(英語版)
(アラビア語版)
Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」
45. ユダヤ国家の内なる敵(1)
<我々は内なる敵によって滅びるかもしれない。>
最近『シャイ・ロック』は本気でそう考え始めていた。
建国闘争でパレスチナ人を蹴散らし、独立のための第一次中東戦争を含め四度にわたる中東戦争で周辺のアラブ諸国を完膚無きまでに打ちのめしたイスラエル。今もガザ地区のハマスそして彼らを支援するイランとの間で生存のための闘いを繰り広げている。イスラエルを地中海に追い込んで世界地図から抹殺すると言ってはばからないこれらの勢力に対してイスラエルは容赦しない。
これまでの闘いを率いてきた歴戦の勇士『シャイ・ロック』が恐れる内なる敵―それはイスラエル国内に抱えるパレスチナ系アラブ人の問題であった。1967年の第三次中東戦争はイスラエルの奇襲作戦が成功し、わずか6日間で終わった。その時、同国は当時ヨルダンが支配していたヨルダン川西岸とエジプト固有の領土シナイ半島を獲得した。
いつの時代でも戦争で領土が広がることは勝利を意味する。しかし新たな領土とは言え、ヨルダン川西岸及びガザ回廊を含むシナイ半島には既に何代にもわたりアラブ人たちが住んでいた。パレスチナ人と呼ばれた彼らのある者は戦火を避け難民となって隣国のヨルダンやレバノンに逃れた。さらにその一部は石油ブームに沸くクウェイト、サウジアラビアなどの湾岸諸国に移り住んだ。
しかし、一方で土地を離れず息をひそめて戦火が頭上を通り過ぎるのを待ち続けた者も少なくなかった。イスラエルは戦後の占領政策のもとで多数のパレスチナ系アラブ人を抱え込むことになった。アラブ人は今も昔も子沢山である。イスラエルに住むパレスチナ系アラブ人の人口増加がユダヤ人のそれを上回っていた。こうして国内におけるユダヤ人とアラブ人の比率という天秤がアラブ人側に少し傾き始めた。
天秤の針を元に戻そうとイスラエルは世界中のユダヤ人たちに、イスラエルに来たれ、と呼び掛けた。イスラエル政府は祖先に少しでもユダヤ人の血が混じっていると認められる者たちを世界中から探し出し彼らに誘いの手を伸ばした。
欧米先進国のユダヤ人達は現在の豊かな生活を犠牲にしてまでイスラエルに移住することはなかった。米国生まれの若くて敬虔なユダヤ教徒が宗教的高揚感に駆られて共同農場キブツに駆け付ける姿があったが、その数はわずかなものであり、ユダヤ人とアラブ人の人口のバランスに影響を与えることはなかった。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html
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