(英語版)
(アラビア語版)
2023年4月
Part III:キメラ(Chimera)
79. スタンピードの兆候(1)
ドクター・ジルゴがギャラクシーから生み出した変種のキマイラは瞬く間にパレスチナに住むアラブ人に蔓延した。それは老若男女にかかわらず発熱と倦怠感と言う同じ症状をもたらしたが、特に女性に重篤者が多数発生した。ただ死亡者がほとんどいなかったことは不幸中の幸いであった。
しかしそれが不幸中の幸いどころではなかったことがまもなく判明した。疑問を持ったシャイ・ロックの次女で女医のアナットがパレスチナ少女ルルの細胞検査を行ったところ驚愕すべき事実が判明した。患者の卵巣に卵子が無いのである。女医は急いで成人女性を含む多数のウィルス感染者を検査したが結果は同じであった。
この事実が何を意味するかは言うまでもない。パレスチナ人は現世代以降繁殖能力を失い百年以内に絶滅することは間違いないと言うことである。否、パレスチナ人にとどまらず、他の人種、例えばユダヤ人が感染した場合にどうなるのか?パレスチナ人とユダヤ人はほぼ隔離されているとは言え、イスラエルの狭い土地の中では感染は避けられない。アナットは考えただけでも血の凍るような戦慄に襲われた。
しかし彼女の父親シャイ・ロックとドクター・ジルゴは楽観的であった。ジルゴは遺伝子操作でギャラクシーから創り出したキマイラがパレスチナ人の女性に対してのみ特殊な作用を及ぼすことに絶対的な確信を持っていた。そして説明を受けたシャイ・ロックもそれを信じたからである。と言うか、キマイラのもたらす特殊な作用―パレスチナ人が繁殖能力を失うということーの魅力に取りつかれたのであろう。シャイ・ロックの耳元で悪魔が囁いた。
『これで厄介なパレスチナ人問題から解放される。』
『我々は生きているパレスチナ人を殺す殺人者ではない。』
『我々が手を下すことなく、彼らは滅亡していくのだ。』
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html
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