新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

現在の世界の景気を考えれば

2016-04-04 15:14:57 | コラム
「アベノミクスは失敗した」と民進党の幹部が:

先日、安住だったと思うが、テレビでしたり顔でアベノミクスを批判していた。まさしく「何を抜かすか」である。彼らは自分たちが政権を預からせて頂いていた時に何も出来なかったことを、あの年齢でも綺麗サッパリと忘れていたようだったから、病院にでも行く方が良いかも知れない。また、先日久しぶりに乗ったタクシーでは運転手さんが「景気が良くなったと言うが、我々の段階にまでは一向に降りてこない」と言って嘆いた。

私はアベノミクスは未だ失敗などしていないと思う。未だ国民全部が感じるほどの成功を収めていないだけだと思う。大体からして我が国の景気がそんなに悪いと思うのも短慮だと思う。仮令我が国の景気が悪くなっても、それが原因で近隣の諸国の景気まで悪くなったことがあったか。現在、中国の経済が破綻の道をまっしぐらのようなことを言うエコノミストや評論家が沢山いるが、あれは我が国の景気が悪いことの影響か?アメリカの景気もまた足踏みしたようだが、それが我が国がデフレや不況から完全に脱却し切れていなかったことに原因があるのか。

親しくしている商社マンが常に言っているが「関係先の中国の大手製紙会社に言わせれば、製紙不況に沈んでいると見なされている我が国の市場は、世界の何処よりも製品に動きがある。だからこそ人材を送り込んでは日本向けの輸出に励むのだ」そうである。これは何も製紙だけについて言っている訳でもないのが、現在における世界の景気の実態らしい。我が国は良い方だという説の裏付けにもなるように思うのだ。

此処では紙パルプ産業界だけを語ってみれば、今や世界の大手輸出国とは中国、ブラジル、インドネシア、韓国、台湾、タイ等々であり、これらの新興勢力が抱え込んだ生産設備は最新・最高・最近代化された効率が良い大型の抄紙機ばかりである。その為に彼らの凄惨能力は内需を遙かに上回る結果となり、輸出に活路を見出す以外に生きる道がなくなっているのだ。

実際に、1997年にインドネシアで最新鋭の設備を見た時には陳腐な言い方だが、我と我が目とこれまでの常識を疑ったものだった。それほど最新鋭の抄紙機は素晴らしく、ただ単に早いだけではなく長年多くの技術者が経験と勘にも頼って生み出してきたような高品質の製品が、高能率で超高速で作り出されていたのだった。しかもその設備は我が国のM重工業の製品だった。

しかも、今や往年のような小回りがきく小型の多能機を造ってくれる機械メーカーなどなく、その昔には大艦巨砲主義と言われたような人手を要しないコンピュータ制御のマシンしか新設出来ない時代となっているのだ。実はこの傾向を紙パルプ産業界のみの現象などとは言っていられないのだ。例えば、中国の鉄鋼産業界では年産能力が6~7億トンに達し、その内需と比較しての過剰分は我が国の年産能力である1億トンに相当すると言われている状態だ。こういう傾向が多くの新興勢力が抱える多くの産業の分野での過剰設備だと思っていて良いようだ。

その過剰設備だが、私の経験からも言えるのだが、過剰設備を抱え込んだ企業は大まかに言って「好況時に新規増設を計画し、その設備が稼働する時には好況が過ぎ去っていた」と言うようなことを繰り返した来たのだった。しかも、容易に売り切ることが出来ないメーカーほど「我が社には過剰設備などない、何処かの他社が過剰分を安売りしているだけで、責任は他社にある」と思い込んでいる節があった。

そこで新興勢力は先進国向けの輸出に注力するのだが、その狙う先はEU圏内かアメリカくらいしかないのだが、その先は皆景気が思わしくい状態で、先ほど商社マンの言を引用して述べたように、中国から見れば我が国を標的とせざるを得ないような業種が多々あるという状況だと、私は考えさせられている。アベノミクスはこのような勢の景気の中にあって円高を跳ね返し、株価を上昇させ、多少なりともベアを実行した業界と企業があるところまで持ってきたのだ。それでも、選挙が近づけば安住のようなことを言いたくなるものだ。

こういう世界の諸国が芳しくない景気に悩んでいる時だから、TPPのようなものがあれほど脚光を浴び、選んではいけなかった大統領に7年も政権を担わせたアメリカが一所懸命に何とか成立させようとなったのだ。私は「聖域なき関税撤廃」と聞いた時に嘲笑った。アメリカの何処がたとえ加盟12ヶ国内でも、輸出国になれる要素を秘めているのかと。経験上も言えるがアメリカは輸出に命をかけている国ではない。内需というか国内消費に依存している国だ。高率の関税をかけて中国やインドネシア等からの印刷用紙等を閉め出した事実を何度も指摘した。

また、加盟各国が「関税撤廃」を唱えていると言うことは「輸出をしたい。強化したい」という大きな狙いと願望があるからに他ならない。彼らとて当面の輸出相手としたい諸国がどれほど好況でどれほど輸入意欲があるか程度は承知しているはずだ。それでも、関税を取り払って輸入させたいとの狙いがあるのだ。だが、自国内で安値で良い製品を輸出されては困る業種がいくらでもあるから、我が国のように「守り抜くべき分野」の声が高まったのだった。

私はこのような策を弄する前に「如何にして内需を盛り上げるのか」に全勢力を集中することを優先すべきであり、その為には総理が繰り返し、劣化してしまった経営者たちに「昇級」を迫られたのは故なきことではなかったと信じている。「昇級が先」か「総合的な景気回復が先か」というような「卵と鶏の何れが先か」論に似たような点もあるが、如何にして過剰設備を合理化等で克服し、中小企業までが遍く昇級が出来るように努力するのが先で、関税撤廃などは喫緊の課題ではないように思えてならない。

些か極論めいたことを言うが、設備を完全に近代化すれば生産効率が上がってくるが、その陰には余剰人員も生じるものだ。また現在既に見られるようにICT化が進み、AIなどが多方面で活用されれば雇用の”security”も危うくなってくるだろう。そういう時代に入ってしまったことを認識出来ていない政治家や経営者たちにはなるべく早期にご引退願いたいのだ。時代にそぐわない政治や経営をやっている時期はとっくに終わっている。先ずは過剰な高所得者の排除という合理化から取りかかって貰いたいのだ。