1.はじめに
10月14日ウィーンのOPEC本部において第157回総会が開かれ現在の生産量を維持することが決定された 。現在の生産量は2年近く前の2008年12月の総会で決められたものであり、イラクを除く加盟11カ国の同年9月の実生産量2,905万B/Dを420万B/D削減して2,485万B/Dとするものであった 。11カ国とはサウジアラビア、イラン、ベネズエラ、アルジェリア、ナイジェリア、リビア、クウェイト、UAE、カタール、アンゴラ及びエクアドルである。インドネシアが前年に脱退し、2008年からアンゴラ及びエクアドルが新たに加盟している(エクアドルは厳密には再加盟)。
当時の原油価格は投機マネーの流入により前年後半から異常な値上がりを見せ、2008年7月に史上最高の147ドルを付けたかと思うと一転して急落、12月の第151回総会時には30ドルすれすれまで暴落した。その後420万B/DというOPECの大幅な減産が奏功して原油価格は70ドル台に持ち直した。
OPEC関係者は70~80ドル(バレル当たり)の価格帯をテニス用語にたとえて「スイート・スポット」と呼んでいる。この価格水準であれば、世界経済の足を引っ張ることもなく、また産油国には相応の石油収入がもたらされ、さらに新たな油田開発投資を呼び起こすことができると言うのがOPECの主張である。これ以下の価格であれば産油国・石油開発企業の生産意欲が減退し長期的な安定した石油供給が困難になり、一方価格がこれ以上高い水準になれば世界経済の不況が一層深刻化する。つまり70ドル台は消費国、産油国そして石油開発企業のいずれもが満足できる価格と言う訳である。
70ドル台の「スイート・スポット」は現在も続いており、OPECは2008年12月以降2年近くの間、生産量の変更に手をつけていない。今年創立50周年を迎えたOPECは創設期から1979年の第二次オイルショックまでのほぼ20年間は原油価格の支配権をメジャーから奪い取ることに精力を注ぎ、その後20世紀末までの20年間は激動する世界経済の中で加盟国の生産量を調整することで価格を維持しようと腐心した。創設からの40年はOPEC激動の時代であったと言えよう 。 21世紀に入ってもOPECの市場との戦いは続き、景気の後退による油価下落への対応(減産)に追われたかと思うと、一方では投機マネーによる実需を無視した価格高騰に対する先進消費国からの圧力への対応(増産)を迫られた。
現在OPECは2年近くにわたり平穏な状態にある。OPECがかくも長期間にわたり無風とも呼べる状態を経験したことはかつてなかった。OPECは今「至福の時代」にあると言えよう。創立50年を迎えOPECのウィーン本部はドナウ川を渡り市内中心部に移転した。そして今回の総会ではナイジェリア代表としてOPEC史上初めての女性石油大臣を迎えた。新たな半世紀に踏み出したOPECに新しい風が吹き始めたと言えるのかもしれない。
しかしOPECにはこれからも次々と難題がふりかかるであろう。それがどのようなものであるかを予測することは難しいが、現在でも問題の萌芽のいくつかを指摘することはできる。例えばOPEC内部の問題としては2008年12月に決めた420万B/D減産の約束が守られていない問題、或いは今回の総会直前に相次いで発表されたイラクとイランによる確認可採埋蔵量の上方修正の動き(これはイラクを含めた新たな国別生産枠と言う問題に結びつくと考えられる)などである。また外部要因としては歯止めのないドルの下落により投機マネーが再び石油市場に戻ってくるのではないかという2年前の異常事態の再来を想起させる。
本稿ではOPECの現状を分析するとともに将来の問題点或いは課題について私論を述べてみたい。
(続く)
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