Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『ジョッキー』

2019-03-14 01:03:17 | 読書。
読書。
『ジョッキー』 松樹剛史
を読んだ。

2002年に刊行された、
第十四回小説すばる新人賞受賞作。
競馬モノです。

主人公・中島八弥はあまり騎乗依頼のないフリーの騎手。
そんな彼を中心とした競馬世界の日常にみることができるのが、
その勝負の世界であるがゆえの様々な人間模様と馬模様。
いつも金銭面で苦悩する八弥がはたしてどう生き抜いていくか。
読了して、この小説世界にでてきたキャラ達と別れるのが
名残惜しく感じられる、おもしろいエンタメ作品でした。

小説を書くのには、出だしが難しいと言われます。
新人賞ですし、そのあたり、少々難があるように感じました。
さらに、しばらくは「読みがたい…」と感じるところも続く。
(そのあたりは自分の書くものとの比較です。
自分のまずい文章と似ているところがあって、
それは直した方がよいように思うものです)
でも、読んでいくうちにずんずん文章がこなれていきますし、
巧みな部分もうまく活きてくるようになり、
存分に物語世界に没入できるようになりました。
もっと言えば、競馬の世界への知見が、
これを書いた当時23、4歳の若者にしては、
尋常じゃないくらいの広さと深みがあり、
そういったものに支えられて、
執筆が弾んでいるように感じられもしますし、
なかなか他人が真似しようと思ってもできない
その調査力、取材力が察せられます。
新人賞を勝ちえたのは、それらの勝利ですね。

知見に支えられたイマジネーションの深さによって、
読者をぐいぐい引き入れていく文章にどんどんなっていきます。
ただ、いくぶん、女性のキャラクターの造形が薄っぺらい。
主人公の後輩騎手なんて、面白みがあり、
でも、憎たらしいところもありながら、
それでも愛すべきキャラクターに仕立ててあるという旨さがありますが、
女性キャラは単調でうわべ的です。
終盤にかけて、若干厚みがでてきますが、
それでも、造形はもうちょっと足りないと思う。

ま、そういった部分があるにせよ、
騎手のテクニックについての描写など、
ふつうは書けないところにも踏み込んでいるし、
どんどん盛り上がっても行きますし、
エンタメとしてよかったなあという感想です。

競馬小説を読むのは、
もしかすると若い頃に読んだ、
宮本輝さんの『優駿』以来。
あの小説はあの小説ですごくおもしろいのですが、
この『ジョッキー』も良さのあるおもしろい小説でした。


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