イエメン・フーシ派の攻撃で泥沼に陥ったUAE(上)

2022-02-04 | 中東諸国の動向

(注)本レポートはマイライブラリーで上下一括してご覧いただけます。(英語・アラビア語訳付き)

http://mylibrary.maeda1.jp/0555UaeYemenHouthi2022.pdf

１．ドローン攻撃で浮足立つUAE

　1月17日、アラブ首長国連邦（UAE）の首都アブダビの空港及び国営石油会社(ADNOC)の油槽所で相次いで爆発事故が発生、3人が死亡、6人が負傷した。イエメン反政府組織フーシ派が犯行声明を発表、攻撃は弾道ミサイルあるいはドローン(無人攻撃機)によるものであった[1]。1月初めにはイエメン沖合のソコトラ島からサウジアラビアのJazan港に向かっていたUAE船籍の貨物船が紅海でフーシ派にハイジャックされる事件が発生している。2015年以来イエメン内戦ではサウジアラビア、UAEを含む有志連合軍がハディ大統領率いる政府勢力を支援するためフーシ派に対する空爆を行っている。これに対してフーシ派は国境を接するサウジアラビア南部をミサイル及びドローンで攻撃していたが、UAEの領土を直接攻撃したのはこれが初めてである。

アブダビのAl Dhafra 空軍基地には米国とフランス空軍が駐留しており、また同国が世界有数の産油国であることから、事件は国際的な反響を呼んだ。UAEはF16戦闘機でイエメンのミサイル発射基地に報復爆撃を行った[2]。さらに同国は国連安保理に提訴するとともに[3]、アブダビ皇太子(実質的なUAEの指導者)は急遽米国のオースチン国防長官と電話会談を行っている[4]。UAEのあわてぶりがうかがえる。

２．イエメン内戦へのUAEの関与

2011年のアラブの春でサーレハ大統領(当時)が失脚したイエメンは、その後北部を支配するフーシ部族(フーシ派)と首都サナアのハディ大統領を中心とする勢力(政府派)が対立、2015年には本格的な内戦に発展した。劣勢の政府派は首都サナアを放棄してアデンに撤退、さらにアデンに戦火が及ぶと大統領以下政府首脳はサウジアラビアに避難するありさまとなった。このためサウジアラビアはUAE、スーダンなどスンニ派アラブ数か国を巻き込んで有志連合軍を結成し支援に乗り出した。

地上戦闘能力の弱い政府勢力は本来相容れない南部独立派(南部暫定評議会)と共闘態勢を組みフーシ派に対抗した。前線では南部独立派を主体とする地上軍が有志連合軍による空爆及び武器弾薬の支援を受ける形となり、これに対するフーシ派は同じイスラム教シーア派のイランから武器弾薬の提供を受けて政府派・南部独立派連合軍に対抗した。イエメン内戦はサウジアラビアとイランの代理戦争の様を呈したのである。

UAEは南部独立派を支援し、イエメンから租借したソコトラ島の空軍基地から出撃した。しかし政府派と南部独立派の内部対立が表面化するに及んでUAEは2019年には派遣部隊を撤退している[5]。現在は表向きGiant Brigadeと呼ばれる現地部隊に軍事支援を行うにとどまっている。なお1月にハイジャックされたUAE船籍の貨物船はソコトラ島からサウジ南部の港に向かっていたものであり、UAEは積み荷が人道支援物資であったと主張しているが、武器を積載していた可能性は否定できない。

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