10/6 JXホールディングス 本日の一部報道について (注 根岸製油所閉鎖) http://www.noe.jx-group.co.jp/newsrelease/2010/20101006_01_1050061.html
10/8 昭和シェル石油 「シェル美術賞2010」 受賞者決定 および 表彰式、展覧会のご案内 http://www.showa-shell.co.jp/press_release/pr2010/1008.html
さまよう3羽の小鳥(2)
「マフィア」は饒舌であった。先の見えない不安感を忘れるために彼はひたすら喋りまくった。生まれ故郷ウクライナの農村での貧しかった時代。ソビエト連邦の崩壊をきっかけに新天地を求めてイスラエルに移住した一家。移住先で与えられた荒野の開拓地での父母の奮闘。一族の期待を背に空軍に入隊し優秀なパイロットとして頭角を現したこと。今回任務を完遂したことで無事帰還すれば名誉の勲章と昇格が待ち受けているに違いないこと等々-----
マフィアは「無事帰還すれば----」と言うと急に黙りこくってしまった。
「アブダラー」は二人とは対照的に終始寡黙であった。イラン領空を脱した直後から体に不調を感じ始めていたのである。2週間ばかり前、高熱を出し入院していた姪を見舞いに姉の嫁ぎ先近くの病院を訪れた。その後彼自身も微熱を出したが、幸い寝込むほどのことはなかった。ただそのことは仲間に伏せていた。もし体の不調を訴えればメンバーからはずされたに違いない。彼は3人のパイロットの一人に選ばれた栄誉を失いたくなかった。
アラブのミズラフィム出身である「アブダラー」は「エリート」のようなアシュケナジム出身者たちとは陰に陽に差別されてきた。そのため彼の友人の中には過激組織ハマスに身を投じる者も少なくなかったが、彼自身はイスラエル国民として生きる道を選んだ。「人は国家を選べない以上、国家とともに生きる。」それが彼の信念であった。そして軍隊に志願し忠実に義務を果たした結果、今回国家的使命を帯びたパイロットに選ばれた。そのため何としても今回の任務をやり遂げたかったのである。
彼はまだ独身である。両親は既に亡くなっている。彼の身内は姉とその娘のルルの3人だけである。それだけに彼と姉との結びつきは強い。そして姪のルルは彼によくなついていた。
そんなルルが数週間前に高熱を出し、「叔父ちゃん!叔父ちゃん!」とうわ言を言っていると姉が伝えてきた。彼はその週末に急いで病院に駆け付けた。幸いにも熱は引いており、ベッドに起き上がった姪に彼は絵本を読み聞かせてやった。姪は彼の腕を抱え込みうれしそうに聞き入っていた。付き添いの姉が「ルル!そんなにくっ付いちゃ叔父さんに風邪が移っちゃうよ。」と注意したが彼女は抱え込んだ腕を離そうとしなかった。
「アブダラー」はヘルメットを脱ぐと首にぶら下げたロケットを戦闘服の襟もとから取り出し蓋を開けた。そこには彼の唯一の肉親である姉と姪の写真が入っている。<週末にはまた姪に会いに行こう> 心の中で呟くと彼はいとおしむように写真を眺めた。
その時、喉の奥につかえを覚えた。<風邪は治ったはずなのに-------> 彼は数度咳き込んだ。それはまるで彼の意思とは無関係に何者かが体外に飛び出そうとするかのようであった。咳とともに喉の奥の飛沫が姉と姪の写真の上に飛び散った。「アブダラー」はそのままロケットの蓋を閉じ胸にしまい込むと、ヘルメットを装着し直した。
「どうしたんだ?」。
「エリート」の心配そうな問いかけが入った。膝に置いたヘルメットのマイクロフォンが咳き込む音を拾ったらしい。
「何でもありません。任務が終わって緊張が解けたためと思われます。」
実のところ「アブダラー」は緊張が解けた訳ではなかった。彼には気がかりなことが一つ残っていた。操縦する戦闘機の胴体に抱えている小型核ミサイル---------。
<これだけは無事に基地に持ち帰らなければ> 彼は心の中でそうつぶやいた。
ペルシャ湾上空をホルムズ海峡へと向かう戦闘機は母国からますます遠ざかるばかりである。彼は前方に拡がるペルシャ湾の紺碧の海と真青な空をただじっと凝視した。
(続く)
(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)
(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー」に一括掲載されています。
2.史上最大の原油の漏出とその補償費用
4月22日に始まったメキシコ湾MC252号井からの原油漏出はBP及び掘削会社の必死の努力により、海底の破断個所にキャップをかぶせパイプ内にMud(泥水)を注入することにより7月には新たな流出は止まった。そして事故後の5月4日に掘削を開始した救助井(relief well) が9月19日、海底下のMC252号井を捉えてセメントを注入し同井は永久に封印された 。MC525号井は完全に死んだ(kill the well)のである。
今回の暴墳によりメキシコ湾にどれほどの量の石油と天然ガスが流出したか正確に計測することは不可能である。事故当初は種々の観測値が報道されたが、現在では原油流出量2億6百万ガロンと言うのが最大公約数的な数値のようである 。バレルに換算すると490万バレル、日本が1日に消費する石油とほぼ同じ量である 。過去の海洋石油汚染事故を見ると、1989年にExxonMobil(当時Exxon)の原油タンカーがアラスカ沿岸で座礁した時に流出した原油の量が26~75万バレルと言われており、また1997年に日本海沖で座礁したナホトカ号の総流出量が4万バレル程度であったことと比べ今回の流出量が如何に大きかったかということが解るであろう。
事態を重く見た米国のオバマ大統領は事故直後、立て続けに4回にわたり現地を視察、BPに対して徹底的な事故原因の究明と、予想される被害に対する全面的な賠償措置を要求した。「米国民の税金は1セントたりとも使わない」と主張するオバマ大統領のパフォーマンスに対して英国の一部では反米論調も見られ、最大の同盟国の米英関係にもひびが入りかねない様相を見せるほどであった。その後オバマ大統領はホワイトハウスにBPのヘイワード会長を呼びつけ、200億ドルの補償基金を設立することを呑ませた 。
名にし負う訴訟社会の米国である。事故の直後から賠償請求が続発、6月中旬にはBPの支払額は1億ドルを超えた 。米国政府が州兵を動員した費用2.2億ドルの請求書を出すなど、7月中旬までにBPには11万4千件の補償請求があり、BPはそのうち3万2千件2億ドル相当を支払っている 。BP発表ではこの額はその後さらに膨らみ7月下旬に2.56億ドル、8月初めには3億ドル、同下旬には4億ドルを超えている 。
これまでBPが支払った補償額はあくまでも流出事故による直接的な被害額もしくは環境調査のための費用に過ぎない。沿岸漁業者たちの逸失利益などは今後の法廷闘争の結果如何であり、果たしてBPの補償額が最終的にどの程度の規模になるかは全く見通しが立たない。さらにBPに重くのしかかりそうなのが原油流出に対する罰金である。米国連邦法では流出量1バレル当たり1,100ドルが科され、重大な過失と認められた場合はそれが4,300ドルに跳ね上がる 。もし重大な過失と認定されれば罰金は1兆5千億円を超えることになる。
(続く)
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さまよう3羽の小鳥(1)
ナタンズ爆撃作戦の任務を終えたイスラエル空軍の3機の戦闘機は追手を振り切ってイランの領空外に抜け出した。
しかしそこで待ち受けていたのは進路を南にとりペルシャ湾上空をホルムズ海峡に向かえ、という指令であった。程なく司令部から、給油機がサウジアラビア領内で撃墜された、との驚愕すべき情報がもたらされた。当初の作戦では往路と同じルートでイスラエルに帰還する途中に空中給油機が出迎え、燃料を補給して基地に戻ることになっていた。親鳥が3羽の小鳥の労をねぎらい餌を腹いっぱいに与え、そして全員で意気揚々と基地に舞い戻る予定だったのである。
その親鳥の出迎えがないまま3機は当てもなくペルシャ湾上空を南下した。残された燃料はあと1時間程度しかなく、ホルムズ海峡を越えることもできないことは確かだ。このままではペルシャ湾に不時着する他なく、墜落前にパラシュートで脱出したとしても、誰が彼らを拾い上げてくれるのだろう。左岸はさきほど空爆したばかりのイラン、右岸はサウジアラビア、バハレーン、カタール、UAEなどイスラエルの仇敵のアラブ諸国である。イランの巡視船或いは漁船に助けられたなら目も当てられない。かと言ってアラブ諸国の哨戒艇か漁船に助けられたとしても晒し者にされることは間違いない。いずれにしてもパイロット達にとっては勝利の凱旋どころではなさそうだ。
不安に駆られたパイロット達の反応は三者三様であった。「エリート」は内心の動揺を抑えリーダーとして冷静沈着さを装った。彼は僚機の「マフィア」と「アブダラー」に落ち着くように諭し、指令部が何らかの救出作戦を講じるに違いない、と元気づけた。確信があった訳ではない。しかしこれまでもイスラエル軍はどのような困難な状況でも決して仲間を見殺しにすることはなかった。司令部は必ずや自分たちを救出してくれるはずだと「エリート」は信じたかった。
彼の根拠の一つ。それは米軍がペルシャ湾内に展開していることであった。バハレーンには第五艦隊が配備されており、またカタールのウデイドには米中央軍の前線司令部があった。さらに湾内のホルムズ海峡近くには現在原子力空母「ハリー・S・トルーマン」が遊弋しているはずである。
<作戦本部は米軍を動かして自分たちを救出してくれる。親父がそれに一枚かむに違いない。>
「エリート」と僚機の3機は雲一つない紺碧の空と穏やかなエメラルドグリーンの海の狭間を飛び続けた。
(続く)
(この物語は現実をデフォルメしたフィクションです。)