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プロローグ(3)
003.中東向け夜行便ME514 (3/3)
『こんなことが今日もパレスチナのどこかで起こっているんだろうな----。』
つぶやきが彼の口から洩れた。隣のシートの白人が怪訝な顔でこちらを見たが、彼はそれに気づかずさらに思いに耽った。
<彼女たちはパレスチナに住んでいる平凡な市民。そう言う自分だってエリート・ビジネスマンのつもりでビジネスクラスの座席に座っているが、所詮は日本の何処にでもいる市民の一人にすぎない---------。彼女たちも自分も生まれた場所が違うだけで同じ時代を共有している平凡な一市民。彼女たちは平凡なパレスチナの市民で、自分は平凡な日本の市民と言うことか。>
彼は自分と彼女たちが同じ一市民でも境遇があまりにも違うことに一瞬身震いした。しかし彼はその事実を突き詰めて考えるほどの思索家ではなかったし、何よりもうるさいエンジン音と朦朧とした酔いの中では身震いも一瞬のことでしかなかった。彼は雑誌を手にしたまま目を閉じると睡魔が彼を襲った。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)