石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

新たなる半世紀に踏み出したOPEC(1)

2010-10-16 | OPECの動向

1.はじめに
 10月14日ウィーンのOPEC本部において第157回総会が開かれ現在の生産量を維持することが決定された 。現在の生産量は2年近く前の2008年12月の総会で決められたものであり、イラクを除く加盟11カ国の同年9月の実生産量2,905万B/Dを420万B/D削減して2,485万B/Dとするものであった 。11カ国とはサウジアラビア、イラン、ベネズエラ、アルジェリア、ナイジェリア、リビア、クウェイト、UAE、カタール、アンゴラ及びエクアドルである。インドネシアが前年に脱退し、2008年からアンゴラ及びエクアドルが新たに加盟している(エクアドルは厳密には再加盟)。

当時の原油価格は投機マネーの流入により前年後半から異常な値上がりを見せ、2008年7月に史上最高の147ドルを付けたかと思うと一転して急落、12月の第151回総会時には30ドルすれすれまで暴落した。その後420万B/DというOPECの大幅な減産が奏功して原油価格は70ドル台に持ち直した。

OPEC関係者は70~80ドル(バレル当たり)の価格帯をテニス用語にたとえて「スイート・スポット」と呼んでいる。この価格水準であれば、世界経済の足を引っ張ることもなく、また産油国には相応の石油収入がもたらされ、さらに新たな油田開発投資を呼び起こすことができると言うのがOPECの主張である。これ以下の価格であれば産油国・石油開発企業の生産意欲が減退し長期的な安定した石油供給が困難になり、一方価格がこれ以上高い水準になれば世界経済の不況が一層深刻化する。つまり70ドル台は消費国、産油国そして石油開発企業のいずれもが満足できる価格と言う訳である。

 70ドル台の「スイート・スポット」は現在も続いており、OPECは2008年12月以降2年近くの間、生産量の変更に手をつけていない。今年創立50周年を迎えたOPECは創設期から1979年の第二次オイルショックまでのほぼ20年間は原油価格の支配権をメジャーから奪い取ることに精力を注ぎ、その後20世紀末までの20年間は激動する世界経済の中で加盟国の生産量を調整することで価格を維持しようと腐心した。創設からの40年はOPEC激動の時代であったと言えよう 。 21世紀に入ってもOPECの市場との戦いは続き、景気の後退による油価下落への対応(減産)に追われたかと思うと、一方では投機マネーによる実需を無視した価格高騰に対する先進消費国からの圧力への対応(増産)を迫られた。

現在OPECは2年近くにわたり平穏な状態にある。OPECがかくも長期間にわたり無風とも呼べる状態を経験したことはかつてなかった。OPECは今「至福の時代」にあると言えよう。創立50年を迎えOPECのウィーン本部はドナウ川を渡り市内中心部に移転した。そして今回の総会ではナイジェリア代表としてOPEC史上初めての女性石油大臣を迎えた。新たな半世紀に踏み出したOPECに新しい風が吹き始めたと言えるのかもしれない。

しかしOPECにはこれからも次々と難題がふりかかるであろう。それがどのようなものであるかを予測することは難しいが、現在でも問題の萌芽のいくつかを指摘することはできる。例えばOPEC内部の問題としては2008年12月に決めた420万B/D減産の約束が守られていない問題、或いは今回の総会直前に相次いで発表されたイラクとイランによる確認可採埋蔵量の上方修正の動き(これはイラクを含めた新たな国別生産枠と言う問題に結びつくと考えられる)などである。また外部要因としては歯止めのないドルの下落により投機マネーが再び石油市場に戻ってくるのではないかという2年前の異常事態の再来を想起させる。

 本稿ではOPECの現状を分析するとともに将来の問題点或いは課題について私論を述べてみたい。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

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今週の各社プレスリリースから(10/10-10/16)

2010-10-16 | 今週のエネルギー関連新聞発表
10/12 石油連盟他   地球温暖化対策基本法案の閣議決定について http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2010/10/12-000449.html
10/12 国際石油開発帝石  富山ライン(仮称)の建設に向けた詳細調査の開始について(お知らせ) http://www.inpex.co.jp/news/pdf/2010/20101012.pdf
10/13 国際石油開発帝石   西ジャワLNG洋上受入基地へのLNG供給契約に関する基本合意書の締結について(お知らせ) http://www.inpex.co.jp/news/pdf/2010/20101013.pdf
10/14 丸紅   LNG船の保有・運航事業に参入 http://www.marubeni.co.jp/news/2010/101014a.html
10/14 OPEC   OPEC 157th Meeting concludes http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/1906.htm
10/14 OPEC   Opening address to the 157th Meeting of the OPEC Conference http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/1905.htm
10/14 OPEC   OPEC Conference approves new Long-Term Strategy http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/1907.htm
10/15 石油連盟   天坊 石油連盟会長定例記者会見配布資料 http://www.paj.gr.jp/from_chairman/data/2010/index.html#id451
10/15 石油連盟   第157回OPEC定例総会終了にあたって(会長コメント) http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2010/10/15-000450.html
10/15 国際石油開発帝石   イラン・イスラム共和国 アザデガン油田開発プロジェクトからの撤退について http://www.inpex.co.jp/news/pdf/2010/20101015.pdf
10/15 伊藤忠商事   米国ナイオブララ・シェールオイル開発事業について http://www.itochu.co.jp/ja/news/files/2010/pdf/news_101015_01.pdf
10/15 丸紅   豪州における中規模LNGプラントの事業化調査の実施でEastern Star Gas社と合意 http://www.marubeni.co.jp/news/2010/101015.html
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第157回OPEC総会(10/14)速報

2010-10-15 | OPECの動向
第157回OPEC総会の概要
 第157回OPEC総会は10月14日オーストリアのウィーンで開催され、現行の生産量(注)を維持することを合意した。
 また2005年以来2回目のLong-Term Strategy(LTS, 長期戦略)を策定することになった。LTSの概要は次回総会で発表される予定。 
 なお次回総会は12月11日、エクアドルのキトーで開催。また来年の議長としてイランのカズミ石油相を選任した。

(注)2008年12月の第151回総会では同年9月の実生産量のうちイラクを除く11カ国で420万B/Dを削減し2,485万B/Dを生産目標とすることを決定している。

(関連プレスリリース)
OPEC 157th Meeting concludes
Opening Address to the 157th Meeting of the OPEC Conference
OPEC Conference approves new Long-Term Strategy

(参考レポート)
拙稿「OPEC50年の歴史をふりかえる
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これからが正念場のBP(5)

2010-10-14 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。

5.CEOの交代と資産売却で苦境乗り切り
 メキシコ湾の汚染問題と赤字172億ドルの中間決算と言う最悪の事態は人事と財務の両側面に深刻な影響を及ぼしている。人事の側面では当然のことながらトップの経営責任問題が問われ、10月1日付けでCEOのTony Haywardが退任し、Robert Dudleyに交替することが中間決算と同時に発表された 。Hayward氏は2007年にCEOに就任、手堅い手腕で安定した業績をあげておりその地位は当面安泰と見られていたが、今回の事故で米国の国会議員たちから槍玉にあげられ進退が極まった形である。

 新CEOのDudleyはもともと米国Amoco社出身の米国人であり、1998年にBPがAmocoを吸収合併したためBP社員になった。彼は2008年までBPとロシアの合弁石油TNK-BP社の社長として現地で陣頭指揮をとっていた。BPは石油生産量の3分の1をTNK-BPに依存しており、Dudley氏は最も重要な子会社のトップということになる。ただ2008年にこの合弁企業の主導権を巡りロシア側とBPが対立、ロシアはDudley氏の出国ビザを出さないなどの嫌がらせを行い、結局彼は社長を辞任したと言う経緯がある。

苦境のもう一つの側面である財務面であるが、そもそもBPの財務内容そのものは極めて良好であり855億ドルという手厚い株主資本がある。従って中間決算で計上した321億ドルの事故関連費用が結果的に多少上方修正されることがあったとしてもBPの屋台骨そのものが今回の事故で揺らぐことは無いと思われる。しかし過去に蓄積した株主資本をそのまま食いつぶすことは株主が許さないであろうし、だからと言ってこのまま手をこまねいていたのではBPは今後ExxonMobil及びShellに伍する超一流企業の地位を失う。

結局BPは当面は事業の中核ではない非中核的(ノンコア)資産を売却して必要資金を捻出しなければならない。7月中間決算でBPは今後18カ月で250-300億ドル規模の上流資産を中心としたノンコア資産の売却方針を示し、また2010-2011年の年間投資額を1割減の180億ドルに修正すると発表した。さらに前年度水準で75億ドルに相当する本年度の配当を見送ることについて株主の理解を求めた。

まず手を付けたのがカナダ、米国及びエジプトに有する石油・天然ガスの資産を米国の中堅エネルギー企業Apache社に売却することであった 。またコロンビアの権益を開発パートナーに売却する件 と合わせて約89億ドルを捻出している。このほかベトナム、パキスタンなどの資産を売却すると伝えられている。一方メディアには中東或いはアジアのBP資産の取得に色気を示すクウェイトの動きが報道される など、まさに死肉に群がるハイエナの様相すら呈している。

6.今後のBPは?
BPの資産売却計画は今後1年半に250-300億ドル規模とされ、この場合BPの資産規模はほぼ10%縮小し、石油と天然ガスを合計した生産量も現在の400万B/D(石油換算)から350万B/D前後に減少すると見込まれている 。

BPはノンコア資産売却の一方、今後の事業展開の焦点を発展著しい中国やインドなどアジアでの販売強化に重点を移す意向を示しており、同社販売部門のPaul Reed副社長は12月1日をめどに組織の簡素化とリストラが実施されると語っている 。

人事面では同社トップがBP生え抜きの英国人からBPに吸収合併されたAmoco出身の米国人Dudley氏に交代した。このことは米国の議会或いは世論対策にプラスに働くであろうが、逆に誇り高いBPプロパー社員には事故に対する米議員の一連のBPバッシングとともに割り切れないしこりを残し、今後のBP社内の結束にひびが入ることが懸念される。さらに日本支社を含め世界90カ国以上で約9万人の従業員を擁している同社が 、一部海外事務所の閉鎖を含め大規模なリストラを行う可能性も否定できない。

(完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
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これからが正念場のBP(4)

2010-10-13 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。

4.最悪の中間決算
 事故真っ只中の7月27日、BPは2010年第2四半期の決算を公表した 。前年同期の黒字44億ドルから一転、172億ドルという巨額の赤字決算であった。深海底の暴墳箇所を抑え込み原油流出を食い止める作業及び救助井(Relief well)により永久的に封じ込める作業による直接的な費用は言うまでもない。流出した原油の回収作業や地域住民への補償の負担など今後見込まれる321億ドルの費用を計上したためである。邦貨換算で約1.4兆円と言う巨額の赤字であり、英国企業の歴史上でも最も大きいものであった。

 「米国民の税金は1セントたりとも使わない」と述べるオバマ大統領の強い姿勢に対して反論の余地もないBPは6月中旬に200億ドルの補償基金の設立に追い込まれた。これを含めた当座の見込み費用が321億ドルと言う訳である。しかし最終的な費用がどうなるかはBP自身にも予測がつかない。

 BPはExxonMobil、Shellと並びスーパーメジャーと称される世界の三大石油会社の一つである。3社の売上高及び利益はこれまで常に世界のトップクラスを占め、近年石油価格が高水準に推移する中でその地位は不動のものであった。

 昨年度の3社の業績とその中におけるBPの地位を比較すると 、売上高はExxonMobil 3,106億ドル、Shell 2,782億ドル、BP 2,393億ドルと、3社の中ではBPが最も小さい。しかしBPの利益はExxonMobilの193億ドルに次いで2番目に多い166億ドルでありShellの125億ドルを上回っている。売上高利益率で見た場合、BP 6.9%、ExxonMobil 6.2%、Shell 4.5%となりBPの利益率が最も高い。

 生産量ではBPの石油生産量は2,535千B/Dであるが、これはExxonMobil(2,387千B/D)及びShell(1,678千B/D)を上回っている。3社の天然ガス生産量に差は無いので、結局石油と天然ガスを合わせた生産量ではBPがトップであった。

 また2006年から2009年までの4年間の売上高利益率の推移をみるとBPは8.3%(06年)→7.3%(07年)→5.9%(08年)→6.9%(09年)である。これに対してExxonMobilは10.5%→10.0%→9.5%→6.2%、Shellは8.0%→8.8%→5.7%→4.5%と利益率の低下傾向が見られ、特にShellは落ち込みが激しい。3社の中ではBPが最も安定していることがわかる。

 さらに同じ4年間の石油と天然ガスの合計生産量を見ると、BPの場合、2006年の生産量393万B/D(石油換算、以下同じ)が2007年は382万B/D、2008年384万B/D、2009年400万B/Dとほぼ一定の水準で推移している。一方ExxonMobilは2006年の424万B/D以降漸減して2009年には393万B/Dとなりトップの座をBPに明け渡している。Shellも4年間で生産量が32万B/D減少するなど両社とも生産量の減退に歯止めがかからない状況である。生産の面でもBPの安定度が光っている。
 
(続く)

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(10月12日)

2010-10-12 | 今日のニュース
・イランとイラクが石油埋蔵量世界3位争い。イラン、埋蔵量を上方修正。
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ニュースピックアップ:世界のメディアから(10月10日)

2010-10-11 | 今日のニュース
・クウェイトでGCC石油相会議、14日のOPEC総会を前に意見交換

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ニュースピックアップ:世界のメディアから(10月10日)

2010-10-10 | 今日のニュース
・OPEC総会の焦点は削減枠遵守
・カタール、カナダ向けLNG供給契約をRepsolと締結  *

*参考レポート「シェールガス、カタールを走らす
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ニュースピックアップ:世界のメディアから(10月9日)

2010-10-09 | 今日のニュース
・イラン経済制裁強化なら、原油調達先はGCC諸国に切り替え:コスモ石油
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これからが正念場のBP(3)

2010-10-09 | 海外・国内石油企業の業績

(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。

3.株価暴落と飛び交う噂
 BPの株価は事故発生と同時に急落、その後事故の復旧に時間がかかること、また原油漏出による海洋汚染が極めて深刻であることが判明すると、株価は底なしの状態となった。好調な石油価格のおかげで、それまでのBPの株価はExxonMobil、Shellなど他の国際石油企業と肩を並べ、事故直前のニューヨーク株式市場におけるBP株価は60ドルを超える水準であった。しかし事故直後から株価は一気に下落し、6月にはついに30ドルを割った(最低値は26.75ドル)。その結果BPの株式時価総額は約600億ドルと事故前より1,000億ドル近く下落したのである。

 時価総額600億ドルという数値を目にした市場では合併、乗っ取りなどの噂が飛び交った。まず最初にShellがBPを救済合併するという噂が広まった。BPとShellはかつてセブン・メジャーの一角を占め、今もExxonMobilと共に三大スーパーメジャーと言われる巨大石油会社である。両社のルーツが共に英国であることが噂を呼んだのであるが、Shellは直ちに否定した。

いかにルーツが同じとは言え両社は生い立ちが全く異なる。BPはかつてアングロ・イラニアン石油と称し、大英帝国をバックにイランやカスピ海で石油操業を行う英国の国営石油会社であった。これに対しShellはインドネシア、ビルマ(ミャンマー)、マレーシアなど主に東南アジアで石油を生産、極東の日本などで販売を行ってきた純民間会社である。両社は性格がことなりBP社内もShellとの合併には強い抵抗感があったと思われる。

 次に名前が挙がったのは中国及びリビアの国営石油会社である。中国のPetroChinaはBPに熱烈なラブコールを送り 、一方リビア国営石油の会長は政府系ファンドのLIA(Libyan Investment Authority)がBPを買収すべきであると語った 。中国は米国に次ぐ世界第二の石油消費国であり、国内の生産量と消費量の差、いわゆる自給率も2007年に50%を割り、2009年は44%となり、石油の輸入量は年々急増している。このため中国は海外の油田権益の獲得に加え既存の石油会社の買収も目論んでいる。しかし2005年のCNOOC(中国海洋石油)の米国ユノカル社買収問題に見られるように、外国石油企業の買収はその国の政府・議会及び世論から反発を受けて頓挫するケースが多い(結局ユノカルは同じ米国のシェブロンテキサコと合併)。中国とリビアのBP買収話も立ち消えになった。

 乗っ取りの危険に晒されたBPは安定株主工作を画策した。乗っ取りの意図は無く、また現経営陣にも口出しをしないいわゆる「ホワイト・ナイト(白馬の騎士)」探しである 。ヘイワードCEOが目指した先は湾岸産油国であった。彼はアブダビに飛び同国の政府系ファンドADIA(アブダビ投資庁)に出資を要請した。アブダビを訪れたヘイワードCEOはムハンマド皇太子ら要人と会談、皇太子からは出資に前向きな発言もあったが 、全般的なムードは消極的でありBPへの出資は見送られた 。

クウェイトについてはKIA(クウェイト投資庁)がBP持ち株比率を引き上げる見込みとの報道が流れた。英国とクウェイトは歴史的に強いつながりがあり、KIAは以前からBP株1.75%を所有している。しかしクウェイトKIAの追加出資についてもその後BPとクウェイト双方が報道を否定し話は立ち消えた 。

  アブダビ及びクウェイトがBPへの出資或いは追加出資を躊躇したのは、2005年の中国CNOOCによるユノカル買収失敗例があったからと見られる。戦略産業である石油企業の買収は相手国の世論を刺激する。まして英国にはアラブ・イスラムに対する強いアレルギーがある。アブダビ及びクウェイトの為政者たちは、英国の象徴的企業とも言えるBPの大株主として自らが表舞台に出ることのリスクを測りかねたのであろう。

 一時は30ドルを割ったBPの株価も現在では40ドル台に戻っている。それでも事故前に比べると3分の2の水準であるが、とにもかくにもBP買収の噂は下火になった。

(続く)

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