Fish On The Boat

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『ハイデガー入門』

2019-03-07 00:02:49 | 読書。
読書。
『ハイデガー入門』 細川亮一
を読んだ。

20世紀に活躍した哲学者ハイデガーの主著
『存在と時間』を中心に、
本入門書の著者の言葉通り、
「ハイデガー哲学が動いている問題地平を
明らかにすることを目的にしている」本になっています。
原語でハイデガーを読む人のための入門書という位置づけのため、
本書では、中身の解釈にまでは立ちいっていません。

「哲学」というもの自体、
頭を使うもので、難しくて、
なかなかとっつきにくいものだったりしますが、
そんな「哲学」のなかでも、
ハイデガー哲学はとりわけ難解な部類に位置付けられる「哲学」だそうです。
なので、本書自体も難しいです。

『存在と時間』にあたるための外堀を埋めていくにしても、
古代ギリシャ哲学者である、
プラトンやアリストテレスから始めなければわからない。
『存在と時間』は、古代ギリシャからの存在論を甦らせるというか、
より一歩進めたような哲学のようだと僕は思いましたが、
『存在と時間』を読んでいないし、たぶん読まないので、
そこはわからないですね。
ただ、存在の意味への問いが、形而上学的(神学を含んでいる学問)にいえば、
それが「神」が答えになるところで、ハイデガーは「時間」を答えだとしてました。
さらに、ハイデガーは存在の意味においては、
神がそこに立ち上ってくることを嫌い(?)、
存在の真理を問うというかたちで回避していこうとしていくようなんですが、
もうね、なかなか、読み終わってしばらくたつと、
脳内から湯気のように蒸発していくような、
頭に定着しずらい難解な抽象的思考で構築されていました。

形而上学もそうだし、現象学もそうだし、
いろいろな基礎があって、ハイデガーは自分の哲学を創っていった。
そして、当時ナチスの時代ですから、
ナチズムとの間になにかスキャンダル的なことがあったらしいのですけども、
本書はスキャンダル的にならないことをモットーとして書かれているため、
まったくそれがどういった事件なりトラブルなりスキャンダルなりなのか
書かれていないのです。
その態で、ナチズムとハイデガーについて哲学的な面から論じられていて、
なんだか核心をベールで覆ったままみたいに、
すっきりしなかったですね。
なんていうか、ちょっと純だというか、
中身については、きれいすぎる本ではあります。

というわけで、ハイデガーの哲学そのものについては
わかるところがあまりなかったですが、
外堀を埋めていくところで、その周辺部に出てきたものが面白かった。
そのひとつは、現象学です。
「見る人」と「見られる物」、
その二つがあるとだけ認識してものを見る、と考えると何か足りない。
そう、光が足りないのです。
光が照射されているからこそ、
「見る人」は物を見ることができる。
現象学のこの考え方っていいなあと思いました。
これは「考える人」と「考えてもらう物」の二つだけとすると
不完全だってことに繋がります。
たとえば医療の現場で、
医者が患者を治療するところだけを見たり考えたりしてたんじゃ足りなくて、
なにがその病気を起こしているかを考えないと完全じゃない、
みたいな疫学的思考と現象学は繋がると思う。
現場が川下で疫学研究が川上と比喩したものも以前読んだ本にあったけれど、
現象学的な光の考え方ですよね。

それと、
関連してでてきたウィトゲンシュタインの哲学があって、
彼の「人が永遠性を無限な時間持続してではなく、
無時間性として理解するならば、
現在のうちに生きる者は永遠に生きる」っていうのが、
村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』の
結末のアイデア源なんじゃないのって思ってしまった。
しかも、読んでいくうちに、
この無時間性の永遠性って、
古代ギリシャから連綿と引き継がれてきた哲学のひとつだそうで、
ポピュラーなんだなあと、自分の無知を知りました。

また、
プラトンが言ったイデアの概念については、
実は学生時代にwebでいろいろ調べて考えた経験があって、
それが今回助けになったのでした。まあ、それでも難解でしたが。

というわけで、
ハイデガーについてもちょこっとでもなにか言いたいところですが、
本書の著者が、ハイデガーについてわかってもいないのに、
部分的につまみ食いしたようなものを語るべからず、と強くいっていますし、
そういったものは「おとぎ話」にすぎないと斬って捨てているので、
やめておこうと思います。
ハイデガーを知りたければ、まず入門書としてこういう本がありますが、
原書をあたらなければわからないということです。
翻訳したものもありますがそれは不完全すぎていて、
原語の単語単位で解釈しないとわからないところがあるから、
ちゃんとドイツ語を学んで読みなさい、ということです。
……厳しい世界ですね。

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