないが、事業環境、財務状況、または経済状況の悪化に対して大きな不確実性、脆弱性を有しており、状況によっては債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。」とされ、信用度が低い。

 

(GCCのトップグループから脱落続けるクウェイト!)

(2)GCC6カ国の格付け推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-G-3-02.pdf参照)

 GCC6か国(UAE、クウェイト、カタール、サウジアラビア、オマーン及びバハレーン)の過去3カ年のソブリン格付けの推移を見ると、まず2019年1月時点ではUAE(アブダビ)及びクウェイトの格付けが最も高いAAであり、これに続きカタールがAA-に格付けされていた。しかしクウェイトは2020年上半期にAAからAA-に格下げされ、2021年下半期にはさらにA+に落ちている。これに対してアブダビ及びカタールは同じ格付けを維持している。

 

3カ国は政治体制、人口・経済規模などが似通った産油(ガス)国である。それにもかかわらずクウェイトの格下げが止まらないのは、同国が中途半端な議会制民主主義を採用している結果、政情が安定せず経済改革がほとんど進まないことに原因があると考えられる。

 

サウジアラビアはこれら3カ国より低くA-を続けている。同国はUAE(アブダビ)、クウェイト、カタールを大きくしのぐ石油歳入を誇っているが、一方で人口も3カ国より飛びぬけて多いため、財政的なゆとりが乏しい。S&Pはこれらの事情を考慮してサウジアラビアの格付けを厳しく見ている。

 

オマーンとバハレーンは投資不適格の格付けであり、有力な産油(ガス)国が多いGCCの中で石油生産量がごくわずかなバハレーンのソブリン格付けは過去3年間B+にとどまったままである。オマーンは2019年1月から2020年上半期までBB格付けを続けたが、その後一年の間に2ランク格下げされ、現在ではバハレーンと同じB+なっている。格付けBの定義は「現時点では債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた発行体よりも脆弱である。事業環境、財務状況、または経済状況が悪化した場合には債務を履行する能力や意思が損なわれ易い。」とされており、オマーンとバハレーンの経済には不安感がある。

 

以上

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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