石油と中東

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SF小説:「ナクバの東」(47)

2022-10-31 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)

 

47. ユダヤ国家の内なる敵(3)

 

アフリカ系ユダヤ人移住者がいくら多いとは言え、六日戦争の結果ヨルダン川西岸とガザ地区の併合で抱え込んだアラブ人に比べれば物の数ではない。イスラエル政府はさらに大胆なユダヤ人の呼び込みを図らなければならない。そこで目を付けたのがウクライナ地方に住むユダヤ系農民たちであった。

 

ディアスポラによる放浪の末に彼らがウクライナに住みついたのは千年以上昔のことである。その後幾世紀にもわたり彼らはロシア人と結婚を重ね、ヘブライ語は忘れ生活習慣も宗教儀礼も殆どロシア人になり切っていた。

 

それでもイスラエル政府は三代前、つまり祖父母のいずれかがユダヤの血を引いているのであればイスラエルへの移住を認めた。祖父母自身、自分たちが生粋のユダヤ人であるかどうか証明の困難な者が少なくなかったが、そんなことは問題にならなかった。ユダヤ人であると自己申告すれば、彼らとその子供も孫もユダヤ人と認定された。

平等な社会主義を標榜するソビエト体制ではあったが、ロシア人が優遇され、ウクライナ人たちはその言葉とは裏腹に冷遇され、中でもユダヤ系と見なされた農民たちはさらに低く見られていた。そのような彼らにとって近代国家イスラエルに移住できるのはまたとないチャンスだったのである。

 

アフガン戦争でソ連を崩壊に追いやった米国は、イスラエルによるロシアからのユダヤ系(と称する)農民の移住政策を強力に後押しした。実はこれらウクライナ農民の中には一足飛びに米国に移住を希望する者が多かった。しかし米国は農業知識しか持たない移民を受け入れる気は毛頭なかった。米国はメキシコからの不法移民に手を焼いており、医療や産業に関する高等技術を持った移民以外は受け入れたくなかったのである。

 

溢れる移住希望者の行き着く先は米国ではなくイスラエルに向けられた。こうして百万人を超えるロシア国籍者がイスラエルに入国したのであった。

 

このようにイスラエル政府はあの手この手で世界中からユダヤ人と呼ばれる人々を移住者としてかきあつめた。しかしそれでも『シャイ・ロック』の憂慮が消えることは無かった。それは毎年の政府の人口統計にはっきりと表れていた。パレスチナ系アラブ人の人口増加率がユダヤ人のそれを大幅に上回った。更にユダヤ人の中でもアシュケナジムとエチオピア系やロシア系などアシュケナジム以外の増加率にも顕著な差があった。

 

その結果いずれイスラエル国民の中でユダヤ人が少数派に転じるだけでなく、ユダヤ人の中でもアシュケナジムが少数派に転落する恐れがあった。ともかくも差し迫った問題はアラブ人とユダヤ人の比率が年々縮まっていることである。今世紀半ばにはその比率が逆転すると人口統計学者は警鐘を鳴らした。

(続く)

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 


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