(英語版)
(アラビア語版)
Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」
41. パーティーにて(2)
大使の思惑通り彼はパーティーの人気者になった。彼の周りには政治家やビジネスマン、米国の軍人たちがいつも群がり彼は何度も何度も同じ話をさせられた。
未明にシナイ半島のエジプト空軍基地を叩いた話、ゴラン高原を低空でシリアに潜入して同国の基地を攻撃した際のあっけないほどの戦果、相手の対空砲火を避けるため超高空で敵地に潜入し、目標近くで一気に高度を下げると再び超高空に舞い戻るハイ・ロー・ロー・ハイ作戦など時には戦術用語を交えた彼の語り口は聞き手を魅了した。
当初口下手で相手にうまく伝えられなかった『シャイ・ロック』であったが、何度も同じ話をしているうちに次第に話しぶりは滑らかでよどみがなくなり、時には聴衆の感動と笑いを誘うエピソードをはさむ余裕すら生まれてきた。かつて独立戦争の闘士であった父親が彼に何度も同じ武勇談を語ったのと同じように-------。
ただ違うのは父子二人の時は聞き手は彼一人であったが、今は周りに大勢の聴衆がいることだ。聴衆の中には既に彼の話を聞いた者もいた。しかしそのような者たちは彼が同じ話を始めると、そっとパーティーの輪を離れた。<またその話ですか>などと言う野暮な茶々を入れないことがパーティーにおける礼儀というものだ。彼の話を始めて聞く人間だけが彼の周りに輪を作り彼の話に熱心に耳を傾けた。
彼らは別な日に別な場所でその話を話題に取り上げ、アラブを敵に回して連戦連勝したイスラエル、と言うイメージをふりまいていった。アラブ人に生理的な嫌悪感を持つ白人たちにとってその話は騎兵隊がインディアンを撃退する痛快無比な西部劇の映画そのものだったのである。
彼の話を聞いたと言って献金を申し出る在米ユダヤ人が続々とあらわれた。大使の狙いは的中した。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html
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