積極的な外交活動を展開するUAE
最近、中東地域の外交活動でアラブ首長国連邦(UAE)の積極的な姿勢が目立つ。それを牽引しているのはアブダビのムハンマド・ビン・ザイド・アル・ナヒヤーン皇太子(略称MBZ)である。UAEはドバイが経済問題を担い、その他内政、外交、軍事、財政全般はアブダビが掌握している。 MBZはハリーファ・アブダビ首長兼UAE連邦政府大統領の異母弟であるが、首長が病弱なため実質的なUAEの指導者とみなされている。
*「アブダビ首長家々系図」、「UAE連邦政府閣僚名簿」参照。
積極外交に走る三つの要因
UAEが積極外交に走る要因は三つあると考えられる。その第一は米国が中東(アフガニスタンを含む)から撤退し、「自由で開かれたインド・太平洋」構想に軸足を移したことである。米国という重しを失った中東は一気に流動化し、各国の独自外交が重要になっている。第二の要因はUAEがイスラエルと国交を回復したことである。これまで敵対関係にあったアラブ圏の一角のUAEとイスラエルが結びついた結果、経済面で中東に新たなWIN-WIN(ウィン・ウィン)の関係が生まれ、ドバイを抱えるUAEの有利性が顕著になりつつある。第三の要因はUAEを含む湾岸君主制国家6か国から成るGCC(湾岸協力機構)のほころびがはっきりしてきたことである。ムスリム同胞団の扱いをめぐるカタールとサウジアラビア、UAE、バハレーン3カ国間の断交問題は昨年和解したが、サウジアラビアの威信は大きく低下した[1]。カショギ暗殺事件により同国のムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)の評判が地に堕ちたこともあり、UAEはもはやサウジアラビアに遠慮する必要がなくなったのである。
MBZ及び外相ほかによる外交活動
最近数カ月間のMBZ及びUAE外相などの活動実績をピックアップすればそのことが明白になる。例えば10月9日にUAE経済相がシリアと経済協力に合意し[2]、11月9日にはアブダッラー外相がダマスカスでアサド大統領と会談している[3]。因みにUAEは2012年にシリアのアサド政権と外交関係を断絶したが、2018年には大使館を再開、これがシリアのアラブ連盟復帰へとつながっている。11月19日にMBZはオースチン米国防長官と地域情勢について意見交換を行い[4]、25日にはエジプト及びイラク大統領と個別の電話会談を行っている[5]。さらに22日には今年2月まで外務担当国務相であったGargash大統領顧問がイランの外務副大臣とドバイで会談している[6]。
これらはUAEが米国の中東撤退後をにらみ独自の外交を模索していることを示しているが、その掉尾を飾るのがMBZのトルコ訪問である。MBZは11月24日、トルコを訪問、エルドガン大統領と会談を行った[7]。これまでUAEとトルコはいくつかの問題を抱えて冷え切った関係であった。2016年のトルコのクーデタ未遂事件ではトルコはUAEが反政府組織に財政的な支援を行っていたと非難した。またカタールがUAE等と断交した時はトルコがカタールに軍を派遣しており、さらにリビアの内戦問題ではトルコがリビア正統政府を支持したのに対し、UAEは反政府勢力のハフタール軍団を支援して首都トリポリを空爆するなど対立関係にあった。しかしMBZは今回のトルコ訪問で苦境に立つ同国経済を支援するため100億ドルの投資ファンドを設立すると表明した[8]。コロナ禍による不景気、高インフレ、通貨安が重なり同国の経済は危機的状況にあり、UAEの支援は干天の慈雨である。エルドガン大統領は今回のMBZの訪問がよほどうれしかったのか、来年2月にはUAEを答礼訪問すると表明している[9]。
UAEとイスラエルの関係改善もUAEに新しい活躍の場を提供している。UAEがイスラエルと国交回復したのは米国のトランプ大統領時代の2019年のことである。ユダヤ教とイスラームの共通の祖先にちなんでAbraham Accordと名付けられた協定を締結、UAEは湾岸諸国で初のイスラエル大使館を開設し、アブダビ国営航空がテルアビブに乗り入れた。最近ではUAEの資金提供によりヨルダンが太陽光発電を行い、その電力をイスラエルに輸出、見返りとしてイスラエルがヨルダンに天然ガスを供給するという3国間の経済協力プロジェクトが生まれている[10]。
UAEの積極外交の第3の要因はサウジアラビアによるGCCの締め付けが弱まったことである。GCCはこれまで米国を後ろ盾にしたサウジアラビアの強い指導力によりUAE、カタールなど他の5か国はほぼ無抵抗にサウジに従属してきた。サウジアラビアはユダヤ教のイスラエル、シーア派のイラン、さらに同じスンニ派ながらムスリム同胞団をイスラーム過激派集団と断じ、これらの勢力が湾岸絶対君主体制の脅威であるとして他のGCC諸国に共同歩調を強要した。しかしカタールはトルコと手を組むことでサウジの圧力をはねのけ、さらにアフガニスタン問題ではタリバン政権と諸外国の橋渡し窓口になるなど国際的な存在感を高めている。
UAEがサウジアラビアに先んじてイスラエルと国交回復したこともGCCの結束を弱めている。サウジアラビアでは対イスラエル外交方針でサルマン国王とムハンマド皇太子(MBS)の意見が一致せず、さらにはカショギ暗殺事件によりMBSの国際的信頼が失墜したこともありGCC亀裂の一因となっている。この結果、UAEはサウジアラビアの意向を忖度する必要性が亡くなったのである。
外交活動の自由度が高まったUAEは中東に限らず世界を視野に入れた国威発揚を図ろうとしている。現在ドバイで開催中の万博にとどまらず、最近ではInterpol(国際刑事警察機構)のトップのポストを獲得[11]、また来年カイロで開かれるCOP27(国連気候変動会議)に続く2023年のCOP28開催国に名乗りを上げている[12]。UAEが今後どのような外交活動を展開するのかきわめて興味深い。
以上
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荒葉一也
[1] 「地に堕ちたサウジ外交 Part1:無条件和解した GCC サミット」(2021年1月)参照。
[2] UAE and Syria agree to ‘enhance economic cooperation’
https://www.arabnews.com/node/1945311/middle-east
2021/10/10 Arab News
[3] UAE foreign minister meets with Bashar Assad in Damascus
https://www.arabnews.com/node/1964731/middle-east
2021/11/9 Arab News
[4] Abu Dhabi crown prince and US defense secretary discuss strategic bilateral relations
https://www.arabnews.com/node/1972511/middle-east
2021/11/21 Arab News
[5] Abu Dhabi crown prince holds separate talks with Egypt, Iraq leaders
https://www.arabnews.com/node/1975641/middle-east
2021/11/26 Arab News
[6] UAE and Iran to develop ties in ‘new chapter in relations’
https://www.arabnews.jp/en/middle-east/article_60222/
2021/11/24 Arab News
[7] Erdoğan hosts MBZ as Turkey, UAE seek to repair bilateral ties
2021/11/24 Daily Sabah
[8] UAE announces $10 billion fund for investments in Turkey
https://www.arabnews.com/node/1974661/business-economy
2021/11/24 Arab News
[9] Turkey’s Erdogan says he will visit UAE in February
https://www.arabnews.com/node/1977636/middle-east
2021/11/29 Arab News
[10] Jordan, Israel, UAE ink energy-for-water agreement
https://www.arabnews.com/node/1973331/middle-east
2021/11/23 Arab News
[11] UPDATED: Interpol elects United Arab Emirates official as president
2021/11/25 Ahram Online
[12] Egypt officially selected to host UN COP27
https://english.ahram.org.eg/News/439514.aspx
2021/11/11 Ahram Online
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